イケメンで鷲狼と呼ばれる凄腕暗殺者の俺がクールビューティな美人hs

肥え太

第1話 『鷲狼(イーグルウルフ)』


「ほっ!はっ!」


 目の前を剣が通り過ぎる。

 俺は軽快なバックステップでそれを躱して両手に持った短剣でターゲットに切りかかる。


「ほいっと。」


 軽い掛け声と同時にターゲットの首に短剣を刺し、胴体を蹴って吹き飛ばして距離を取った。


「グッ…貴様が『鷲狼』だったか…」

「そうだよー。お見知りおき下さいご主人様。あ、もう死んじゃうか。」

「くそ…」

「次の人生はもう少し長生きできるといいね。バイバイ。」


 短剣を腰の鞘に戻して、この男が王国で行っていたスパイ行為、横領の証拠の書類を収納の腕輪に詰め込んで部屋を出た。


「さーて、終わった終わった。今日はどこのお店で飲もうかなー。」


 お仕事の後は可愛い女の子のいるお店に飲みに行くんだ!折角だし今日は『ブロッサム』に行こうかな。


 ターゲットの家の2階の窓から裏庭へと飛び降りる。そのまま塀を乗り越えて裏路地へと身を隠す。

 収納の腕輪からラフなシャツとズボンを出して、今まで着ていた執事服から着替える。腕輪から煙草を取り出して火を付ける。


「ふぅ~落ち着く~。さてさて、今日はあそこに行ってみますか。」


 スキップをしながら王都の表通りに出て目的地である歓楽街へと向かう。


「んげっ」


 突然、シャツの後ろ襟を掴まれてしまった。


「ハント、そんなに楽しそうにスキップしてどこに行こうというのかしら?」


 後ろを振り向くと、綺麗なブロンドのロングヘア―をポニーテールに纏めた女性が目に入る。


「ははは、ミヤじゃないか。勿論、依頼完了のお知らせに向かうところだったよ?」

「拠点はあちらではなく、コチラよ。」


 獲物を見つけたような目で、俺のシャツの襟を掴んだまま睨まれる。


「あれ~、おかしいな。方向間違っちゃったみたい。オレ、ツカレチャッタノカナー。」


 額から汗が流れる。


「ふんっ。」


 ミヤが襟を掴んだまま歩き出す。これじゃあ、襟を掴まれた猫みたいだ。


「あ、歩ける、自分で歩けますからミヤさん。離して~!!」

「離したらまたどこかに行くじゃないですか!今日という今日は絶対にダメです!」

「行かない行かない!それにほらっ!」


 襟を掴まれた状態から後方に宙返りを決めて、ミヤの前に降り立つ。


「逃げようと思えばいつでも逃げられるし。ほら、そんな怖い顔してたら綺麗な顔が台無しだよ?」


 ミヤの顔に顔を近づけて綺麗な青い瞳を見ながら小声でささやくと、ボンッと音がしそうな勢いでミヤの顔が赤くなる。


「そそそそそそそれもそうですね。…ふぅ。では、行きましょうか。」


 一瞬で動揺を隠していつも通りのクールビューティに戻ったミヤと一緒に拠点へと向かう。あー、報告とかもろもろめんどくさいんだよな。


さっさと歩いて拠点へと向かう。


「たっだいまー。」

「おう!ハント!首尾は上々か?」

「もちろん!」

「ただいま戻りました。報告は執務室でしましょう。」

「おう、ハント来い!ミヤ、茶を頼む。」

「かしこまりました。」

「ミヤちゃ~ん、俺、甘い紅茶がいいな~。」

「分かりました。」


 そのまま厨房へ向かうミヤを見送って、カウンターの奥にある執務室へと入る。

 

 ここは俺が所属している暗殺者ギルドだ。といっても表立って看板を出すわけにも行かないのでカウンターのある3階建てのバーなんだが。1階はカウンターとマスターの執務室、厨房。2階は武器やら防具やら道具屋ら衣装屋らが詰まっていて、3階に俺とミヤの私室がある。


 執務室に入ると、ドシッと音を立ててマスターのドルゲオが革張りの椅子に腰かける。その前の重厚な木造りのデスクに収納の腕輪から先ほど回収した証拠の書類を積み上げる。


「これが、サンシータ・ノ・ブレスの犯罪の証拠だよ。結構いろいろやってたみたいだね~。」


 ドルゲオがパラパラと書類を捲りため息をつく。


「全く。こんな奴がいるから俺は未だに隠居できんのだ。ともあれ、ハント、良くやった。報酬はミヤに預けておいたから受け取ってくれ。」

「ええー!!なんで預けちゃうの!!なんで!!俺が稼いだお金なのにミヤって「ダメです。これは貯めておく分です。いつ何があってもいいように。」とか言って全然くれないんだよ!!マスター!俺だって飲みに行きたいのに!!」

「そうやって、ハントに渡すとすぐ飲みに行って空っぽにするからでしょう?マスターお茶をどうぞ。」


 冷たい声にギギギと振り向くと、ニコニコと目の笑っていない顔をするミヤが居た。


「いや、ミヤちゃん?違うのよ。ほら、たまにはミヤと二人で美味しいお酒とご飯でもと思ってね。ほら、会計する時に男の俺が払わないなんてカッコ悪いじゃない?だからほら、報酬頂戴?」


 精一杯の言い訳と共におねだりをしてみる。


「あら、私と行ってくれるんですか?それでしたら、貴族街にある『フローラ』が良いですね。」

「んげっ」

「あら?違うんですか?」

「いやいやいやいや、そんな事ないよ!もちろん行こうじゃないか。さ、今日は俺の奢りさ。大きい仕事も終わったし美味しい料理に美味しいお酒を食べて飲んじゃおう!という訳でマスター後はよろしく!」

「おう!2人とも飲みすぎるんじゃないぞ。」


 ニヤリと髭もじゃのおっさんが笑いかけてくるので鳥肌が立つ。片手に甘い紅茶を持って、片手でひらひらと手を振って執務室を出る。


「私は着替えてくるから少し待ってて。」

「ああ、俺もこの恰好は不味いからシャワー浴びて着替えてくるわ。入り口で待ち合わせしよう。」


 3階の私室に入って、クローゼットを開ける。


「ふん~♪ふんふ~ん♪」


 隣の部屋からご機嫌な鼻歌が聞こえてくるのに思わず苦笑してしまう。

 被っていたカツラを外すと、カツラの下から濃紺の髪が現われる。クローゼットから 白いシャツに濃紺のパンツとジャケットを出してラックに掛けておく。そのままシャワールームに向かい、仕事でかいた汗を流してサッパリとする。


「ふぅ~。」


 シャワールームから出て頭をバサバサと乾かして、軽くセットする。

 煙草に火を付けてふぅ~と息を吐く。隣の部屋ではまだ音がしているからもう少しゆっくりしても大丈夫だろう。ぬるくなった紅茶に口を付ける。


「あまっ!」


 ブフッと吹き出しそうになった紅茶を何とかこらえていると、ガチャと隣の部屋の扉が開く音がした。

 

「それじゃあエスコートしますかね。」


 3階の窓を開けて、下の路地に誰も居ない事を確認して飛び降りる。


「ふっ。」


 と、綺麗に着地を決めて何食わぬ顔でギルドの入り口の方へと向かう。

 

「あら、待たせたかしら?」

「いいえ、今来たばかりだよ。」


 出てきたのは、ポニーテールにしていた綺麗なブロンドヘア―を下ろして、黒いシックなドレスに着替えたミヤだった。


「お嬢さん、宜しければお手を。」


 わざとらしく、手を差し出す。


「あら、結構な心掛けね。」


 そんな茶番にノッてミヤも差し出した手に手を重ねる。


「それじゃあ、ご案内と行きますか。」

「ええ、行きましょうか。」


 手を繋いだまま、一緒に路地から表通りへと出る。スキルの隠密を発動しているため、特に目立つことも無い。

 そのまま通りを抜けて貴族街へと入る。しばらく歩くと白い外観の建物が見えてた。あれが『フローラ』だ。

 ガチャリと扉を開けて、中に居た女性店員に声を掛ける。


「すまない、2名なんだが席は空いているかい?」

「…はい。」


 ポーっとした顔で店員さんに見つめられるがいつもの事だ。どうやら俺はかなり整った顔立ちらしい。濃紺の髪の毛に白い肌。適度に引き締まった身体にすらっとした手足。こればっかりはしょうがないのだ。なのに何故背中を抓るのだミヤよ。解せぬ。


「できれば、個室が良いんだが。」

「はい!かしこましました!」

「あ、噛んだ。」

「こちらへどうぞ!!」


 顔を真っ赤にした店員さんの案内で個室へと案内される。

 ミヤの椅子を引いて先に座らせる。向かい合うように反対側の椅子に座ってメニューを開く。


「一番上のコースで頼む。お酒は料理に合わせてもらっていいかな?あと、一杯目は乾杯用にシャンパンをお願い。」

「かしこまりました。ごゆっくりお過ごし下さい。」


 まだ顔の赤い店員さんがペコリと頭を下げて個室を出ていく。

 煙草に火を付けてふぅ~と煙を吐き出す。


「それでどういう風の吹き回し?」

「何が?」

「こんないいお店に連れて来てくれるなんて。」

「なんもないよー。ただいつものお礼にと思って。」


 少しだけ茶化すような視線で問いかけてくるミヤに軽く答えていると、乾杯用のシャンパンが届いた。


「それじゃあ乾杯しようか?」

「ええ。何に乾杯?」

「う~ん。仕事の成功と2人のこれからに?」

「なんで疑問形なのよ。」


 ぷくりと頬を膨らますミヤに笑いながらもう一度声を掛ける。


「ふふっ。それじゃあ、2人のこれからに乾杯。」

「ええ、乾杯。」


 2人で上品にグラスを合わせてグラスに口を付ける。


「目標までもう少し、なのかしら?」

「そうだね。長いようで短かったね。」

「そうね。」

「ミヤ、もう少し付き合ってね。」

「もちろんよ。貴方と一緒に居ることが私の幸せなんだから。」

「ありがとう。」


 そう言って2人で微笑みあった。

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