ノンストップ荷運び恋愛アクション
春嵐
01.
人に逢いたかった。ただ、それだけの理由で始めた仕事。
「次。3番倉庫からふたつですね」
倉庫のなかを走り回る。
近くの港で下ろした荷を、卸す。倉庫を作って、そこに入れて、客や取引先が来たら渡す。それだけ。
「あったあった」
荷台に載せて、走って荷台を転がす。
雑に動かしますという注意書きが依頼書の一番分かりやすいところに書いてあるので、雑に動かしていい。
荷台。ドリフトさせて止める。
「はい。三番倉庫からふたつ。お待たせしました」
中身は小麦粉。海外の、なかなか質の良いやつ。
「はい。どうぞ。では、またご依頼ください」
客が両肩に小麦粉を抱えて、満足そうに帰っていく。
「ふう」
経理は外部に委託していたけど、無駄に利益だけが増えていく感じだった。
お金はいらない。もう持ってるし。
それよりも、人に逢いたい。誰だか分からないけど、とにかく、運命の人とやらに逢ってみたい。
「棚整理、しようかな」
次に来る船まで、時間がある。
受取人が来なかったり、なんらかの理由で廃棄処分になった荷物の整理。
「よいしょ。よいしょ」
力は強いほうではなかったけど、荷台と荷を下ろす機械でほとんど筋肉への負担はなかった。走り回るのは好き。荷台に飛び乗って、どこまでも走っていたい。
「よいしょ」
棚から荷物をすべて下ろした。あとはこれを、業者さんに持っていってもらえば大丈夫。
倉庫を出た。
いい陽射し。
せいいっぱい伸びをして。
「さて」
おなかすいたから、おひるごはんにしようかな。それとも、先に依頼来てるか確認しようかな。
「ん?」
倉庫の外側の隅。
陽射しを遮る、影。
「あれ」
男の人だった。
倉庫の外壁にもたれかかって、じっとしている。
「あの」
声をかけようとして。
男の人、口に人差し指を当ててこちらにサインを出している。静かに。
両手で大きく輪をつくって、分かりましたのサイン。そして黙る。
遠くで、声がした。複数人。人の気配が、少しずつ近付いてくる。
男の人に、手招きのサイン。ゆっくり、男の人がこっちに近付いてくる。
近くにあった箱を被せ、荷台を持ってきて隣に。
「すいません」
遠くから声。
「はぁい。少々お待ちください」
とだけ大きな声をかけて。
箱のなかにも声をかける。今度は小声で。
「うごかないでくださいね」
走って、倉庫から受付所に。
「はいはい。おまたせしました」
「県警です」
「警察のかた」
「ここらで、不審な男の人を見ませんでしたか?」
「不審な男の人。見てないですね。なにかあったんですか?」
「いえ。失礼しました。不審な男の人を見かけたら、すぐ警察まで知らせてください」
「はい。わかりました。ごくろうさまです」
警察のかたがた。いなくなるまで、お見送りをして。
また倉庫のほうに走る。
箱。そのまま。動いてない。
「いま開けますね。よいしょ」
男の人。体育座りしてる。
「たすけてくれて、ありがとう」
「いえいえ。警察に追われてるんですか?」
「ええ。私も警察官なんですけどね」
「へえ。
「内ゲバかあ。まあ、近いかもしれないです。このお礼はいつか必ず。私はここで失礼します」
「待って」
「はい」
ついに逢えた。
「私も行きます」
「あ、いや。一般人のかたを巻き込むのは」
「待ってたんです。こういう、誰かに逢う、ロマンス的なやつを」
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