△三角

 それからさらに半月後、お店にリョウの大学の関係者が団体で来店した。


 指名はナンバーワンのアヤメだった。

 しかし、レイがリョウに渡した割引券を持っていたこともあり、店長の指示で、指名客の対応の合間に、ヘルプにつかされ、お礼の挨拶をして、連れの客には名刺を配る様に促された。


 ナンバーのハナとマリサも同様にヘルプにつかされていた。


 別の店から気まぐれで流れてきた客を掴みたかった様だ。


 その甲斐あってか、そのままラストまで楽しみ、アフターには2時間ほどバーにいった。


 ヘルプについた他のキャストも、連れの客狙いで同行し、大賑わいだった。



 その後、何名かはリピート客になり、レイは空振りに終わったが、アヤメ、ハナ、マリサと他数名は、新しい顧客を獲得できた。


 すでに同伴のアポをもらっていた子も少なからずいた。



 レイは、実質、ハナとマリサの妹分なので、ライバル関係にあるアヤメのブループとはあまり接点がなかった。


 しかし、これをきっかけに、アヤメから気に入られ、気を回してもらえる様になった。



……



 レイとリョウが入れ替わって4ヶ月経った。

 8月に入っていた。


 レイは順調に売り上げを伸ばし、ランキングで12位にまで浮上していた。

 ナンバーに入ることにこだわりはなかったが、努力が評価に結びつくのは嬉しかった。

 レイの目標は、そこそこ上位に入り売り上げを安定させることだった。



 しばらくすると、レイの大学の関係者が、別の大学の関係者を連れてくる様になった。


 今回は、レイも指名をもらえ、固定客を増やすことができた。


 水商売好きの大学関係者のネットワークがあるのか、近隣の大学関係者が来店する割合が増えてきた。


 おかげで、レイの指名も増え、固定客をさらに増やすことができた。


 気がつくとランキングで10位に浮上し、ナンバーになっていた。



 ある日、レイはリョウの部屋に呼び出されていた。


 リョウの大学は、すでに夏季休暇が始まっていたが、リョウは帰省せずに将来の勉強に集中していたのだが、親から連絡があり、流石に全く帰らないわけにもいかなくなり、1週間ほど帰省することになったのだ。


 レイは、リョウの過去の交友関係について、卒業アルバムなどを使いながらリョウに細かく説明することになった。家の間取りや自分の部屋の位置、家族や知人の呼び方、その他、いろいろなことをリョウから聞かれた。

 

「大丈夫そう?」


「うーん、できることはやった。

 あとはちょっとずつ慣れるしかないね」


「時期ずらした方が良かったんじゃない?

 お祭りがあると誘われるよ?」


「そうだけど、ずらせる理由がなくてね……。

 まぁ、いずれ通らなければならない道だし頑張ってくるよ。

 地元の図書館、規模が大きいみたいだから勉強も捗りそうだしね」


「新しい家族と仲良くできる様に、祈ってるね」


「ありがと。

 レイちゃんは実家、大丈夫?」


「いまのところ大丈夫。

 毎月ちゃんと仕送りもしてるしね。

 あとは月に一度〝母さん〟と長電話するだけかな。

 でも、ひたすら愚痴を聞くだけだしね。

 最初は緊張したけど、それも慣れたよ。

 女子校のアルバム開いてみたけど、みんな見た目変わってるだろうし、

 前にリョウくんが教えてくれた呼び名を覚えるくらいで大丈夫な感じかな。

 会うこともないだろうけど……」


「わかった。何かあったらいつでも連絡してね?」


「うん。なにもなくても私に連絡してね?」


「あはは、わかってる」



……



 数日後、アフターの後、帰宅し、長風呂を楽しんでいた時、リョウから通信アプリで通話の着信があった。


「もしもし、リョウくん? どうしたの? こんな時間に」


<今、大丈夫? お風呂かなって思ったから電話してみたんだけど>


「その通りだよ、至福の時間。女を満喫してるところだよ。

 どうしたの?」


<アキラって誰?>


「小・中学生の頃仲が良かった子だよ。

 隣の席になって話が合う様になって、友達グループで遊ぶ様になった感じ。

 話したよね?」


 リョウは中学時代のアルバムを開き、写真を確認する。

<あー、この子か。かなり印象変わってるな。

 お祭りで女子グループにばったりあって、知り合いみたいだったから一緒に遊ぶことになったんだけど、妙になれなれしくてね。

 しかも、周囲が気を利かせて二人っきりになってさ、困ったから、彼女がいるアピールしたら、やけに細かく聞いたきたから、仕方なくレイちゃんの話したんだよ>


「私? リョウくんの彼女にしてくれたんだ……嘘でも嬉しいかも」


<俺はそう思ってたけど違うの?>


「……ほんと? 嬉しいな……ありがと」


<うん、大切にするから……って、話がそれてる>


「……そうだね。

 で、アキラがどうしたの?

