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昔、元服を迎えた男は
その里にはとても若く
かすが野の若紫のすりごろも しのぶの乱れ限り知られず
(かすが野の若紫で染めた衣は このしのぶの乱れ模様のようにどこまでも私の心を乱してゆく)
これは河原の左大臣の『陸奥のしのぶもちずり誰ゆゑに 乱れそめにし我ならなくに』という恋歌を趣意としたもので、面白い歌だと思ったことでしょう。
昔、このように人は若くから優雅で知的でした。
【初段】
昔、男、初冠して、奈良の京、春日の里に、しるよしして、狩に往にけり。その里に、いとなまめいたる
かすが野の
となんおひつきていひやりける。ついでおもしろきこととや思ひけん。
という歌の心ばへなり。むかし人はかくいち早きみやびをなんしける。
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