悪のパーティーの長い夜
約30分。
俺が魔力の解放を見せようとしたメアリーが落ち着くまでの時間だった。
心の乱れは魔力の操作に影響する。
つまり俺の黒魔法は少なからず相手の魔力抑制にもなるという事である。
また見ての通り勇者のパーティーで相応の敵と戦ってきたメアリーに膝を着かせるほどの威圧。
それほどの相手に身動き一つさせない黒魔法。
だがこれにはデメリットもある。
自分の味方も動けなくなる事。
フィーナレベルの相手を想定した時、ただ動かなくなったくらいで俺が勝てる道理などない。
また過度の遠距離からの攻撃に対して効果を発揮しない。
この力は敵が近くにいる時ほど効果がある。
解決策は2つ。
俺が強くなる、または強い仲間を手に入れる。
出来ることなら両方なのだが。
いずれにしても急ぐ事もない。
とりあえず明日からの学園生活に備えねばならない。
「メアリー、宿に戻るから転移してくれ」
「ちょ…ちょっと待ってください……まだ魔力のコントロールが上手く出来る自信が……」
「ちっ、勇者のパーティーの癖にビビり散らしやがって」
「あんな魔力見た事もないですよ……一般人だったら正気を保つのも難しいと思います」
「本当ならあの解放した魔力を一部分に集めて攻撃の手段にしたかったんだが必要ないと思うか?」
「いえ、魔力のコントロールの練習にもなりますし様々な箇所に一部分に集め慣れるのは良い事だと思います。部位強化と一緒です」
「なるほどな、出来る限り禍々しく作りたいな」
「……まあナナシさんのセンスにお任せします。ですが練習の際は私に一言言ってください、周りに人のいない所に転移しますので」
「そこまで必要か?」
「街に戻ってみれば分かると思います、もう大丈夫なので戻りましょうか」
そう言うとメアリーは俺の手に触れて魔法を唱える。
「転移」
戻ってみると街は大騒ぎだった。
正気を保てず口を開けたまま立ち呆けている者、気絶して担架で運ばれている者。
話では街に魔人が現れただの、魔王が現れただの。
警備兵が街中を走り回り、道行く場所で魔法使いらしき奴らが何かの魔法を唱えている。
「なるほど、こういう事か」
「分かっていただけましたか?あのまま私が気を失っていれば今頃処刑台です」
「それは怖いな」
「……まぁあの黒魔法を纏う人間を捕まえようと意識を保てる人間がいればの話ですがね」
メアリーも随分褒めてくれるじゃないか。
おそらく事実なんだろうがな。
学園に通う前でよかった。
もし知らないままだったら俺は普通に学園で黒魔法を解放していただろう。
「まあとりあえず宿に戻って休むか。フィーナとエルザの事も気になるしな」
「そうでした!!すっかり忘れていましたがあの2人は今宿で性行為に営んでいるのでした!!」
「でけえ声で性行為とか言ってんじゃねえよ淫乱僧侶!!」
「大丈夫です!この格好なら性行為と叫んでも性行為の性は聖なる行為の聖と思っていただけるはずです!」
「叫ばなきゃそう思ってもらう必要もねえだろうが!!とっとと帰るぞ!!」
「かしこまりました」
そう言って再びメアリーは俺の手に触れる。
……なかなか転移を唱えない。
「……何やってんだ」
「……いえ、一応部屋の中でなく宿の前に転移した方がいいのかと思いまして」
そういう常識と気遣いの心はあるのか。
あったところで中身があれではあまり意味もないのだが。
しかしまあ、もし本当にあいつらが行為の最中だったら気まずい。
「……一応宿の前にしてやろうぜ」
「……いえ、仮とは言え10年連れ添った仲間が営んでいる所を見る権利くらい私にもあると思うのです」
「いいから早く宿の前に転移しろぶっ殺すぞ」
「……はい」
顔も返事も渋々と言った感情が容易に読み取れるがメアリーは俺の言う通り宿の前に転移したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます