オダマキ⭐︎ファンタジア

とびっこ

第1話

 なにもない荒野に1人の男が人形を持ち、空を見上げている。


「僕の人生はどこで間違えたんだろうか。」


 その問いに答えるものはいない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 孤児院を経営する両親のもとに生まれた僕は、他の人よりも恵まれていたんだと思う。この世界では戦争が絶えず行われており、孤児が多くいたからだ。一部の運がいい子供は、富裕層に拾われ戦士として育成される。しかし大抵は奴隷として生涯を終えるものが多い。その状況を見て、各国では子どもを守るために孤児院が多く作られた。僕の両親が経営するこの孤児院もその中の一つである。


 僕はなかなか子どもが出来なかった両親のもとに生まれた。そのため両親はそれなりに歳を取っており、僕を孫のように手塩をかけて育てた。その両親が1人だと可哀想だからと、経営している孤児院に連れて行かれることがあった。その孤児院では、親を亡くした子どもたちが互いに尊重しながら、集団生活を行なっていた。僕は子どもながらにして、この子たちはどう思って生活しているのだろうと思った。一人っ子の僕には、集団生活が特異のように見えたのだろう。


 孤児院の子どもたちは、礼儀が正しく大人びたように見えた。僕が特別幼いこともあり、様々なことを教えてくれた。言葉や文字はもちろん、遊びでも様々なことを教えてくれた。僕にとっては新鮮な世界だった。知らない世界を次々と開拓していったためだ。そして孤児院の子どもたちと、もっと仲良くなりたいと思っていった。


 しかし今は、これが大きな過ちだったのだと思う。


 ある日孤児院の子どもたちにこんなことを聞かれた。


「両親のいる生活ってどうなの?」


 子どもたちには、両親がいない。そのため純粋な疑問として浮かんだのだろう。僕は、


「両親には感謝してる。両親は優しいし、甘えられるからね。しかも僕がこの両親のもとに生まれなければ、君たちにも会えなかった。だからとても感謝してる。」


と答えた。するとその子どもは羨ましそうに、


「いいなぁ…。」


と言った。

 

 この会話の後、僕は距離を感じる機会が多くなった。まずこの会話の次の日に、孤児院の子どもたち数人に無視をされた。何を聞いても答えてくれなかった。その時の僕は、聞こえなかっただけなのだろうと思った。しかし現実は明らかな無視であった。


 数日後には文句を言う者が現れた。


「お前は両親に愛されてる。俺たちの気持ちも知らないで!ここに来るな!」


僕は悲しい気持ちになった。たしかに僕は両親から生まれてきた。そのために、僕は愛されている。しかし僕の両親は、孤児院の子どもたちも平等に愛していた。孤児院の子どもたちと平等に愛されていると思っていた僕には、他の子にはそんな目で見られていたのかと辛い気持ちになった。同時に自分だけが楽しかったのかと、恥ずかしさも感じた。


 この件以降、僕は孤児院に近づかないようになった。両親には


「どうしたの?具合でも悪いの?」


と聞かれたが、心配をかけたくない僕は、


「ただ行きたくないだけだよ。気分屋だからね。」


と答えるだけであった。この頃孤児院に行っていた時間は、裏山に行き時間を適当に潰していた。虫や動物たちを観察したり、同じ学校の子どもとたまに遊んで過ごしていた。しかし頭の片隅には、いつも孤児院の子どもたちのことがあった。遊んでいても、今頃孤児院では勉強の時間だろうなと、その日のスケジュールを思い出していた。


 数ヶ月が経ち、裏山での時間潰しにも限界がきた。まず僕はそんなに自然が好きな方ではなく、友達と遊ぶ時間のほうが好きであった。しかし学校の友達は、社会で成り上がるための勉強の時間が多く、遊ぶ時間は短かった。そのため孤児院の子どもたちが、恋しくなるばかりであった。そんな中、裏山に見慣れない子が1人遊んでいることを見かけるようになった。その子は可憐で、植物に囲まれているのが似合う女の子であった。僕はその女の子に軽い恋心を抱いた。所謂一目惚れってものになる。


 その女の子は少し涙を浮かべていた。どうやら足を怪我して、血が出ているようだ。大丈夫?と声をかけると、こちらを見て怯えている。僕は裏山で観察して覚えていた薬草を女の子の足に貼り、消毒させた。さらにポッケにある絆創膏を、女の子の足に貼った。女の子はこちらに笑顔を見せてくれたので、警戒を解かれたのだと思う。


 その後は2人で遊んだ。初めは2人ともでオドオドしながら遊んでいたが、時間が経つにつれすごく楽しくなっていった。


 遊び始めてから半月たったころ、僕は


「君は何処からきたの?」


と聞いた。その女の子はいつもより小さい声で、


「孤児院から…。」


と答えた。驚いたことにその女の子は僕の両親が経営する孤児院の子どもで、僕が来なくなったすぐ後に孤児院に入所したらしい。孤児院の子どもたちと馴染めず、裏山で遊ぶしかなかったそうだ。女の子は手に持っている人形をギュッと握りしめている。これを聞いた僕は決心した。


 "この子を幸せにしたい"


 そのために孤児院での居場所を作らなければと、子どもたちに会う決意を固めた。

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