 私が彼女ってことで納得しなかったの?」


<うん。

 それに、はっきり断ったんだけど。

 相当、〝リョウ〟ことを想ってたらしくてさ、

 昔話をいろいろされたんだけど、俺が覚えているわけないじゃん?>


「だね……」


<そしたら、なんか別人じゃないかって疑われ始めて……>


「あらら……で、どうしたの?」


<簡単なトラップに引っかかって、中身が別人だとばれた>


「……どうするの?」


<レイちゃんが、昔の〝リョウ〟だってばらした。

 そしたら、会わせろって迫られた。

 でないとみんなにばらすって脅されたんだよ。

 誰も信じるわけないけど、なんか面倒になってさ、そっちに戻るときに連れてゆくことになった、会ってあげてくれる?>


「うん。でも私、女だし、彼氏もちだしどうにもならないよ?

 しかも水商売の女性を楽しんでやってる状況だよ?」


<それも言ったけど、全然聞いてくれなかった。

 知ってるんでしょ? アキラの性格>


「あー……、そうか。そうだよね……。

 慕われてたのか……全く気づかなかったな。

 むしろ扱いが酷くて、どうでもいい存在に思われてると感じてた」


<乙女心はわかりづらいよね……。

 とにかく連れてゆくから、納得させてあげてくれる?

 俺の言葉は全く届かなかったから>


「わかった、いつ帰るの?」


<地元の図書館の居心地が予想以上に良くてさ、ちょっと延長することにしたの。

 来週の中頃には戻ると思う>


「ん、まってるね。

 でも、来週はずっと同伴あるから仕事はずせないけどね」


<うん、面倒かけてごめんね>


「いいよ、流石に無理だよ。アキラでしょ?」


<うん……だよね。

 とりあえず、また電話する。

 お風呂たのしんでね?

 おやすみ、愛してる>


「うん。おやすみ。私も愛してる」


 レイは、アキラのことよりも、自分がリョウの彼女になったことが嬉しくて、リョウのことで頭がいっぱいになった。


 レイは、いつもより気合をいれて、髪と体のケアを楽しんだ。



……



 ある日の夕刻。


 リョウが戻ってきた。

 男子2人、女子1人を連れていた。


 男子2人は、地元でつるんでいたケントとチヒロだった。

 観光ついでにリョウの彼女を見にきたらしい。

 2〜3日、リョウの部屋に泊まって帰る予定になっていた。

 

 そしてもう一人はアキラだ。

 2〜3日滞在するには大きな荷物を持っていた。


 リョウがレイの部屋の合鍵を持ってることもあり、アキラはレイの部屋に泊まることになっていた。


 リョウが地元の友人をレイに紹介する。


 レイが挨拶する。 


「はじめまして、私がリョウくんの彼女をさせてもらってるレイ=カツラギです。

 ケントくんとチヒロくんか、よろしくね。

 そっちの女の子はアキラちゃんね、私の部屋、自由に使っていいからね?

 私、夜の仕事してるから日中は寝てるからほとんど会えないと思うけど、よろしくね。

 じゃ、アキラちゃん、こっちきて、部屋を案内するから。

 男子チームは、またね」


 部屋に入って一通り説明する。

 

「だいたいこんな感じかな?

 何か質問ある?」


「リョウなんだよね?」


「私はレイだよ。

 って言っても仕方ないか。

 確かに私が、元リョウくんだよ。

 今はすっかりレイだけどね」


「本当に今のままでいいの?」


「うん。

 最初は困ったけど、

 今は、戻れても戻りたいと思ってないよ。

 今の生活がとても楽しいの」


「水商売だよ?

