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 昔、男は人の娘を盗み、武蔵野へ連れて行く途中で通報されたため国司に追われ捕らえられました。女を誰にも見つからないように草むらの中に隠して逃げたのですが、追っ手が「この野にどろぼうがいるようだ」と火をつけようとしたので、女は草を焼かれては隠れることもできず困ってしまい歌を詠みました。


  武蔵野は今日はな焼きそ若草の つまも籠もれり我も籠もれり

  (今日だけは武蔵野を焼かないでください 愛しの夫も私も隠れているのです)


 その歌を聞いた追っ手は女を捕まえて男と共に連れて行きました。



【十二段】


 昔、男ありけり。人のむすめを竊みて、武蔵野へて往くほどに、盜人なりければ、國のかみにからめられにけり。女をはくさむらの中に隠し置きて逃げにけり。道くる人、この野は盗人あなりとて、火つけんとすれば、女わびて

  武蔵野は今日はな焼きそわか草の つまもこもれりわれもこもれり

 とよむを聞きて、女をば取りて、共にていにけり。

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