隠すべきは猛毒
勇者とその連れと荷馬車に揺られながら俺は街へ向かっていた。
横には勇者、向かいには魔法使いと僧侶だと言わんばかりの格好をした女性が座っていた。
「は!?10年も前からずっと!?そりゃ災難だったわねぇ貴方も……。あ、あたしエルザ。エルザ・アルカ、よろしくね」
胸元をしっかり露出している割に見えるものが少なく、腰まである長く濃い紫色の髪の魔法使いのような女が驚いている。
「そうなんです、だから言葉はある程度大丈夫なんですが文字の読み書きは全くと言っていいほどで……」
「大丈夫ですよ、読み書きはできるようになる魔法もありますから。多少お金は掛かるかもしれませんが国が補助してくれるはずですから。私はメアリー・ロッドです、見ての通り僧侶をしています」
今度は胸元をしっかり隠している割にボリュームを隠しきれていない僧侶のような女が教えてくれた。
金髪に薄く青い眼、少しフィーナと似てるな。
「本当ですか!?それは本当に助かります……」
「そんな萎縮しなくても大丈夫だよナナシ、この2人は僕のパーティーのメンバーさ。魔法使いのエルザ・アルカと僧侶のメアリー・ロッド。2人とも頼りになるんだ」
「フィーナがそう言うならアルカさんもメアリーさんも本当に頼りになるんでしょうね」
そう言うとエルザが話に割って入る。
「ちょっと。なんで貴方フィーナは呼び捨てであたし達はさん付けなのよ」
「あ……そうでした。すいませんフィーナさん……」
「え?いいよいいよ!エルザもそんな事言わなくても……」
「違うわよ!!あたし達にもさん付けなんかやめて普通に話したらいいじゃないって事!!」
「そう言う事ならそうはっきり言わないと。だからよく勘違いされるんですよエルザさん」
「え?あたしよく勘違いされてるの?」
「あーエルザはたまに怒ってるのかそうじゃないのかわからない時があるよね」
「うるさいわね!とにかくあたし達にもさん付けもあと敬語もいらないから!普段通り話しなさい!ずっと気を張って生きてきたんでしょ?そろそろ肩の力抜いて生きたってバチは当たらないわよ」
これはきっとずっと錠に繋がれて生きてきたと思われている俺への優しさなのだろう。
きっとこいつらも山賊達と一緒でいい人という奴なんだろう。
もしこいつらとの出会いがこうでなければ心から仲良くなれたのかもしれない。
---でもそうならなかった。
こいつらがどれだけ優しくて、どれだけの人を笑顔にしてきたとしても、俺にとってこいつらは憎むべき対象なのだ。
だから俺は、こいつらを殺すまではこいつらにとっていい奴でいよう。
「……そうか?んじゃ気にしねえで話させてもらうわ」
「……随分砕けたわね貴方」
「ずっと山賊達の話しか聞いてこなかったからな、さっきみたいな下っ端喋りは本当は気に入らねえんだよ」
「あー……なるほどね」
「だから悪いんだがこういう喋りしか出来ねえと思ってくれると助かるわ、もし気に入らなかったら言ってくれりゃ直すからよ」
「ふふ、勇者のパーティーになってからここまで砕けた感じで話す方はいなかったですから少し嬉しいですね」
「そうだね、急にみんな敬語になり始めたからね」
「まぁ悪態ついてるわけじゃないし別に大丈夫よ」
そんなどうでもいい事を聞いている場合じゃない。
街に着く前に少しでも情報を聞かなくては。
「そういやフィーナ達は年はいくつなんだ?」
「みんな15だよ、来年から学園に通う予定なんだ。ナナシは?」
「年齢がはっきりわかんなくてな、多分15とかそのくらいだと思うんだけどよ」
「じゃあ来年から一緒に学園に通えるじゃないか!!あぁ!!嬉しいなぁ!!」
「……どうしたんだよ急に」
「さっきも言ったでしょ?みんな敬語だからタメ語で話せる相手と一緒に学園に通えるかもしれないのが嬉しいのよ。多分」
「あーそういう事か、にしても勇者だのなんだのって言われてても学園は普通に通うのな」
「フィーナ様がどうしても学園で友達が欲しいらしくてですね、王様にお願いしたそうです」
