雑魚乙

第1話 ロックンロール・ジーザス・リザレクション そして傲慢なディレイ

近頃では技術の進歩によりデータの蓄積さえあればアーティストの声や作曲手法、言葉選びのセンスでさえCPUで再現出来るらしい。

つまり遺族(いるのならば)の同意さえ得られれば伝説のエルヴィス・プレスリー、ドカドカ五月蝿い歌姫ジャニス・ジョプリン、グランジヒーローのカート・コバーンでさえ復活出来る訳さ。


ここでいう復活ってのは生きていた頃の声を切ったり貼ったりして関係者が曲を無理矢理作りあげるのではなくて……これはすでにビートルズやクイーンがやっている訳で。

文字通り0から新たな曲を創り出すということ。現代技術によって、そこに再び具現化された人格、意志をもってして創作活動が行われるということだ。

そこでふと疑問に思う。0って?オリジナルって……?



残暑とも言える湿度を伴うジットリとした朝、俺はやはり寝間着をジットリと湿らせながら目を覚ました。

かしましく喋るニュースキャスターの声をやや不快に思う。網膜に刺さる画面の光。どうやら深酒し、テレビを眺めながら寝落ちし、そのままにしていたようだ。


ボンヤリと眺める画面には「ジョンレノン3度目のデビュー!」と。

そうか。1度目はビートルズ、2度目はソロ名義。そして3度目はVアーティスト(Vtuberのようなもの)としてか。

オノヨーコやらジュリアンレノンがよく同意したもんだ。

プロモーションのためかサビのワンフレーズだけ流れる。

うん。確かに。このメロディー、ぶっきらぼうな歌い方、愛と平和と孤独が混ぜこぜになったワードセンス。確かにジョンレノンだ。そりゃそうか。

だって今では偉大な彼の全ては解析されているのだもの。


続いて中継でジョンレノンからのコメント。

「ロックンロールもキリスト教もまだ無くなっていない。しかし僕は復活した。

想像してごらんラブ&ピース、市民に力を、そしてヤーブルース、なんちゃらかんちゃら……」

画面に映る姿も声も1980年に亡くなったその時のまま、彼は元気そうだ。


天気、グルメなど話題を変えながら朝のニュース番組は退屈に続く。

俺は二日酔いに苦しみながら水をガブガブ飲みつつ画面を睨み続ける。


今年はウイルス騒動があり、ソーシャルディスタンスとやらで出演者は皆、リモート出演だ。格子状に区切られた画面には各々の顔が映る。

実際にテレビスタジオにいるのは司会者くらいじゃなかろうか。

そういえば俺も長いこと家に引き籠もっている。たまには外に出ないとなあ。世間はどうなってんだろ?


しかし今日は画面のノイズが酷いな。

中継機材のトラブルか時々止まるしな。

…うん?あれ?司会者がさっきと同じ事を言っている。というか3回くらい同じ事を言ってない?

他の出演者と話が噛み合ってないし。

あー…放送事故か?O倉さんボケたか?

いや、俺が吞みすぎたか。まだ酔ってんのかなあ…



その頃、テレビスタジオでは製作スタッフ達がトラブルに追われている。


「ディレクター!O倉さんのデータが壊れていたみたいなんですが、なんとか復旧しました!動作もバグってましたが放送時間は乗りきれそうです。多分…」

「おいおいー…頼むよー。放送前にしっかりバグ取りしといてって言っただろう。」

「スミマセン!でもデータ自体があまり無いんですよねえ……あの人、早く死んじゃったし。少ないデータだと安定しなくて。」

「そっかあ…仕方ねえな。番組終わったら前の前の司会者の人格データを差し込んでおいて。どうせわかりゃしねえだろう。」

「そうっすね!そうします。

しかしこんなことになるとはなあ……今日の出演者もほとんどデータ出演ですもんねえ」

「うーん。このご時世では仕方ないよなあ。どうせ他の局もそうだろ。

なにせ公表されてないが、すでに日本国民の8割はウイルスで死んでるからなあ……」

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