魔力の解放

魔力石での鑑定が終わり、ギルドに帰りボスや部下達に結果を報告したのだが連中はどうやら不服なようだ。


「そうか……灰だったか……理想は赤魔法か緑魔法のような前線に参加できる者だったんだがなあ……」

「まあまあ、魔力は平均よりは多いみたいですし」

「でも黒魔法と白魔法の間みたいなもんだろ?中途半端ってのがなあ……」

「いっそ黒か白のどっちかだったら支援か回復かに決められたんだが」


山賊たちは俺を戦力とするために話し合いを始めていた。

いつまでも協力してやるつもりはこれっぽっちもないんだがな。



「まあ魔力はこれから伸び次第だしな、ロンドならなんとかできるだろ」

「おう、任せてくれ。6歳になったらみっちり修行だぜ!覚悟しとけよナナシ!!」

「うん!!」

「おぉ?なんだナナシ?随分気合い入ってんじゃねえか!ロンドに教えて貰えるのがそんなに嬉しいか?」



しっかり教えてもらうために無理に元気な返事をしたのだがどうやらボスはそれが不服のようだ。



「おいナナシ!確かにお前を拾ってきたのはロンドだが育てるのを決めたのはボスであるこの俺だぞ!!」

「ボスにも感謝してるよ」

「いーやナナシ!お前は俺がどれだけ偉大か分かってない!!よし!今日からロンドの魔法修行に並んでこの俺の肉体修行をやる!!俺が今決めた!!」

「ほんと!?ボス!?いいの!?」

「おう!!ギッタギタに鍛えてやるから覚悟しておけよ!!」


 これは願ったり叶ったりだ。

 ボスはぶっちゃけ魔法が得意ではない。

 しかしこれだけの団のリーダーを務めるためには強さがいる事も事実。

 つまりボスは魔法でない、なんらかの強さを持っているはず。

 それは俺も知っておくべきだろう。


「おい本気かナナシ?俺の修行だけでもしんどいだろうにボスとの修行までやるなんて死んでも知らないぜ?」

「……死なないように頑張るからロンドとボスは俺を殺さないように頑張ってね」

「ぶはっ!!おいボス!!どうしたんだこれ!!おうナナシ!!おめえいつからそんな皮肉言えるようになったんだ3歳児が!!」

「はっはっは!!こりゃいいなロンド!!灰と聞いた時には思わず落胆しちまったが随分な有望株だぜこのクソガキ!!」

「へへへ……」


 俺も思わず笑ってしまった。

 いつか俺に殺されるとも知らないで随分嬉しそうにしてるじゃないか。

 自分を殺そうとしている相手を自分を殺せるレベルまで鍛えてくれるなんて笑っちゃうだろ?




 そして3年が経ち、俺も6歳になる頃、修行が始まった。



「いいかナナシ、魔力ってのは練れば練るだけ強くなる。練るってのはこういう事だ」


 そういうとロンドの掌に小さな火の玉が現れ、ロンドがそれを持っている。

 その火の玉はどんどん大きくなっていく。


「この火の玉に魔力を送ってるってこと?」

「そういうことだ、口で言うほど簡単じゃないけどな」


そう言うとロンドの作り出した火の玉はボン!という大きな音と共に破裂した。



「火の玉に込めた魔力よりそれを覆う魔力が小さければすぐに魔法は失敗する。大きな火の玉ほど覆う魔力が必要ってわけだ」

「なるほど」


そういうとロンドは魔力を練り始め、再び火の玉を作り出した。


「魔力の基本は練る、使うの2段階だ。出来るだけその2つを迅速に行うようにな。魔法を保つのは魔力の無駄遣いだからよ」

「だからこそ練るスピードを鍛えるんだね」


俺がそう答えるとロンドは笑いながら頷いた。



「正解だ、そしてここがスタートラインだ。ナナシお前の灰適正を活かす為にはより大きく強い魔力を身体に纏い、それを保ち続けるのが1番大事だ。つまり魔力を出して保って魔力が切れるまでを毎日繰り返す」

「魔力の出し方は?」

「厳密にいうと魔力ってのは常に身体から出てるもんなんだよ。だからそれを強化するってのが正しいな」

「……じゃあ出てる魔力の強化の仕方は!?」

「はは!そう怒んなよ!!いいか?目を閉じろ。身体には魔力が流れている。そして魔力が身体から外に溢れ出ている。そこをまず見つける」


 目を閉じて探してみる。

 どこだ?どれだ?


「ふわふわと魔力が溢れ出ている場所があるはずだ。人によっては暖かいと感じる場所だったり、柔らかいと感じる場所だったりな」



 探す。探す。探す。

 するとひんやりとした場所がある。


 胸から背中にかけて。

 前の世界で俺が死ぬ時に刃物で貫かれた場所だ。

 神とやらも随分粋な事をしてくれるものだ。


「……あった」

「よし、じゃあそこに思いっきり力を入れろ。そこから身体の血が吹き出すイメージだ」

「……そりゃなんともわかりやすい事で」

「なんだって?」

「いや、なんでもないよ」


 血が吹き出す事をイメージして背中に力を入れる。

 するとボン!という音と共に中に眠っていた魔力が一気に吹き出す。


「よし、それを周りに留めるんだ!!そこにいろ!と魔力に命令しろ!!」


 吹き出た魔力に命令する。


 お前らは俺のものだ。

 俺のものが勝手になくなる事を俺は許さない。

 そこにいろ!!


「……おいマジか?そんな簡単な事ではないんだけどな」

「……出来てる?」

「あぁ、魔力は確かにナナシの周りに纏われてる。目にも魔力がいってるから目を開けば見えるぞ」


 ゆっくりと目を開く。

 確かに見える。だが3年前に教会でみた神父の魔力とは色も感じも全く違う。

 黒く、冷たく、鋭い。

 まるで刃物を纏っているような感覚。

 それは俺にとってとても心地よいものだった。

 その心地よさに身を任せて俺は再び目を瞑る。



「……こんな黒い魔力だとは思わなかったな。育て方が悪かったのか、それとも俺がお前を拾った時には既に黒くなる理由があったのか」


 ロンドは少しの反省に少しの後悔を添えて、ナナシの成長に期待するのだった。

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