自分だけは上手くいく

いくら刃物を手にしていても、<自身番じしんばん>の男が手にしていたのは、男の背よりも長い得物。しかもそれを自在に振り回すような相手に勝てるはずがないのが、何故分からないんだろう。


この<剽賊ひょうぞく>の男達のような輩は、なぜか、自分だけは上手くいくと思い込むクセがあるみたいだな。


だから、たとえ死罪になるような悪事であっても、やれてしまう。


『自分は上手くいくから死罪になんかならない』


って思ってるみたいなんだ。


でも、死罪云々はともかく、『自分だけは上手くいく』なんてないんだよ。


確かにここまでは上手くいってたかもしれなくても、今日はもう駄目みたいだね。


剽賊ひょうぞくの男の一人は、突き出された<さすまた>を、上手く身を捻って躱したつもりだったらしいけど、自身番の男はそれを読んでいたらしく、素早く横に掃ってしっかりと捉えていた。


<さすまた>の柄の部分を脇腹に打ち付けられた剽賊ひょうぞくの男が地面に転がり悶絶する。上手く息ができなくなったんだろう。


それを見た最後の一人が怯んだ隙に、自身番の男は自らを軸にして回転、その勢いを活かし<さすまた>を打ち出すようにして腹を捉えた。


「ご…っ お……っ!」


正面から腹を<さすまた>で打ち据えられた剽賊ひょうぞくの男はまともに声を上げることもできずにその場に蹲る。


この間、僅か瞬き数回分。


そこに、


「ヒアカ! すまん、遅れた!!」


声を上げながらまた何人かの人間が現れる。


やっぱりエンジ色の法被を着て、<さすまた>を手にした者達だった。


「って、もう終わったのか。さすがだな」


剽賊ひょうぞくの男達が四人、地面に倒れて呻き声を上げている様子に、一人が呟くように言う。


さらに、一人が前に歩み出て、


「ヒアカ、怪我は……!?」


と問い掛けてきた。エンジ色の法被を着てるけど、<さすまた>を手にしてるけど、若い女だった。


女は心配してるようだ。


「おう、見ての通りなんともないぜ! クレイ!」


剽賊ひょうぞくの男達を打ちのめした自身番の男はニヤっと自慢げに笑みを浮かべながら応える。


その二人のやり取りを見ているだけで、かなり深い関係だというのが分かった。


すると他の自身番の男達が、


「こいつらは俺達が番屋に引っ張っていくから、ヒアカとクレイはそこの人から話を聞いておいてくれ」


剽賊ひょうぞくの男達を縄で縛り上げた上で遅れて到着した荷車に載せながら言った。


「おう、分かった」


<ヒアカ>と呼ばれた男は手を振り上げながら応え、<クレイ>と呼ばれた女と共に僕に向き直る。


面倒臭いことには関わりたくなかったから今度こそ<神隠し>でこの場を去ろうとした僕に、ヒアカとクレイは、揃って破顔一笑、


「来た早々、災難だったな」


「あなた、サコヤの人だよね? ルドイは初めて?」


人懐っこく話し掛けてきたのだった。


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