レギュラー

 乾いた音が響いた。

 高々と舞い上がった打球は力無く、定位置にいたショートのグラブのなかにおさまった。ゲームセット。最後のバッターが悔しそうに打席にバットを叩きつける。十回裏、ツーアウト、二、三塁。一打逆転の場面で初球ポップフライ。監督やコーチはおざなりの拍手をしていたが、ベンチの雰囲気は暗いままだ。観客席からは、やめちまえ、それでもプロか、といった野次が飛んでくる。当然だと思った。これで五連敗、単独の最下位だ。わざわざ観戦にきたファンから非難されるのも当たり前のことだった。

 おれはレガースのバンドをゆるめた。きょうも出番がなかった。ベンチを温めるだけの日々が続いている。もっとも、プロ八年目の第三捕手という立場では仕方のないことかもしれないが。


 試合終了後、全体でミーティングをやり、個別の居残り練習を終え、シャワーを浴びたころには、日を跨いでいた。おれは自分の車で帰宅していた。深夜ということもあり、国道でも車の数は少ない。トラックが数台、飛ばしているだけだ。運転しながらあくびをすると、にじむ視界にガソリンメーターがはいってきた。あとわずかしかない。カーナビを操作して、近くのスタンドを探すと、すぐにヒットした。ハンドルを切った。

 ナビの指示通り、ウインカーを上げて国道を曲がり、細い路地にはいり、そのまま道なりに進む。五分ほどで小さなガソリンスタンドに到着した。給油タンクのそばに停車する。

「いらっしゃいませ」

 出てきたのは若い男だった。癖のある茶色の長髪のうえから帽子をかぶり、薄く伸ばしたあごひげが軽薄な印象を与えている。だが、彼がどういう人間であれ、おれには関係ないことだ。深夜のガソリンスタンドの客と店員。それだけの関係だ。

「レギュラー満タン、カードで」

「あ、それは無理っすね」彼は軽薄な外見そのままに、客商売とは思えない失礼な態度と言葉を続けた。「だってお客さん、一軍に昇格してからずっと、きょうの試合もふくめて一度も試合に出てないじゃないですか」

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