勇者と山賊
あれからどれだけの時間が経っただろう。
アジトの奥で手足を錠で繋がれ、祈るように想像をする。
もしかしたら次の瞬間には急に目の前にロンドが現れてへらへら笑いながら死ななかったわ、なんて言ってくれるかもしれない。
アジトにボスが小走りで入ってきてニヤニヤしながら必要なかったな、なんて言いながら錠を解いてくれるかもしれない。
そんな想像をしながら下を俯いて待っていた。
ボスやロンドが俺を助けるために命を賭けてくれたのを無下にしないために。
自分は捕まってずっと錠に繋がれていた青年だと。
奴らは俺の仲間なんかではないと。
そうする事でしか皆に報えない。
ザッザッ
足音がする。
きっとボスだ。
魔力が切れてアジトまで歩いてきたロンドかも。
いや、ロンドはあんな事を言った手前恥ずかしくて顔を合わせられないかもしれないから他のメンバーかも。
「やぁ、大丈夫かい?もう大丈夫だよ」
------あぁ
あぁ………そうか
違うのか
目の前に現れた男は透き通る様な金髪と青い瞳で、綺麗な肌で、立派な装備で、優しそうな笑顔で現れた。
ボサボサの髪で、薄汚れた肌で、ツギハギの装備で、小汚い笑顔を見せてくれる俺の仲間ではなかった。
「僕はフィーナ・アレクサンド、村の人達から助けてほしいと言われてね。君ももう大丈夫だよ。今その錠を外してあげるからね」
「……はい」
そう言うとその男は錠を外し始める。
鎧の肩辺りに血がついているのが見える。
「血が……」
「あぁ、大丈夫。ただの返り血だよ。僕は無傷だ、勇者の名にかけてあんな山賊達なんかに負けはしない」
「……そうですか」
そうか、皆が束になってかかっても傷一つつけられなかったのか。
「はい、外れたよ。君の家は近くなのかい?」
ここで本当の事を言うわけにはいかない。
皆のために。
「いえ……物心ついた時にはもうこの状態で、かれこれ10年近く捕まっていました」
「それは……さぞ辛かっただろうね……もう大丈夫だよ。一緒に街に行ってこれからは幸せに暮らせるよ」
そう、俺はこれから街に行くんだ。
ロンドが俺にそう言ったから。
笑え、憎しみを閉じ込めて。
「本当ですか……?俺は本当に幸せになれるんですか…?」
「あぁ、なれるとも。さぁ、荷馬車を待たせているから一緒に行こう」
「……あ、でも山賊達は?」
「……本当は捕縛だけして街へ渡すつもりだったんだけどね、抵抗するから全員殺してしまったんだ。森には魔物達もいるし、死体の回収は国に頼む事にしたよ」
「そうですか……助けてくれて本当にありがとうございます」
「いや、気にする事はないよ。勇者として当然の事をしただけさ」
全てが勘に触る。
一挙一動が俺の逆鱗に触れているのが分かる。
それでも尚、俺は笑顔を向ける。
「ところで君の名前は?もし無いのなら国で付けてもらう事もできるから安心して」
「……ナナシ」
「え?」
絶対に忘れるなよ。
俺のこの名を。
「俺の名前は……ナナシ・バンディット」
「ナナシか、改めて僕の名はフィーナ・アレクサンド。長ったらしくてごめんね、結構性の方は忘れられちゃうんだよね」
安心しろよフィーナ。
お前の名だけは殺しても忘れない。
お前だけは絶対に俺が殺してやる。
「あぁ、よろしくフィーナ。呼び捨てで大丈夫でしたか?」
「もちろんさ」
そんな会話しながら俺達は荷馬車に辿り着き、街へ向かうのだった。
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