 いい大学に合格したのにそれを捨てるだけの価値があるの?」


「ある。

 アキラに言っても理解できないけどね。

 生半可な気持ちで今の仕事はできないよ。

 好きじゃなきゃ健全には続けられないからね?」


「恥ずかしくないの? 男でしょ?」


「女だよ。恥ずかしくない。むしろうれしい」


「へんたい」


「好きに言えばいいよ」


「アタシ、リョウのこと好きだったんだよ?」


「私は違った。それに、いまはリョウくんが好きでたまらないし」


「そんなぁ、私の気持ちはどうなるのよ……」


 アキラは泣き出した。

 レイは、アキラをベッドに座らせ、抱きしめてあげる。


「ごめんね、アキラ。

 辛いよね?

 ほんとうにごめんね。

 私のこと想ってくれてありがとね。

 自分ことを好きって言ってもらえて嬉しくないはずないからね?

 でも、気持ちに応えることはできないよ」


「……ねえ、少しの間、一緒に生活していい?

 リョウのこと見届けたいの」


「いても構わないけど、私、夜の仕事で忙しいから、あまり相手できないよ?」


「うん。少しの間、ここに住ませてもらえるだけでいい。

 仕事の邪魔しないからさ」


「いいよ、気が済むまでいてね。

 じゃ、私、仕事の支度しないとだから、あとは好きにしてね?」


「うん、みてていい?」


「もちろん」


 レイは、ハーブティーを入れ、アキラに振る舞う。

 アロマを炊き、部屋の空気を和ませる。

 カラオケの練習をしている楽曲をBGMにかけた。


 楽曲に合わせ鼻歌を歌いながら軽くシャワーを浴びて、お化粧を始める。


「うぁ、お化粧、上手だね」


「まぁね。時間があるとき教えてあげよっか?」


「ほんと? 是非お願い」


 レイは、使ってる化粧品や、使い方についてお喋りしながら、お化粧を進める。

 同伴用のワンピースに着替えて、身嗜みを整える。


「それじゃ、出かけてくるね?

 帰りは深夜か早朝だから、勝手に寝ててね」


「わかった。

 綺麗だね?」


「ありがと」


 レイは笑顔で出かけて行った。



……



 深夜、アヤメのアフターでカラオケに付き合い、帰宅は、3時過ぎになった。

 アキラはすでにベッドで寝ていた。

 レイはいつもの様にお風呂とヘアケア、体のケアを楽しんでから、

 アキラの寝ているベッドに潜り込み、就寝した。

 

 朝のアラームで、レイとアキラが目覚める。

 レイは、タブレットを使って朝の挨拶メールを大量に送信した。

 アキラは、レイの様子をそばでじっと眺めていた。


 レイは、洗濯物をまとめて、洗濯機にかけると、再度就寝した。


 昼過ぎにアラームがなり、食欲をそそる香りと共に、目が覚めた。

 アキラが昼食を作ってくれていたのだ。


 レイは、お昼のメールを大量に送信すると、乾いた洗濯物を片付けた。

 アキラが作ってくれた昼食をおしゃべりしながら一緒に取ると、部屋の掃除を始めた。

 アキラも掃除を手伝ってくれた。


 その後、アキラと一緒に散歩と買い物に出かけた。



「私の大学もこの近くんだ」


「そうなんだ、知らなかった」


「チヒロから、リョウの大学も近くって聞いて、運命感じちゃった。

 勝手に妄想膨らましてた」


「こんな結果でごめんね……。

 まさか女になってるとはね。

 ほんとごめんね」


「いいよもう。なんか充実してそうだし。

 私よりずっと女って感じだし」


「ありがと」


「でも女になってもリョウはリョウだね。

 一緒にいて気が楽。話していて楽しい。

 そう言うところが好きだったんだよね」


「あのさ、私はレイなんだから、

 これからはレイって呼んで欲しいな?」


「んー……わかった。

 でも条件がある」


「なに?」


「親友になってくれる?」


「うん、いいよ」


「やった、よろしくね? レイ」


「よろしく、アキラ」


 買い物をして帰宅する。

 お化粧を教えてあげたり、プライベート用のスマホの連絡先を交換したり、

 いろいろなことについておしゃべりを楽しんでいたらすぐに出勤時間になった。

 レイは、身支度を済ませて家を出た。


 アキラは気が済んだのか、翌日、チヒロ達と合流して、地元に帰って行った。


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