配信、三回目

「配信始めて二日目で彼女ができたの?」


 清水が帰ったのち、大和にそんなことを問われたが、そうではないと答えておいた。ただ、大和は全く信じておらず、隠さなくていいのに、とむくれた。

 仕方なく、まだ友達、と付け加えた。それである程度納得したのか、大和は引き下がった。

 さておき。

 配信三回目、である。

 僕の何が人気になるのかわからないが、出だしの人数は千五百人くらい。物珍しさで聞いていた人が減っているとしても、それでもまだ相当な人数が視聴している。本当になんなのだろう? 僕に何を期待して集まっているのだろうか。


「集まってくれてありがとう。皆が何を期待して視に来ているのか正直さっぱりわからないんだけど、なるべく頑張るよ。期待しないで聞いててくれ。

 そうだ、先に、ヤマトの様子を伝えておこうかな。ヤマトのファンもたくさんいるだろうし、状況も聞きたいだろ?

 ヤマトは、腕にヒビが入ってるくせにまたダンスの練習してる。一日でも空けると感覚鈍るから嫌なんだって。頑張るのはいいことだけど、やっぱり休むときや休んでほしい。その辺のバランスをとれないのはヤマトの弱点だとも思う。頑張り始めたらとことん頑張っちゃう。止まれないんだよな。おかげで色々な才能発揮してるけど、いつか過労で倒れるんじゃないかって心配になるよ」


『たしかに。ヤマト君、頑張りすぎかも』

『頑張ったおかげで短期間で登録者一万人に達したのも事実。心配は心配だけど』

『中身も面白いけど、単純に応援したいっていう気持ちもあって、いつも視てます。でも、確かに心配かも』


「視聴者も心配してくれるんだな。ありがとう。

 それとさ、ヤマトのやつ、自分のチャンネルがどうなってるか、今でもすっごい気にしてるんだよな。いつもそわそわしてるっていうか……。変な例えだけど、クスリの切れたヤク中みたいな? 気になって気になってしょうがない、って。

 ゼロから始めて、かなりの登録者が集まって、それで気になっちゃうんだろうけど、そんなに精神的に不安定になるなら、配信者はまだ早かったのかなとも思う。配信とか動画投稿なんてさ、上手くいったらラッキー、ダメならダメでしょうがない、くらいのスタンスじゃないと続かないと思うんだよな。配信でプレッシャーを抱え続けて、離れてもこっちのこと忘れられなくて……。こんなんじゃ身がもたないよ」


『オニイサンの言うことももっとも。ただし、配信で潰れるのに、年齢は関係ない。二十歳過ぎてようが、病むやつは病む』

『心配はごもっとも。だけど、配信を始めてから数ヵ月で一万人の登録者を集めたのは、素晴らしい才能。埋もれさせるのは惜しい』

『才能ない人は何年頑張っても三桁もいきません。まあ、それが自分なんですけどねw』


「確かに年齢は関係ないかー。迷惑配信者だって年齢問わないもんな。っていうか、そもそも登録者一万人って、多いの? 僕はその感覚がわからないんだけど……」


『素人の世界では十分に化け物級。ちなみに、迷惑配信は、とにかく再生されないと生活が立ち行かない人が手を出す面もあると思う。心の余裕大事』

『何十万人とか、百万人とか行くのは、テレビである程度名の知れた芸能人。下地があってこそ』

『素人でも何十万はいく可能性あるけど、ごく少数』

『可愛い女の子なら、見た目だけで人が集まることもある。やってることがくっそくだらなくても、可愛い子の生活を垣間見てウホウホしたいおっさんは無数にいる。でも、ヤマトは男子。見た目は結構かっこいいけど、めっちゃイケメンってわけでもない。性別とか容姿のアドバンテージなしでここまで来るのは、本当に才能だと思う』

『一万人いたら、広告収入でひとまず生活できるくらいになるはず。高校生ならむしろ稼ぎすぎ注意。確定申告とか、扶養から外れるとか』


「そっか……。ヤマトって、やっぱりすごいんだな。配信とか全然詳しくなくて、何となく頑張ってるなー、くらいの感覚だったんだけど、すごいことやってたんだな。実は、家族まで関心を持ちすぎると逆にプレッシャーかなとも思って、ちょっと距離をおいてたところもあるんだよ。家族にまで期待され過ぎてもつらいだろうって。家でいるときくらい、配信のこと忘れられた方がいいだろうって」


『家族の気遣い、素晴らしい』

『配信も、家族の協力がないと続かない』

『関心を持たないという気遣い、ありがたいです』

『ヤマト君の家族、皆いい人な気がする』

『ここの登録者は、皆ヤマト君が好きなんで、安心してください。ヤマト君は真面目で、他人を傷つけるようなことも、不快にさせるようなこともしません。配信者はそういう人だけがしてほしいです』


 それから、ヤマトに対する労いや称賛、好意の表明が続いた。

 なぜだろう、自分のことでもないのに何故か気持ちが昂ってきて、気づけば涙が流れていた。


「あ、えっと、ごめん……なんか、自分のことでもないのにすごい嬉しくて……」


 必死で涙を拭う。しかし、一度泣き出すとすぐには止まらなかった。


『男にだって泣きたいときはある』

『テレビならやらせを疑うとこけど、お兄さんがやるとガチにしか見えない』

『男の子のガチ泣き、滾ります』


 しばし泣き止むまではトークを中断。それでも視聴者は減らず、逆に増え続けた。


「……えっと、そろそろ話を変えよう。ヤマトの話はもういいや。かといって何を話すかもたいして決めてないんだけど……」


 半ば無理矢理話題を変え、ぼちぼちと配信を続ける。何が面白いのか相変わらず視聴者は減ることはなく、むしろ増え続けていった。

 二十一時で配信が終わると、清水からメッセージ。


『今日も良かったよ! 途中で泣いてるところとか、もらい泣きしちゃった。普段はクールな感じだけど、意外と情に脆いところもあるんだね。新しい一面が見れて嬉しかった』

『わざわざありがとう。こっちとしては恥ずかしいばかりなんだけどな。もう泣かないよ』

『泣きたいときは泣けばいいじゃん。泣ける男の子は好感度高いよ!

『別に好感度ほしいわけじゃないんだけどな。とにかくありがとう』


 それからも、清水から称賛のメッセージが届く。あまりにそんな内容が続くので、何か裏の意味でもあるのではないかとふと思ってしまったくらいだ。

 だいたい、たいした話もしてないのに喜びすぎだと思う。好意を持ってくれているというが、そのせいで色々と補正されているに違いない。清水の称賛はある程度の受け流すのが得策だろう。

 そうするうちにやがてメッセージのやり取りも終わり、僕は自分の時間を楽しむ。今日は小説を読んだが、やはり、小説の密度に比べれば僕の話など取るに足らないことばかり。あの程度で、誰もが僕を称賛することなんてない。

 ともあれ、楽しんでくれる人がいるということも忘れてはいけない気がする。何を楽しむかは人それぞれなので、僕は僕で何かができているのだと思おう。

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