ヴァーチャルロード·テイルズ

よなが月

入学、そして僕は君と学生生活を楽しむ

ページ1 物語は何時だって突然に

人間は十人十色なんて言うけど……実際そうとも限らないと思ってしまう場面がある。


そう、学生なら誰しも学校で自分はどんな立場にいるのか……もっと言うと自分は自分らしくいることが出来ているのか不安になることってあると思うんだ。


僕……普田ただ蒼大あおともまたそう思う人間の一人だ。


うちのクラスは個性的な人ばかりで、僕みたいな地味な奴は肩身が狭くてしょうがない。


でも……が僕の全てを変えてくれた。


―仮想世界テスタミア大陸 果ての廃城


大手ゲーム会社ABYSSアビスが制作したVRMMO『コネクトファンタジア』……そのベータテスト最終日となるこの日が、蒼大にとっても最後の日となることは彼は思いもしなかった。


「おっ、主役はこれで一通り揃ったか」


転移門を潜り、廃城にやって来た蒼大……ヴァズールの横にいたのは彼の一番の友人クリムだった。


「運営は何を考えてるのか知らないけど……ここでの思い出を消す為に人為的にリアルの肉体に負荷をかけるなんてさせない!」


「お前の言ってる言葉はぶっちゃけよく分からんが、お前の体に何か悪い事が起ころうもんなら俺もただ黙ってるって訳にはいかねえよ」


四季四回に渡って行われたベータテストの実態、それはこの街のAI技術の研究の延長線でしかなかった。


それにいち早く気付いたクリムが自身の有する兵や有志を募り、一大勢力を築いて運営サイドに宣戦布告したのが事の発端だった。


「よぉしお前ら……死なない程度に派手に暴れようぜぇ!」


「僕に付いてきてくれる皆も……無理はしなくていい!でも……こんな僕に付いてきてくれた事……感謝します!」


二人の長の号令により、兵士達は運営……天界が呼び寄せた精鋭軍への攻撃が始まった。


「まぁ……なんだ。俺はもう一度お前と肩が並べたかったんだ……お前が魔王になったって聞いて、嬉しかったんだ。やっと俺と同じ魔族の仲間になったんだ……って」


「僕はこの世界でなら自分らしくいられる……だから、目指せる所まで目指したい!限界を超えた先に待つものを……確かめる為にこの力を使う!」


「そうか……ぃよし、俺達も仕掛けようぜ!ド派手な花火一発、打ち上げようぜ!」


「うん……じゃあ、行こう!」


二人は中央に光る柱に向かって駆け出した。


『まさか……ボクに実力行使をしようだなんて馬鹿な真似を』


二人の目の前に現れたのは青い六枚の翼を持つ天使の長……ゲームマスターだった。


「へっ、向こう側の神様はこっちでも威張り散らすたぁいい度胸じゃねぇか、アンタ」


「貴方がゲームマスター……どうして脳が焼かれると分かっててこんな事を企てたんですか!?」


『キミ達のような子供が大人の領域に土足で踏み込んだ事が間違いなのだよ!』


ゲームマスターは眩く光る剣から無数の閃光を放った。辺りはたちまち抉れて爆発し、砂埃が舞い上がった。


「おりやぁぁぁあっ!俺の炎はマジ痛てぇぞコラァ!」


クリムは両手に炎の塊を生成し、そのまま力任せに殴り付けた。しかし、謎の壁のような物がその一撃を完全に遮断した。


「殴るのがダメなら……これでどうだ!」


ヴァズールは杖の先から青い雷をクリムに当てないようにしつつも一直線に飛ばしたが、これも同じように受け止めた。


『消去対象たるキミ達は悪あがきすらも下手……救いようの無い命……ならばキミ達の落命を以て救済とする!』


ゲームマスターは見えない壁を使って二人をそのまま閉じ込め、球体状になったそれを爆発させた。


「うわぁぁぁっ!……何だったんだ、今の?」


蒼大は何が起きたのか分からないまま突然現実世界に意識を戻された反動で目が覚めてしまった。


「う〜ん……って、わぁぁぁあっ!もう七時半!遅刻確定じゃんか!親は……夜勤!こうなればもう……走れ〜っ!」


蒼大は大慌てでダイブマシンを外し、高校の真新しい制服に着替えて洗面所へ駆け下りるとそのまま食事せずに歯磨きや身支度を済ませ、家を後にした。


(いくらゲームが好きだからってこれはやり過ぎだよ!入学早々遅刻なんてしたら僕の居場所は完全に……無くなる!それだけは勘弁して〜!)


蒼大は季節外れの汗を流しながら、小中学生時代に何度も登下校に使った通学路を駆け抜け、高校を目指した。


しかしそれが、となった。


歩行者専用の信号が赤なのに全速力で渡ろうとした為、横から来たトラックにかなりの勢いでぶつかってしまい、そのまま数メートル程跳ね飛ばされてしまった。


―謎の空間


『やぁ、久しぶりだね……ヴァズール』


蒼大は目を覚ますと無機質な場所に立っていた。しかも目の前にはが立っていた。


「えっと……確かノワールさん、だっけ?」


『おぉ〜……覚えてるんだ、アタシの事。それにしても派手に死んでくれちゃってさ……ここまで復元するのは時間がかかったんだよ?』


「ちょっと待って今、死んだって……」


『あぁ死んだよ……しかも全身粉砕骨折で即死、脳への衝撃も酷くてね』


「えっと、どうして僕はギア無しでノワールさんと話せてるんですか?」


『やっぱりそこに目を付けるんだぁ〜……そうだねぇ……この瞬間から普田蒼大は死んで事になるからね』


ノワールは何処か気の抜けたような喋り方で、でも確かに信じれば信じるほど恐ろしい事を包み隠さず話した。


「転生って……いきなり過ぎませんか!?」


『ヴァズール……物語は何時だって突然に始まるものなんだよ?あまり深く詮索すると、せっかく治った脳がまたおかしくなるよ?』


「そ、そうですか……」


『じゃ、後は頑張れ……君の未来が明るくなる事を願っているよ』


ノワールがそう言い残して姿を消すと、彼女が立っていた場所は巨大な魔法陣に変化し、パニックに陥るヴァズールを問答無用で吸い込んだ。


そして、次に彼が目を覚ました場所は……ノワールの言っていた通りのテスタミア大陸の南の森だった。

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