第2話 All of the sudden
翌日、放課後、人工芝グラウンドにてー
「こんっちはー!」
数名の部員の挨拶に片手を上げて答える、病的に白く細長い男。戸辺的(とべ まと)監督である。彼は大抵、開始10前までには、練習場に姿を見せる。今日のメンバーを知るためだ。事前にメールや口頭で、ある程度は把握しているはずだが、まず、改めて人数を数える。目視での確認が終わると、キャプテンに話しかけるのが定番だ。その内容は、多岐にわたる。最初に元気かどうかを尋ねることだけは決まっているのだが、そこからはサッカーの話はもちろん、勉強の話、進路の話、時にはプライベートの話なんかもする。そんなささやかな談笑を終えた後の残りの時間は、他の部員たちに目を向ける時間に当てている。既に身支度を済ませアップをしている者、スパイクをはきながら雑談をかわす者、時間ギリギリを攻めるせいで早急の衣装チェンジを強いられる者。戸辺は、彼ら一人一人の顔色まで確認する。見られている側からしたら、物色されているような気分になるほど。だが、戸辺本人は、そんなことは歯牙にもかけていないようだ。それは、本日も例外ではない。左手で右ひじを支え、右手は顎から鼻を覆う。人差し指は左ほおを指すようにそえ、親指は右ほおを小刻みにはじく。チラッとコチラを見たかと思えば、次の瞬間には視線を落とし、行ったり来たりを繰り返す。休むことなどない、忙しない動き。選手たちも気が気ではない。既に一年経験している上級生たちは平然を装えるが、新人たちは監督の奇行に呆気をとられていた。それでも、戸辺はお構いなしに動き続けていたが、突然、止まる。足先からてっぺんまで。しばらくの静止の後、約90度旋回し再び歩き始める。確かな足取りは速く、次に足を止めるまで時間を必要としなかった。戸辺は、まだ座ってスパイクのひもを結んでいる青年の前に立ちはだかる。
「君。」
「はい!」
馬鹿の一つ覚えのような返事。そよ風がふく。
「続ける気はあるかい?三年間。」
「・・・はい。」
少し予想外。だが、これ以上はあるのだろうか。
「そうか。そこに噓がないなら、大丈夫だ。とっととスパイクをはけ!菅木。」
2つの想定外。戸辺は、立ち去っていった。菅木はまたひもを結ぶ。ほどいていたものを全速で。
「おい!新人。始めるぞ。急げ。」
「すっんません。今、行きます。」
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