極北の聖女は王太子に虐待され、氷牢に閉じ込められ、凍死させられそうになりました。

克全

第1話:陰謀

「王太子殿下、本当にあのような貧弱な娘を正室にされるのですか?」


 激しい性交の果てに、淫臭に満ちた室内で、妖艶な女が王太子に囁く。

 この言葉には王太子を惑わす色香が含まれている。

 いや、耳に言葉を囁きながら、身体中を使って王太子に快楽を与え、反論も疑問も思い浮かべられないようにしていた。


「しかたあるまい、あのようなチンケな娘を正妻にしたくはないが、神々の祝福が少なくなり、融水の量が減ってしまっているのだ。

 神殿長の話も、王家の記録でも、こういう時は王家に聖女を迎えろとある」


 悪女の誘惑に負けず、いや、負けたいのだが、幼い頃から教えられたこの国のしきたりは、そう簡単に捨てられない王太子だった。


「まあ、賢明な王太子殿下とも思えない事もおっしゃいます。

 今の王国には、黒油があるではありませんか。

 黒油を使って氷を溶かせば、聖女の力など不要でございます」


 最初に王太子を愛撫していた女とは別の女が、巨大なベットの一角からにじり寄り、最初の女と共に王太子を愛撫し始めた。

 驚くほど最初の女と似た女、それは双子の妹クララだった。

 コサック侯爵家の双子の姉妹ハイディとクララは、その妖艶な姿態と鍛え抜いた性技を駆使して、王太子を籠絡しようとしていた。

 そしてそれはほぼ達成されようとしていた。


「だが、だがそれでは、この国のしきたりが……」


「大丈夫でございますよ、王太子殿下。

 しきたりなどは徐々に変わってゆくものでございます」


 姉のハイディが、王太子を自分の上に受け入れながら耳元でささやく。

 それだけではなく、妹のクララが王太子の背後からのしかかっている。

 最初は優しく、徐々に強く、王太子を責める。

 責められながら責める快感に、王太子は思わずうめいてしまう。


「だが、だが、父上が、国王陛下が反対されたら……」


「そのような心配は不用でございますよ、王太子殿下。

 私達の叔母、王妃殿下が国王陛下を説得してくださいます。

 私達と同じように、このようにして」


「「ふっふっふっふっふっふっ」」


 双子の姉妹は妖艶に、でも、どこか蔑み嘲笑うかのように。

 二人から見れば、王太子も国王も自堕落な馬鹿に過ぎない。

 女の身体と性技に溺れ、政を放棄して後宮に籠るなど、為政者として失格だ。

 だが、たいていの男は女の誘惑には抗えない。

 王家を乗っ取り意のままに操る、コサック侯爵家の女系二代に渡る謀略が完成しようとしていた。


「では、では、ではこうしよう。

 聖女は形だけの正妻にして神殿に飾り、実権は全て二人に与えよう」


 王太子の最後の抵抗に、双子の悪女は顔を見合わせて最後の確認をした。

 そしてある手段を取ることにした。

 コサック侯爵家が多くの奴隷を犠牲にして完成させた秘薬、人を廃人にして意のままに操るための毒薬だ。

 二人の悪女は、激しい交合で喉が渇いた王太子に、毒薬入りの酒を飲ませた。

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