メッセージ
「死にたい、か……。そういう相談は専門のところでやってほしいし、その方が絶対いいと思う。うつ病だとかだったら、特にそう。僕はただの高校生だし、世の中の苦労なんてたいして知ってるわけでもない。
でも、程度によっては、専門のところに相談するのは物怖じしちゃう気持ちもわかる。気になったから僕なりの意見を述べようと思うけど、必要なら、ちゃんと専門機関に相談すること。いいね?」
同じ人物からの返事はない。しかし、僕は構わずに語りかける。
今だけは、その誰かさんだけに向かって。
「一言で「死にたい」といっても、その中身は色々あるのは承知してる。僕の言葉が、的外れになってしまっていたらすまない。
……僕は、死にたいと思うのは、生きたいという強い気持ちの裏返しだと思うんだ。本当は、すごくすごく生きたい。こんな風に生きたい、あんな風に生きたい、って思ってるのに、それができなくて苦しい。本当は生きたいのに、そう思うのが辛すぎて、死にたい、って気持ちに刷り変わっちゃう。大好きな人が自分のものにならないなら、いっそ嫌っちゃおう、みたいな。
始めから死にたいと思っている人なんていない。死にたい、の裏側にある切実な願いは、生きたい、という強い気持ち。
もし、死にたいと思うなら、同時に、本当は自分は生きたいんだ、っていう気持ちがあるってことにも目を向けてほしい。
だからって、死にたいほどの辛い気持ちがすぐになくなるわけじゃない。だけど、死にたくなるほど生きたいと思うなら、生きてほしいと思う。
どんな形だっていい。どれだけ惨めな姿を晒すことになったとしても、後ろ指さされることになったとしても、構わないと思う。どうにか、なんとしても生きてほしい。だいたい、もし、君を蔑んだり、軽んじたりする人がいたとしても、そんな人の意見なんて、聞く必要はない。君を嫌うごく一部の人の言葉より、君を認めてくれるもっとたくさんの人達の言葉に耳を傾けよう。
君にどんな事情があるか、僕にはわからない。僕の薄っぺらな言葉じゃ、どうしたって救えない人もたくさんいることもわかってる。僕にできることは、ちっぽけなエールを送るだけ。
どうか、生きてほしい。今ここで、僕にメッセージをくれた、君。君が死んでしまったら、僕はとても悲しい。死にたいと思っているのなら、実のところ、僕にとっては、かけがえのない同士のようなものだ。僕だって、できすぎる弟と比べて、自分のちっぽけさに押し潰されそうになって、死にたくなったことはたくさんある。だから、君は僕の同士で、そんな人が死んでしまったら、本当に悲しい。
もし、僕の言葉が届くなら、どうか、生きていて。
それが無理なら、せめて死なないで。
生きる、なんて前向きな気持ちじゃなくてもいいから、死なないで。
そして、いつか少しでも気持ちが変わったら、僕とまたお話しよう。
あのときはすごく辛かったよな、って笑いあおう。
その日が来るのを、僕はずっと待ってる」
熱く語って、ふと、なんだか急に恥ずかしい気持ちになってしまう。
相手が本当にどんな状況にあるのかもわからないし、単なる冗談半分のメッセージだったかもしれない。画面の向こう側で、ケラケラ笑っているのかもしれない。
「……えっと、ただの高校生が熱く語ってしまったけど、僕からのメッセージは以上。何か届いてくれたらいいけど、どうだろうか。
それじゃ……別にないがしろにするつもりはないけど、なんだか恥ずかしくなってきたので、別の話に移ろうか」
別の話題を探っていく。その間に、メッセージが一つ。
『ありがとう』
同一人物からのその一言に、胸が熱くなる。
錯覚なのかもしれないけれど、何かが届いた、と思えた瞬間だった。
程なくして、終了予定時刻の二十二時になる。僕は端的に別れを述べ、配信を終了。ふぅー、と息を吐いた。
「……なんか、妙な気分だ」
楽しいとか、嬉しいとかじゃない。でも、何かに満たされていた。
名前も顔も知らない誰かは、果たして僕の言葉をどう受け止めただろう。少しでも勇気づけることがでただろうか。
そうだったらいいな、と祈りにもにた思いを抱きながら、僕は配信設備を片付け始めた。
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