魔との関係
魔王が、魔物が俺たちの側につく。
それは正直理想的な形と言える。
勇者が常に倒す相手としての魔物を従えるという事もフィーナが敵と判断する材料としては上々だ。
「正直僕は反対したいところだぞバンディット、僕にとって魔物は戦いを楽しむためのものだったのだからな?魔物の味方になるとはそれを控えろということだろう?」
魔王からの提案にネザーは不満があるようだ。
しかしそれに対して魔王は話を続けた。
「ネザー・アルメリアだな?心配することはない、魔物の中にも好戦的なものはいる。まぁそいつら以外の魔物を殺すのは控えてもらうがな」
「む……戦う相手を選ばされるのはあまり好ましくないがな………」
「だが人間たちの世界では戦えないような魔物や魔人を相手に出来るぞ?」
「それは本当だな魔王よ?もしそれが嘘だったならば僕は世界中の魔物を手当たり次第絶滅させるぞ?」
「構わぬ、当然その際にはオレ様たちも全力を以って抵抗させてもらうがな」
魔王はニヤリと笑みを浮かべながらネザーに言う。
それを聞いたネザーも魔王に対して笑みを浮かべた。
どうやらネザーも納得したようだ。
「まぁ提案としては悪くはねえな。ただあくまで言わせてもらうとお前たちの側に着くのは『どちらかと言えば』という話だ、俺たちの目的は魔物たちを守る事じゃないしな」
「そう言うならばこっちこそだな。オレ様たちにとって人間は敵、お前たちは『どちらかと言えば』味方という話だ」
まあ落とし所としてはこれで十分だろう。
そもそもは目的はフィーナへの嫌がらせだったしな。
それは既に成功していてさらに手に入るものがあるならそれに対して多くは求めるべきでない。
「まあこれはあくまで俺たちの関係を確立させただけだ。お前を助けた礼はしっかり貰うつもりでいるぜ?」
「構わんさ、命には変えられんしな。お前は何を欲しているのだ?」
「情報と仲間だ。嘘と真実を見極める魔道具か神から夢で七つの大罪に例えられた奴を探してる」
「………前者は知らんな。後者には心当たりはある」
割とダメ元で聞いたのだが早くも見つかったようだ。
どちらかと言えば先に欲しかったのは魔道具の方だったのだが。
「しかし……まあ話すだけでどうするか決めるのはお前たちだから構わんが……」
「なんだよ?そんなめんどくせえ奴なのか?」
色欲と嫉妬は既に埋まっている。
後残っているのは強欲、怠惰、憤怒、暴食、傲慢の五つ。
……なるほど、確かにどれも癖がありそうだ。
「構わねえ、教えてくれ。どうするかは俺らで決める」
「……そうか、少し前に妙な夢を見たと言っていた奴がいてな。奴が本当にお前の探しているものかどうかは知らんが確かに夢で勇者に名乗れと言われたそうだ。
『憤怒のナー』とな」
……どうやら当たりのようだ。
名前からすると固有の名を持つ魔族だろうか?
会話ができる知性のある奴で助かった。
魔王の心当たりで下手に知能の無い魔物だったら扱いに困るというレベルじゃねえ。
「ナーか、随分可愛らしい名前だな。早速そいつのとこに行きたいんだが」
「………待てバンディット。魔王、僕の聞き間違いでなければ貴様今確かに『ナー』と言ったな?」
「お前は気付いたようだな貴族よ。そう、オレ様は今確かに『ナー』と言った」
ネザーが嬉々として笑みを浮かべながら魔王に聞き返す。
そう、あの戦闘狂で魔物狩りを爛々と楽しみ、命のやり取りを生き甲斐としているあのネザーが。
嬉々としている、笑みを浮かべている。
そしてオレの横にいるメアリーは目と口を開いて唖然としている。
どうやらとんだハズレに当たってしまったようだ。
まあ仕方ないと受け入れるしかない。
話を進めよう。
「で?その『ナー』ってのはどこにいる?とりあえず話がしたい」
「奴の居場所なら僕も知っている。魔界にある溶岩で暮らしている」
「……火山と聞き間違えたか?」
「いや溶岩だ、まあ火山にある溶岩であるし火山で暮らしているというのも間違いではないぞ」
ネザーが間違いをフォローしてくれているが聞きたいところはそこではない。
魔界の、火山の、溶岩で。
ここまで聞いただけで化物であることがわかる。
俺が考えていると魔王が言う。
「ナナシよ、お前が探している七つの大罪の1人……いや一匹と言うべきだろうな。奴の名は『イツァム・ナー』、太陽を司ると言われた竜だ」
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