ロード☆スターズ
かもがわぶんこ
第1話 大間でフェリー待ち
俺が閉じ込められているロードスターというクルマ、いまどきハイブリットや電気自動車でもない、さらに二人しか乗れなくて燃費も悪い。挙句の果て屋根は布切れで、開けるとスリッパみたいな形になる、対向車の運転手はまるで中二病のように嬉しそうな顔で乗っているドライバーを刺すような目で見てくる。まぁそんな旧世代の乗り物だ。
あ〜メンドクセェ!
国道7号から4号を経て279号を北上しフェリーターミナルに着く、
目の前には数台の大型トラックが函館に渡る順番を待っている。
一日中、雨の中を走った青いロードスターの中で、フロントガラスに落ちる水滴を目で追いながらその先のモノクロームの景色を見ていた。
大学3年の春、突然オヤジから免許を取るように言われ自動車学校に通い始めた、学費は全部オヤジが出してくれると言う。ただ、一つだけ条件があったそれはマニュアルの免許を取得しろと言うことだった。
このご時世、だれが好き好んでこんな面倒くさい車に乗るのか理解できない。アクセルを踏めば走り、ブレーキを踏めば止まる。それで運転ができるのに「ガチャガチャ」ギアとクラッチを調整する意味が見出せないのだ。
ただ、オートマ免許といえどウン十万。せっかく出してもらえるのだから俺はその話に乗りなんとか自動車免許を手に入れたのだ。
ぼんやりと外をみていると、先頭のトラックのブレーキランプが光った、のろのろと亀の歩みのようにフェリーに車が吸い込まれていく。ダッシュボードに乗船番号の書いた紙を乗せ俺も少しづつ前に進んでいく。繰り返すゴーストップに面倒くささを感じていたが、ここに来るまで何度も渋滞にハマり若干この車にも慣れてはきていた。オヤジはもう何十年もこの車をメンテナンスしていたんだと思うとこれが最後の親孝行かと思った。
免許を取った直後オヤジの癌が高いステージまで進行していることを母から聞かされる、気丈なオヤジでそんなことは何一つ息子の俺には伝えなかった。子供の頃はよくこの車の助手席に乗せられてその辺を走り回った。俺はそんなオヤジは世界で一番の男だと思っていたのだが、反抗期を迎えオヤジとは会話すらしなくなっていたのだ。
そして何の親子の会話もなしにオヤジは旅立っていった。不思議と涙が出なかった、確かにもっと話しておけばと後悔はしていたのだが、なぜか泣けなかったのだ。
ロード☆スターズ かもがわぶんこ @kamogawabunko
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