選ぶ者と選ばれた者

朝食を食べた俺たちは学園へと向かっていた。

転移でいけない事もないのだがフィーナが学生ならば歩いていくべきだと言うので仕方なく4人で歩いている。


「おいみろよアレ……フィーナ様だぜ。12でメタルドラゴンの鱗を砕いたって噂の」

「それよりエルザ様だろ……赤魔法じゃ右に出る者はいないってよ」

「あぁ、メアリー様……なんとお美しい……まさに聖女でございます……」

「一緒にいるアイツは誰だ?」

「さぁ、新しいパーティーって話は聞いてないけど」


まぁこうなるわな。

周りの生徒達から注目される覚悟はしていたもののいざこうなると面倒だ。


やれやれと俺が思っていると先頭を歩いていたフィーナ

が急に立ち止まり後ろを振り返る。


周りの生徒達もなんだなんだと注目する。


「やぁみんな!彼の名はナナシ・バンディット!!僕の1番の親友だ!!よろしく!!」


なんという余計なお節介。

フィーナは俺の方を向くといい事をした、というような表情を浮かべている。

エルザは口を押さえて笑っており、メアリーはニコニコとしている。


「……いいからいこうぜ」


早くこの場から立ち去りたい一心で俺は歩き始め学園へ向かう。


「よかったですね1番の親友さん?」

「お前あのぼっちなんとかしてやれよ」

「おやおやおや?ナナシさんがいるのですからフィーナ様はぼっちなどでは無いと思いますよ?」


メアリーがニコニコしながら煽ってくる。

この女後で絶対恥かかせてやる。


「ふふん、余計なお世話だったかなナナシ?」

「本当に余計なお世話だぜ、どうすんだよ変に注目されたら」

「勇者のパーティーと一緒に登校してる時点で注目されないのは無理さ」

「……別で来るんだったな」


……物珍しさの視線を感じるがその中に確かに混じっている。

嫉妬や憤怒の視線。

殺意とまではいかないまでも確かに悪意の込められた視線。


学園生活は随分と楽しいものになりそうだ。


「……あっ……あのっ!!」


俺に急に話しかけてくる栗毛色の髪の女子。

彼女も同じ制服を着ているし同じ学園に向かう生徒なのだろうな。


「あ?なんだよ?」

「ひっ……」


思わず喧嘩腰になってしまうがそこまで威圧しているつもりはないので彼女がただ臆病なだけだろう。


「あ、あなた……フィーナ様に向かって敬語も使わないで……く、口も悪いし……なんなんですか!」


これはなんなのだろうか。

フィーナ様と対等に話せるなんて羨ましいという嫉妬なのか。

フィーナ様に対する口の聞き方がなっていないという説教なのか。


「これは失礼致しましたフィーナ様。以後、自分を律して参ります」

「ちょ……ちょっとやめてくれよナナシ!ねえ君、ナナシと僕はずっとこういう関係なんだ。君がどうこういう事ではないよ」

「で……でもおかしいです!フィーナ様は勇者様で名家アレクサンド家の長男ではないですか!それをこんな態度も口も悪い人が」

「君にナナシのなにがわかる?」


女子生徒の言葉を遮り、フィーナは急に真面目な顔になる。


「ナナシは確かに口も態度も悪い、そこに性格を足したって悪いところは挙げたりない」

「おい」

「でもナナシは僕が側にいることを選んだ僕の親友なんだ。長所とか短所とか、メリットとかデメリットじゃない。なんとなくだけど僕の親友だ」

「で……でも……」

「君の主観だけで僕の親友を悪くいうのはやめてくれないか?君は僕の事もナナシの事も知らないのだから。僕が君の事を知らないように」


優しさで言っているのだろうが女子生徒からしたら随分過ぎた説教である。


「……行こうナナシ、エルザとメアリーも」

「……そうね」

「はぁい」


フィーナは歩き出す。

エルザも言いたい事がありそうな顔はしているもののフィーナに免じて許したのだろう。

メアリーはあまり気にしていなさそうだ。



「…かわいそうに」


地面に向かって俯き、無言の女子生徒にすれ違い様にボソッと声をかける。

女子生徒は顔を上げてキッとこちらを睨むが顔を上げて気付く。


「……なにあの子、フィーナ様の選んだ方に文句つけるなんて」

「ていうか誰よあれ」

「知らない、ってか初日からかわいそー」

「ま、でも自業自得じゃない?」


彼女を見る周りの目は暖かいものではなかった。

侮蔑、というのが近いだろう。

馬鹿な女だと言わんばかりに周囲の目が彼女を囲む。



「……っ!」


彼女は耐えきれなかったのか学園とは逆の方向へ走って行ってしまった。


俺も先を歩くフィーナを追い、歩き出す。


少し下に顔を下げ、上がった口角を隠す。

フィーナのあの性格ならアイツの味方を減らすのはそう難しく無さそうだ。



そんな事を考えながら俺たちはようやく学園に着くのだった。

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