駅前路上ライブ、アコギ一つ。

矢凪祐人

第1話

「ありがとうございました」


駅前路上ライブを終える言葉は、いつも来てくれる若い女性のためだけに発せられる。


「頑張ってくださいね」


彼女は言うが、他に誰も集まっていないことが全てを表している。アコギをケースにしまって一人、駅の改札を通る。残高203円。


人のまばらな駅のホーム。時刻は19時半。最近は早く切り上げている。

向かいのホームで部活帰りの高校生が楽しそうに会話していた。


俺にもそんな時代があった。高校時代、四人バンドで毎日狂ったように音楽に埋没した。しかし高校二年、三年、大学生。時間が経つうちに一人、二人とバンドを離れていった。大学を卒業した今、もう周りには誰も残っていなかった。


「はあ」


ため息が出てしまう。もう俺も二十四だ。あの頃馬鹿みたいに見た夢と折り合いをつけないといけない時期が来ている。


そういえば最初にバンドを抜けたあいつは外資系ITの企業に入っていた。エリートだ。

会社員か。大人か。対する俺は夢にしがみつくフリーター二十四歳だ。俺だけが取り残されていた。


電車がもうすぐ到着することを告げるアナウンスが鳴った。その音が頭痛がしそうなくらい妙に頭に響いた。

その瞬間、頭にふとよぎった考えはその時の俺にとっては自然なものだった。


死んでしまおうか。


夢と折り合いをつけることもできない。かと言ってそれを叶えるだけの才能も技量もない。うまく生きていけないのだ。自分は。死んでも誰にも影響を与えないんだろう。そう思った。なら生きてる意味などない。死んでやろう。そう思った。


ホームの縁を見る。左を見ると電車のライトが近づいていた。こんなにも近くにゴールはあるんだ。一歩、二歩と縁に近づく。


ギターを背負っていたらうまく死ねないかな。一つの疑問が頭をもたげた。

まあいい。ギターと共に死のう。何だか綺麗じゃないか。小説みたいじゃないか。


最後の一歩を踏み出し、身体は線路に倒れ込むように落ちていった。電車の警笛が叫ぶように響いていた。

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