第24話 スキルの検証 第3弾
日を改めて、2人はスキルの検証にやって来た。
場所は、瑠璃のいる湖から離れた岩場だ。植物も何も生えていない、岩と土だけの場所である。稜真としては、これ以上自然破壊をしたくなかったのだ。
今回そらは、瑠璃の湖で留守番をしている。氷の魔力を持つそらと、水の精霊の瑠璃は気が合った。
「何から試そうかなぁ~」
浮かれているアリアに、稜真はため息を禁じ得ない。
「なぁ、アリア。考えたんだけどな。あれこれやると、失敗すると思うんだ。だから剣を使うスキル中心に検証したらどうかな? この先も、俺は剣を使って戦うつもりだし、戦いに慣れて剣の腕がもっと上がってから、魔法を考えればいいと思う。どちらも中途半端になるのが怖いんだよ」
「う~ん、それもそうか。剣は予備も含めて、3本あるもんね。──それなら、まずは風刃の呪文。アレンジが出来て、使うにつれて威力が上がったでしょ? どこまで力を加えても大丈夫か、限界を調べておいたらどうかな?」
それもそうだと、稜真も同意した。
ちょうどいい事に、山羊の魔獣が1頭襲いかかって来た。スキルが試せるように、アリアが押さえに行く。
「合図してくれるまで、適当に相手してるからね~!」
「頼んだ。『風刃!』」
切れ味が上がるいつもの状態から、更に魔力を加えていく。
2倍、3倍までは大丈夫そうだったが、4倍まで注いだ時、剣に細かいひびが入りだした。
「ここまでだな。アリア、いいよ」
アリアはタンッと軽やかに山羊から離れ、稜真の後ろに移動した。標的を稜真に替えた山羊が突っ込んで来る。
「はぁ!!」
稜真はかけ声と共に、剣を突き刺した。剣を中心にして、無数の真空の
「…うん、威力あげても2倍までにしとくよ……」
「……あ…はは…。まさか、スプラッタ状態になるとは思わなかったよね……」
山羊の惨状に2人は呆然となった。──先日からこんなんばっかりである。山羊はズタズタに切り裂かれ、原形をとどめていない。こんな状態の山羊を、ギルドに持ち込む訳には行かないだろう。
2人は慣れない手つきで解体し、なんとか無事だった討伐部位の角を確保。食べられそうな肉をアイテムボックスに入れた。ズタズタになった毛皮を含め、残りは埋めた。
残りの剣は2本だ。
剣が痛まない新しいスキルがないか、2人は頭を悩ませる。魔法剣、広範囲殲滅系、一撃必殺の3種類はとりあえず確認出来ている。
「後は属性の種類かなぁ。風の魔法が効かない魔物用に、違う属性が使えるといいよね」
「属性ねぇ」
「あ、ほら! そのものズバリで、炎の魔法剣を使うキャラいたよね! アニメ、エレメンタル・ビーストのレックス」
「レックス? …レックス…、炎の魔法剣を使うキャラ…。ああ、でもあれは確か、剣自体が炎の魔剣だったんじゃなかった?」
炎の属性を持った剣が、レックスの言葉でその力を開放するという設定だった筈だ。
「そうだけど、上手く行くかも知れないじゃない? 検証だから、やってみようよ」
「やってみないと分からない、か。了解……『炎よ!』」
稜真の言葉と共に剣から炎が吹き上がる。
「おお~」
アリアがパチパチと手を叩く。
「あ……。駄目だ、これ」
「どうして?」
「剣が溶け出した」
「あちゃー」
刀身が白熱したかと思うと歪み、どろりと溶け出したのだ。
あっという間に2本の剣が駄目になり、検証は終了するしかなかった。
「いい剣を手に入れるまで、検証は出来ないね~」
「それだけどさ。安い鉄の剣だから気軽に検証したけど、高い剣でやったら、お金が幾らあっても足りないぞ?」
それにこれまでの検証分だけでも、人前では使えないスキルばかりだ。まずは稜真の力を上げるのが先決だろう。
「検証はここまでにして、剣の練習に付き合って欲しいな」
「分かった。お金貯めて壊れない剣買ったら、続きをしようね」
「高い剣が壊れたら、もったいないよ」
「だって! 必殺技使う稜真様が見たいんだもん!!」
「……ったく…」
どこまでもぶれないアリアであった。
結局この日は、夕方まで剣の鍛練をした。
アリアのアイテムボックスに木剣が入っていたので、それを使う。なんでも、領民の子供に剣を教えてとせがまれる事があるので、常に何本か持っているのだそうだ。
稜真はアリアの打ち込みを、ただひたすらに受けるだけだったのだが、力といい、スピードといい、ついて行くのがやっとである。
アリアとの差を、これでもかとばかりに見せつけられた。
(やっぱり、剣の修行を頑張ろう…)
その夜は山羊料理である。
稜真は、山羊の肉は臭いイメージがあったのだが、向こうの山羊とは違うのか、ほとんど臭いは感じない。試しにひと切れ焼いて味見したが、思ったよりも柔らかい。
薄くスライスして、簡単に野菜炒めを作った。あとは、バインズで買ったパンだ。少し品数が少ないかと思ったが、アリアとの鍛錬で筋肉が悲鳴を上げている。顔には出さないようにしているが、今夜は早く休みたい。
そらの分は、塩加減を少なめにした。パンも小さく千切り、そら用の食器に入れてやる。
