異世界に転移してラーメン作ってる俺が、ドワーフその他に囲まれてハーレムな件

西川 旭

01 ここの連中がラーメン嫌いだったらどうしよう

 ☆


 念願の、自分の店を、手に入れたぞ!


 俺、佐野二郎27歳は喜びの感情にあふれ、バイクで深夜の高速道路を突っ走っていた。

 中学を卒業してから近所のラーメン屋でバイトをしながら高校通い。

 高校を出てからは、同じ店でバイトを続けていた。

 しかし店の親父さんが体調を崩し、

「老後は息子夫婦のいる空気の美味い北海道でのんびり過ごすわ」

と告げて閉店のお知らせ。

 世話になった愛着のある場末の店はなくなってしまったが、俺はすっかりラーメンの魅力に取りつかれていた。

 そのため、この歳になるまでの間、生活のために某有名ラーメンチェーン店で働き、自分の夢のために全国の美味いと言われるラーメン屋を回りに回った。

 全ては自分の店を持ち、独立するためだ。


 そんな日々を過ごしていた時、転機が訪れた。

 うちの地元に本社がある某食品会社が、自社ブランドでラーメンフランチャイズを立ち上げた。

 自社で作っている加工食品などを、ラーメン屋でおいしく食べられる機会を提供、と言うコンセプトのようだ。

 その一軒目のフランチャイズ店長として、地域きってのラーメンバカとして多少は知られていた俺に白羽の矢が立ったのだ。

 元々働いている店から引き抜かれる格好になってしまったが、会社と会社の偉い人同士の話し合いがすんなり進み、円満転職ということにしてもらったのもありがたい。

 フランチャイズの親元から、こういうラーメンを作れと言う指導やプロデュースは当然ある。

 しかし利益目標さえ到達してくれれば、メニューのアレンジや店舗の内装などは俺のやりたいことをある程度反映してもいい、と言ってくれた。

 俺にとっては破格の条件だった。

 とうとう自分の店が持てるんだ、首輪がついているとはいえ、一国一城の主になれるんだ!


 夢見心地でアクセルをふかし、踊るように愛車を傾けてカーブを曲がる。

 それがいけなかった。改めて考えると当然のことだがな。

 突然降った大雨で路面が滑り、俺と愛車は猛スピードで道路端に突っ込んだのだ。


 何が起こったのかもはっきりわからない。

 体もまともに動かない。

 あたりがうるさい気もするが、音をはっきり判別できない。

 痛みとめまいと吐き気と耳鳴りと、その他いろいろな感覚がごちゃ混ぜになって、最終的に何も感じなくなった。

 俺は死ぬのかな、そんなことも頭をよぎったが。

 それよりも、次に試作するラーメンはもう少しラードを利かせよう、冬の寒い日なんかは格別だ、なんて考えていた。



 ☆



「なんだ、まさかとは思うが外からのお客さんか」

「おうそうじゃ。河原に打ち上げられてたんじゃ。もう十日も寝たきりじゃわい」

「最近はとんと来んかったが、生きとる間にまた見れるとはのう」

「俺見るの初めてだよ。細っこい奴だな、役に立つのか?」

 耳元でなにやら話しているだみ声が響く。

 意識が戻る。

 指、動く。握れる。

 良かった、また包丁が持てる。中華鍋を振ることができる。

 足、動く。腰、曲げられる。

 腹が減って力がイマイチ入らないが、回復すれば寸胴鍋も持てる気がする!

「俺は生きてる! ラーメンをまた作れるぞ!」

 目覚めての第一声は、迷いもなくそれだった。

 急に起きた俺を囲んでいる小柄なオッチャンたちが、声を失った状態で俺を見た。


「そんで、ここはいったいどこなんだ」

 目覚めた俺は藁を積んだ上に腰かけて、供された銅製のカップで白湯を飲みながら尋ねた。

 どうやらここは切った石を積み上げて作られた小屋らしい。

「お前は、まあ外から来た、わしらと違う『ヒト』じゃな。おいおいわかることじゃが、ここはお前がいた国でもない、別の場所じゃ。たまにこういうことがある。向こうに戻る手段はないからの。早々に諦めて割り切ったほうがええぞ」

「別の国って言われてもな。オッチャンら、俺と同じ言葉をしゃべってるじゃねえか」

 まごうことなき日本語を。そうでなきゃ会話が成立しているのは俺の幻覚か。

「ぬ? 前に来た『ヒト』もそんなことを言っておったの。わしらには、お前がわしらの言葉をしゃべっているように聞こえるんじゃが」

 よくわからない現象が起こっているようだった。

 俺の話相手をしているオッチャンは、この集まりのリーダー格、長老のような存在らしい。

 俺の目には全員が「小柄でごっついオッチャン」にしか見えなかったが、よく見ると「長老」が一番白髪が多い。

 あと、語尾に「じゃ」って付けることが多い。それ以外の区別はできなかった。

「まあいいや。よくわからんが、助けてくれてありがとう。お礼をしたいんだが、オッチャンら腹減ってないか? 厨房を貸してくれないか?」

 俺にできることはラーメン(およびその他の料理をある程度)作ることだけだからな。

「なんじゃ、お前は料理人か」

「まあそんなようなもんだ。自慢じゃないが、いい仕事するぜ」

「ふむぅ。わしらの村では炊事場は女の領域なんじゃがな。まあええじゃろ、お前がどれだけ役に立つもんか見るにもちょうどええわい。やってみろ」


 くくく、俺を試すつもりか。上等だぜ。

 一口すすって、腰抜かすんじゃねえぞ。


 こうして、異世界に放り出された俺にとって、記念すべきラーメン一杯目の調理は始まった。

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