第28話 囚われの君2
心を持たず、喋るはずのない
レオが素早く自分の外套をエステルに着せかけると、エステルはレオの腕に触れ、直接心の中に語り掛けた。
――ダメだ、レオ。私を助けようとしてはいけない。レオにまで害が及んでしまう。
――うん。まあ、この
自嘲的するように笑い、レオは念話の中で伝える。サラサラの白いショートヘア、作りものの完璧な顔が、エステルを見詰めている。
――また石棺の中に封印されてしまったら、二度とエステルに会えなくなる。そう思ったら、勝手に身体が動いてしまった。
だが、君のためにしてあげられることは限られている。――愛しているよ。例え何があっても、心折れずに生き延びて。僕の心は、君と共にある。
「勘違いするな、レオ。陛下の御前だ、控えよ」
エステルはレオを突き飛ばした。レオの言葉に胸が締め付けられ、また泣きたいほどうれしかったのだけれど、自分を庇うことで、レオが王の怒りを買ってしまうのではと恐れたから。
――ごめん、レオ。私がレオを守らなければいけないのに。
「――なるほど、な。余も知らぬことが、まだあったようだ」
王はニヤリと笑った。ディーデリックの興味は、エステルからレオに向けられる。
そして彼は、この時点ではまだ、意外な展開を面白がりさえしていた。
「
「ディーデリック、お前に提案がある。エステルの誓約紋を無効にしろ。対価は――僕の知識。
ダン!
ディーデリックは目にもとまらぬ速さでレオの首を片手で掴み、壁に叩きつけた!
壁にヒビが入るほどの衝撃だった。そのまま、長身のディーデリックに押さえつけられたレオは、足が空に浮いてしまっている。
「思い上がるな、人形の分際で。お前ごときの知識になんの価値がある?」
「お待ちください、陛下。
事の成り行きをハラハラしながら見ていた侍従が、ようやく口を挟んだ。
王家の至宝をディーデリックの短絡思考で損壊されたら、上王陛下(前国王)にどれだけ自分達が叱責を受けるかと気づいたのだ。
「うるさい、黙れ!」
侍従を怒鳴りつける王に、エステルが泣きながら縋りつく。
「陛下、どうかお許しを。レオに関してはこの私に責があります。私をいかようにも罰して下さい」
エステルを見降ろすと、ディーデリックは顔を歪めた。
「とんだ愁嘆場を見せてくれたな」
目を掛けてやろうと思った女は、選りにも選って人形に夢中。しかも臣下の前で自分が滑稽な役回りを演じさせられたとあっては、どうにも腹の虫が治まらない。
可愛さ余って憎さ百倍とばかりに、ディーデリックの瞳に危険なものが宿った。
「取引に応じろ、ディーデリック。僕の知識は古の時代のものだ。
レオは首を押さえつけられていても発声に何の問題もないらしく、ディーデリックを見つめながら話す。
「ハッタリではないと、証明するのに時間がかかり過ぎる案件ばかりではないか。それにどうもお前は、信用ならないし、危険なものを感じる。あのペテンの錬金術師の言い草ではないが、本当にただの人形というわけではなさそうだ」
ディーデリックはレオを片手で掴んだまま、窓辺へと移動した。
「歴代の王達は、何故危険なお前を王家の至宝などと言って大切に保存したのだろう? ならば余は、先代達の出来なかったことをして見せようではないか。エステルも、これで目が醒めるだろう」
レオの上半身が窓枠の外に乗り出されると、王の意図に気づいたエステルは悲鳴を上げた。
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