「クル、ルルゥー」と、そらは機嫌よくついばんでいる。
食事をしながらアリアが言った。
「稜真。デルガドの北西に山があるでしょ? その山の麓近くに、アストンっていう町があるの。あっちは魔物の被害が多かった地域でね。そろそろ様子が気になるから、行ってみない?」
「いいよ。俺はまだまだこっちの事が分かっていないし、色々な所に行けるのはありがたいな」
「そうと決まれば、明日移動しましょう~!」
「アストンは遠いのか?」
「デルガドから乗合馬車で6日くらいかな。馬で行くと、もっと早くなると思うけど?」
「馬? お屋敷の馬をずっと借りるのも気が引けるな。アリアはいつもどうしていたんだ?」
「途中で何か起こってる事もあったから、歩きか乗合馬車かな? 護衛依頼受けた事もあったよ」
「そうか…。どっちにしろ1度屋敷へ戻って、行き先を伝えた方がいいね。2週間では帰れなさそうだ」
「あ、そっか~。気がつかなかった」
「……音信不通の原因が分かった気がするよ」
「てへへ~」
翌朝、旅立ちの前に湖に向かった。
「瑠璃」
稜真が呼ぶと、水音と共に瑠璃が現れた。
「何か御用でしょうか、
「違う町に移動する事になったから、しばらくここには来られなくなる」
「まぁ…。分かりました。たまには呼び出して下さいませね? それと…」
瑠璃は、にこやかに微笑んだ。
「出かけられる前に、魔力の補充をお願いしたいのですわ」
「駄目!!」
「小娘には聞いておりません。主?」
「……それって、どうしても必要?」
「私、不安なのです。この世界に存在を固定されたと言っても、まだ時が経っておりませんもの。唯一の絆である主と離れるのが…不安でなりません…。主の魔力が体に流れていると、この世界に存在出来るという、安心感に包まれるのです。いけませんか?」
「はぁ、分かった。──アリア、あっち向いてて、って、んぅっ…」
言っている途中で、頬を両手で挟まれ口づけられる。
「必要かって質問に! 答えてなかったでしょ!? なくても大丈夫なんでしょ! だから長いんだってばっ!!」
アリアが怒りで顔を赤くして叫んだ。
アリアの様子など意に介さず、しばらくしてからようやく瑠璃は離れた。
「…ん……はぁ…。瑠璃、それ本当?」
稜真はふわりと宙に浮かぶ瑠璃を、眉をひそめて見やる。
「小娘のくせに、
「瑠璃さん?」
繰り返し尋ねる稜真に、瑠璃は渋々答えた。
「必ずしも必要ではないのは確かです。ただ、主の魔力があると、安心するのも本当なのです。──長く離れると聞いて、不安になった心が落ち着きましたわ。主、ありがとうございます」
「もう1つ、聞きたいんだけどさ! 口からじゃなくても、いいんじゃないの!?」
「………そうなの?」
「体が接触すればいいので、場所は問いませんわ。口が1番効率よく、魔力を頂けるのです。少しでも主の負担を減らそうとしましたのに、小娘は何を邪推しているのかしらね」
「口からじゃなくていいなら、今度からは違う場所にしてくれるかな? 俺に負担がかかってもいいからさ」
今現在、負担がかかりまくっている。
「……分かりました。小娘、覚えておいで…」
「こっちのセリフだし!」
相変わらず殺伐とした2人である。稜真はそらと触れ合って癒されながら、その様子を眺めていた。
(仲良くなれないもんかなぁ……)
先は遠そうだ。
その日はバインズの宿屋で泊まった。
稜真は久しぶりに、ゆっくりとお風呂を堪能した。小屋では体を拭くだけだったのだ。そしてお風呂から上がったアリアと合流し、稜真は日課のお手入れをしていたのだが──。
「アリア、まだふくれているの?」
「だって! 瑠璃が稜真にベタベタするのが嫌なの! 2回もキスするなんて!! うう~」
アリアがうなり始めた。稜真は何も言わずアリアを抱き上げて椅子に座ると、自分の膝の上に乗せた。そのまま抱きしめると、背中をポンポンと叩く。
「また子供扱いする…」
「俺はね。瑠璃を呼び出した責任があるから、魔力を分ける事も仕方ないと思っている。もう口からはされないようにする。約束するよ」
「……うん」
「俺が自分で一緒にいる事を選んだのは、アリアだよ」
優しい言葉にアリアが泣く。稜真は泣き止むまで、アリアを抱き締めた。
「──思ったんだけど、稜真は瑠璃の言う事を素直に聞きすぎ。悪い女に騙されないか、心配になっちゃった」
「それは…自分でも思ったから気をつけます…」
「ホントに気をつけてね」
「はいはい。ご機嫌が直って良かったよ」
「私にもキスしてくれたら、機嫌なんてすぐに直ったのにな~」
「大人になったらね」
「大人になったらしてくれるのね! 約束だからね!」
「……あれ? え~、社交辞令という事で…」
「
「アリアに好きな人が現れなかったら、ね」
(稜真以上に好きな人なんて現れる訳ないじゃないの~)
約束を取り付けたアリアは、にんまりと微笑んだのだった。
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