在職日数23日目
「えっ……?」
「だからだね、アタイらと一緒に戦ってほしいのさ!」
それはいけない。総理が一団体に、それも宗教絡みの組織に力を貸すことはできない。自分とて死すれば火葬してもらうだろう仏教徒ではあるが、それを支持すると公言するには立場が悪いのだ。お参りする神社とて選ばなければいけない時代なのに、良く分からない思想に肩入れするとどんなヤジが飛んでくるか。
それに戦うのもマズい。一方のシンボルになってしまえば、日本や世界は崩れてしまう可能性があった。宗教にも戦争にも、関わってはいけない。
「なに、難しいことは言わないよ。ただ神輿に乗っていてくれりゃあ、アタイたちが戦うからね」
「いえ。それも大いに問題なのですけどね……」
神輿に乗るなんて、そんなことはできない。もしそのような写真なり記事なりが流出しようものなら、失脚どころでは済まない。末代まで祟られるかもしれない。
この森の乙女たちは強さを自負しているのか、太郎を――正確に言えばゴーダの子孫を――祀り上げれば、自身が負けることは考えていないようだった。確かに彼女たちの体は筋骨隆々で、まるで格闘技でもやっているのではないかと思い違えるほど。太郎だけでなく、そこら辺の男どもさえも、簡単に負かしてしまいそうである。
その筋肉にビビって、自分が違う人物だと明白にしてしまったとき、己がどうなるかを想像していまだに言えないでいた。本当は声を上げて言いたい。違うのだと。
そうすれば解放してくれるだろうか。……いや、嘘か何かだと一蹴して、聞いてくれないのがオチだ。せめて少しでも対抗する力があれば、状況は変わっていたかもしれない。
「いえいえ、人を傷付けることは、したくありませんしね」
魔力が何たるかはまだ理解できていないが、いままでさらされた命の危険のことを考えて否定する。思えばライラン側は、決して誰かを攻撃しようとはしていなかった。多少の魔力の差から、加減を間違えることはあったが、それでも。
「そういや、倅の名を聞いていなかった」
「ミスター・ライランは、心優しいのでしょうかね」
「何、ミス……?」
やっと思い出したのか、ベトはこちらの名前を訊こうとする。それに太郎の独り言が重なって、一瞬微妙な空気が流れた。否定の為に首を横に振り、何と答えようかと唇を曲げる。
「あー、そー……ですね。ソーマ……いえ、ソーマスクとでも呼んでください」
渾身の親父ギャグだったが、ベトは気にするでもなく受け入れた。ほとんど初と言っていいボケをかましたのに、受け取ってもらえないというのはこれほどまでに悲しいものなのか。
太郎はがっくりと肩を落とし、ズレたマスクを上げる。質感は紙のようだが、形は日本と同じく蛇腹。しかしどぎつい謎の模様が入っていて、テダンの趣味を疑った。付けられたときは柄が見えなかったので気に留めなかったが、改めて確認すると絶句ものである。
「ソーマスク? 変わった名前だね。まぁ、ゴーダも変なヤツだったから、みんな気にしないよ。チェイルの紋様を作ったのもゴーダだからね」
「え、あ、あー……」
指差されたのは先程触っていたマスクだ。なるほど、この紋様はかのゴーダ氏が作ったものか。ミスター・テダンも苦労人ですね。
律儀に祖父の作った家紋のようなものを守り続けているのだから、きっと素直なのだろう。もっとその素直さを勉学に活かしてほしいものである。とはいえ気にするべきはライランであるので、太郎は己の国民に対して、何か政策を取れないものかと考えを巡らすのだった。
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