第2話 クラス=マーダー(複数人殺害者)
「あんた、もしよかったら
しばらく俺と一緒に組んでもらえないか?」
スキンヘッドのコーエンはそう申し出た。
「ほら、さっきも言ったが、
俺はまだここに来て日が浅い……
ついこの間こっちに転移して来たと思ったら、
いきなりゾンビエリアのど真ん中に居て、
散々ゾンビの群れに追い回されて
エライ目に合ちまったばかりだ
もうちょっとこっちのことをよく知らないと
命が幾つあっても足りそうにないからな」
「……そうだろうな
人殺し系の犯罪者、
キラー、シリアルキラー、マーダーあたりが
こちらに転移して来る時の初期配置は、
ゾンビエリアと相場は決まっているからな
人を殺して命を奪うことがどういうことか?
なんでもそれを分からせるための
最初の説教みたいなものらしい、
因果応報システムが生み出した……」
因果応報システムは
罪人達がこちらの異世界に転移して来る際の
初期配置にすら関与しており、
人間世界で犯した罪の罪状によって
それぞれ出現する初期配置が異なっている。
大概の場合は転移後即
周りを取り囲んでいるモンスター達との
戦闘を余儀なくされ、
そしてその時点で罪人の半数以上が息絶える。
「まったくよ、
人殺しに不死者を当てて来るとは
随分と悪趣味な冗談だぜ」
コーエンが行動履歴を確認する為に
開いたコンパネを
横から覗き込んだジョーは感心する。
「あんた、大したもんだな
ゾンビの巣窟、あそこを抜けてここまで来たのか」
「あぁ、ゲームセンターに
ゾンビのシューティングゲームをやりまくってよかったと
あの時ほど思ったことはなかったぜ」
コーエンはそう軽口を叩いて
おちゃらけてみせた。
「罪人狩だったか?
そういう連中から身を守る為にも
二人でペアを組んだ方が、
生存確率は上がるんじゃないかと思うんだがね
そういう悪党が
単独で行動しているとも思えないし
おそらく徒党を組んでいるんじゃねえかな
そんなのとやり合うんなら
あんた一人よりは二人組の方が
まだマシだと思うんだがね……
どうだい? 俺と組まないか?」
二人組のメリットを説明した上で
コーエンはもう一度ジョーを誘った。
いくらこちらの世界では
人間を殺す気がないと言っても、
相手が殺しに来ると言うのなら
戦わなくてはならないだろう。
「……確かにな、それは一理ある
あんたは信用出来そうな人間だし
しばらく行動を共にするのも
悪くないかもしれない……
少なくとも罪人狩がいる
この付近のエリアを脱出するまでは
二人組で移動した方がいいのかもしれない……」
「よしっ、じゃぁ決まりだ
これからよろしく頼むぜ、相棒」
ささっと一人で
話しをまとめてしまったコーエンは、
ジョーに向かって手を差し伸べる。
「……あぁ」
その手をとって、
握手を交わすジョーとコーエン。
「じゃぁまずは
あんたがさっき落とした銃を探そうぜ」
こんな異世界にあってすら
ジョーにはただただ眩しい。
-
「索敵スキルだって?
そんなのがあるのか!
そんなものまったく知らずにここまで来たぞ」
この世界で生きて行くことにおいては
先輩であるジョー、
コーエンが彼から学ぶものは多い。
ジョーのコンパネを見せてもらい
はじめて知るスキルに
コーエンは興奮を隠せない。
「あんたもスキル修得が可能だったら
今すぐにでも修得するといい
俺がここまで生きて来られたのも
このスキルのお陰だと言っても過言じゃあない
その時の感度にもよるが、調子がいい時なら
数キロ範囲内に居る人間サイズ以上の生命体を
コンパネで検知することが出来る」
ジョーのコンパネに表示されている索敵画面、
ここから周囲一キロ圏内には
ジョーとコーエンの二人しかいない。
「この索敵画面に表示されている相手は、
タップすればクラスやステータスなども確認出来る」
そう言ってジョーが
コーエンの詳細情報を確認しようとした時、
ちょっとした異変に気づく。
通常黒い文字で表示されるクラスだが、
現在のコーエンのクラスは赤文字で表示されている。
それの意味を考えるジョー。
「あんた、クラスは
本当にシリアルキラー(連続殺人犯)なのか?」
「あぁ、そのはずだが」
コーエンもまた自らのコンパネで
改めて自分のクラスを確認している。
最初ジョーは偽装表示を疑ったが、
コーエンの素振りからして
とても嘘をついているようには思えない。
そうなれば考えられる可能性はもう一つ。
「なら、あんた、もうじき
クラスチェンジするんじゃないか?」
ジョーの予想外の発言に
首を傾げるコーエン。
「はぁ?