「友達が欲しくて学園に通う勇者なんて親が見たら泣くわよ本当に」
「いいじゃないか別に!……時にナナシ?一つ尋ねておきたい事があるんだけどね?」
「なんだよ」
「僕と君の関係は周りから見たらどう見えるのかなぁとね?……いや別に深い意味はないんだけど一応ね?」
友達、とフィーナは言って欲しいんだろうな。
チラッと向かいに座るエルザを見るとはぁ、と深いため息をつきながら頷いている。
「……まぁ俺みたいなボロボロの格好の奴を立派な格好してる勇者が連れてるのを見たら、普通に考えて勇者と罪人ってとこじゃねえか?」
「いやいや!!確かに今はまだ服もボロボロだけど街に行ったら綺麗な服を着れるし見た目も清潔にできるじゃないか!!そして僕らが!2人で!街を歩いていたらと想定したらどうだろう!?」
少しでも打ち解けておくためにちょっと意地悪をしてみたがここまで必死だと哀れになってくる。
こんな奴に俺の家族は。
いや、今はそれを考えてはいけない。
感情を鎮めて、友人の様に話すのだ。
「あーでも勇者と2人だろ?いいとこお付きの人とかさ」
「いやいやいや!!一緒に学園に入って!!同じ制服をきて!!露店によって!!買い食いなんかしながら!!2人で!!歩いていたら!!どう見えるのかなぁ」
向かいでエルザとメアリーが顔を伏せて笑っている。
これだけ必死に友達と言わせようとするフィーナと明らかにからかっている俺が面白いのだろう。
「まあおこがましいかもしれないけど友達に見えんだろうな」
「いや!!いやいやいや!!!おこがましいなんて事はないさナナシ!!僕たちは来年から同じ学園に通う友になるわけさ!!そうだナナシ!!街に着いたら一緒に服を買いに行こう!!大丈夫!!たくさん依頼をこなしてお金はあるから!!」
言って欲しい言葉を言って貰えて機嫌がいいのか、まるで金蔓のような事を言い始める。
エルザは顔を伏せながら地団駄を踏み、見るからに大笑いしているがメアリーは友達になれそうだったのに自ら金蔓の道に走ろうとするフィーナをみて頭を抱えている。
「別に買ってもらわなくてもいいっつの、山賊のアジトからこっそり宝石取ってきたからこれ売って買うさ」
「ダメだよナナシ!そんなのはいけない!」
フィーナがそれは悪い事だと止める。
「あーそうだ、さっき言ってた露店で買い食いってのこれでやろうぜ!どっちかがただ金出すみたいなのは友達とは言えねえだろ?」
俺がそう言うとフィーナは少し悩んだ後に笑顔で顔を上げ言った。
「なるほどね!!まぁずっと囚われていた慰謝料って考えたら妥当な所かもしれない!!」
随分と扱いやすい勇者だ。
メアリーは笑顔で音が出ないようにこっちを向き拍手をしている。
エルザは笑いすぎてお腹が痛いのか、腕で腹を抱え顔を膝に伏せてはぁはぁ言っている。
「いやぁ、友達と買い食いなんていつぶりだろう!!」
フィーナが嬉しそうに大きな声で話している。
だがもっとこいつにとって俺が特別である為に一つ付け足しておこう。
「でもまぁそうだな、学園に入ったらフィーナとタメ張るくらいの好敵手になって勇者に勝つってのも悪くねえな」
そう言うとフィーナの笑顔がさっきとは違う静かな笑顔になり、堂々と言う。
「……ふふ、臨むところだよナナシ。それは無理だと思うけど」
俺を挑発するようなニヒルな笑みを浮かべ、いつでもかかっておいでと言わんばかりにフィーナが言う。
「……上等だフィーナ、ギッタギタにしてやっから覚えとけよ」
「まあ好敵手ってのも悪くはないかもね、僕と対等に戦える人なんで片手で数えるくらいしかいないけど」
勇者ってのも随分挑発的で負けず嫌いな性格のようだ。
今の俺ではまだ、お前の横で甘い匂いを出す友達という花でいる事しかできないが。
いつか心に潜めた殺意と憎悪の毒針をお前の心臓に突き立ててやる。
そう誓い、フィーナと俺はそれがまるで冗談であるかの様に笑い合うのだった。
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