おいおい、しっかりしてくれよ
何回も言っているが俺はついこの間、
こっちの世界に来たばかりなんだぜ
クラスチェンジ出来る程
レベルなんかまだ上がっちゃいないぜ」
「……いや、そうとも限らない
この世界のクラスチェンジは
レベルとは一切関係ないからな
この世界でのクラスは
因果応報システムが
その人間をどう認識しているか、
それだけで分類されている
例えば、
今俺のクラスはマーダー(複数人殺害者)だが、
そこにそれ以外の大きな要素が加われば、
システムは俺を新たなクラスへとチェンジさせる
もし仮にマーダーに政治的思想などが加われば
テロリストにクラスチェンジするという具合にな
つまりはだ
システムのその人間に対する捉え方が変われば
レベルなんかは一切関係なく
クラスチェンジ出来るってことだ」
困惑顔でジョーの話を聞いているコーエン。
「まぁ、そうだとしてもよ、
シリアルキラー(連続殺人犯)が
一体何にクラスチェンジするって言うんだ?
いくら改心して慈悲深くなったからって、
まさかいきなり牧師なんかに
クラスチェンジするって訳でもないだろ?」
――コーエンはおそらく
嘘をついている訳ではないだろう……
だが何か隠していることがある、
というよりはまだ話していないことか
ここに来るような人間は、
誰しも話したくないことはあるだろうが……
「……まぁ、確かにそうだな」
ジョーはコーエンの人間性を信用していたが、
どこか歩に落ちない
引っかかる部分がない訳ではなかった。
「まぁ、だいたい
コンパネについてはこんなところだな……
何か分からないことはあるか?」
「新たにこの世界に転移して来た人間がいたら、
知らせてくれる機能があったような気がしたんだが……」
「それはだな……」
――コンパネすら充分に
使いこなせていない感じからして
ここに来て間もないと言うのも
嘘ではないだろう……
生き残る為の基礎知識、
それをあらかたコーエンに説明しおえると、
二人は早速移動を開始することにする。
当面の目的は、罪人狩が盛んな
この地域から離脱すること。
ここから一番近い街まで
歩いて数日はかかるだろうが、
まずはそこまで辿り着けば
最低限の安全は確保出来るだろう。
-
「なぁ、あんた
飯とかどうしてるんだ?」
半日程歩いて移動した頃
コーエンは食事の話をはじめた。
「街に居れば、稼いだ金で
酒場で普通に飯を食うんだが……
まぁ、こういう場合は、
その辺に居る小型生物を捕まえて
焼いて食うしかないな」
「えっ!
ここの変な生き物って食えるのか?」
「食えるかどうかは分からないが、
生きて行く為には食うしかないからな
まぁこれまで死んでないからな
多分大丈夫なんじゃないか」
「毒とかないのか?」
「毒がある奴は
まぁなんとなく勘で分かる……
あんたも俺のLuckを信じた方がいい
俺のステータス、Luckの数値は高いからな」
「運任せかよ、キッツイなぁ」
二人が森に入って、
たまたま偶然見かけたウサギのような小動物が
丸焼きにされてその日の晩ご飯となった。
仕留めたのはコーエンで
動き回る獲物が止まる瞬間を
慌てることもなく一発で仕留めてみせていた。
「あんた、銃の腕前、すごいな」
「ゲーセンに入り浸って
ゾンビのシューティングゲームで
鍛えまくったからな」
「…………。」
-
それから数日の間、
ジョーはコーエンと行動を共にしたが、
陽気で明るい、気さくでフランクな態度を見て
ジョーはますます疑問を深めていた。
――この男は連続殺人犯として
ここに来るような人間ではない……
本来であればこの男は
連続殺人を犯すような人間ではないだろう
二面性、多面性を隠しているようにも思えない
――だが人にはそれぞれ
事情というものがあるのも事実で
結果として
連続殺人犯の烙印を押されただけで
好き好んで連続殺人犯になった訳ではないのかもしれない
そう、自分のように……。
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