【プロットアーマー】異世界転移の名の下に、流刑地送りにされた罪人達
ウロノロムロ
第1話 クラス=シリアルキラー(連続殺人犯)
ドンッ!!
ぶつかった衝撃音が周囲に響く。
巨大甲殻虫の体当たりを受け、
吹っ飛ばされた人間。
対衝撃スーツを着ているとはいえ、
体が
――しまった! 銃がっ!!
ぶつかった衝撃で開いた手から
銃が宙を舞い、何処かへと消えて行く。
――クッ、ここまでか……
地を這う巨大なダンゴムシのような甲殻虫が
その上体を持ち上げていななき、
目の前の男に飛びかかろうとした時、
銃声が二度、三度と鳴り響く。
この世界の銃弾すら弾き返す
鎧のような外殻を持った甲殻虫も
普段地に接している腹部は柔らかい。
弱くて脆い。
そこを銃弾で貫かれた甲殻虫は
体液を
絶命する。
襲われていた男が
銃声がした方向を振り返ると
そこには自分と同じ対衝撃スーツを着、
銃を構えている男の姿
――スキンヘッドに浅黒い肌、顎髭を蓄えた、
そしてその銃口からは
まだ硝煙が立ち込めている。
「あんた、ラッキーだったな。
いくら俺の銃でも
モンスターが腹部を見せてくれなかったら
さすがに弾をはじかれていただろうな」
スキンヘッドの男はそう言いながら
ゆっくりと銃口を下に向け下ろす。
「……あぁ、すまないな、助かったよ」
窮地を救われた男は
両手を挙げて敵意が無いことを示しながら
礼を述べた。
人間界から来た者同士が
このような形で出会ったら
こうするしか術はない。
「……で、あんた、
銃を下ろしたってことは、
俺に敵意はないってことでいいのかい?」
助けられたとは言え、
この男が食糧や武器などの
略奪を目的としている可能性がある以上、
今、銃を持っていない彼には
手を上げて降伏の姿勢を示す以外に道はない。
「あぁ……まぁ、こっちの世界に来てまで、
関係の無い人間を殺す気はないな……」
スキンヘッドの男の言葉を聞いて
ゆっくりと手を降ろす。
「そうかい、それは
またしてもすまなかったな」
助けられた男は謝罪すると
自らの名前とクラスを名乗った。
「俺はジョー、
クラスはマーダー(複数人殺害者)だ」
銃を手にしたスキンヘッドの男も
それに応じて自らを名乗る。
「俺はコーエン、
クラスはシリアルキラー(連続殺人犯)」
コーエンと名乗ったスキンヘッドの男は
凛々しい精悍な顔をしており、
何よりも力強い目をしている。
年齢は三十歳前後というところか。
「あんた、とても連続殺人犯には見えないな」
ジョーは初対面の印象をそのまま語った。
「それを言ったらあんただって、
何人も人間を殺してるような
クソ野郎には見えないぜ」
コーエンは口角を上げて笑ってみせる。
ここは異世界。
彼等はこの異世界に、
流刑地送りにされた
全世界で死刑制度が廃止されてから数十年。
更正する余地がないと判断された
凶悪犯罪者達の極刑として、死刑制度に代わって
新たに流刑地送り(異世界転移)制度が活用されていた。
法と言う名の下に、人が人を裁き、
命を奪うという野蛮な行為を忌み嫌った人類によって、
人名を尊重しつつも、
更正すら望めぬ凶悪犯達を
税金を使って死ぬまで牢獄に飼い慣らすこともなく、
社会的に完全に抹殺してみせる、
それが異世界転移と言う名の流刑地送り。
そしてそれを司るのが因果応報システムであった。
――因果応報システム
異世界転移という名の下に
流刑地送りにされた罪人達は、
人間世界に居た頃に犯した罪によって
この世界でのクラス分けをされる。
キラー(殺人者)
シリアルキラー(連続殺人犯)
マーダー(複数人殺害者)
バイオレント(暴行犯)
レイパー(性犯罪者)
ジャンキー(薬物中毒者)等々、
中にはアサシンやヤクザ・マフィアと言った
レアなクラスも存在している。
そして人間世界で犯した罪によって
初期装備や能力・スキル等もまた決められてしまう。
例えば、キラーであれば
初期装備はナイフであり、
レベルアップすれば日本刀や剣と言った
刃物系全般を扱うことが出来るようになる。
もちろん、異世界の武器であるので
人間世界のそれとは
比べ物にならない攻撃力を有しており、
銃が剣よりも優れているという訳でもない。
「助けてもらったのに、
変なことを言って本当にすまなかったな……
最近この辺りは罪人狩が多くてな、
同じ世界の人間を警戒していたんだ……
許してくれ」
ジョーの言葉にコーエンは
顔の前で手を振って応えた。
「まぁ、いいってことさ……
こんな訳の分からない世界に居るんだからな
用心するに越したことはないだろうさ」
「それよりもだ、
俺はまだこっちに来てから日が浅いんだが、
よっかたらその罪人狩とやらのことを
教えてもらえないか?」
「あぁ、助けてもらった礼もあるしな」
ジョーは頷くと
業が深い人間達による
罪人狩について語りはじめる。
「こっちの世界にはいくつかミッションがあって
それをクリアするとポイントがたまる。
それはあんたも知っているよな?」
スキンヘッドのコーエンは頷いた。
「ミッションは
村を襲うモンスターを退治するとか、
魔王軍の構成員を倒すとか、
そんな内容なんだが
ミッションをクリアするとポイントが貰えて
そのポイントに応じて、
恩赦・特赦システムの対象となる
地道にポイントを溜めていって、
いずれ上手くすれば
元の人間界に帰れるかもしれないってことだな
まぁ刑務所に居て
模範生になると出所が早くなる
それと同じ仕組みみたいなもんか」
「だがミッションの難易度も
そこそこ高いものばかりだからな
いつも生き残れるとは限らない、
むしろ死んじまう確率の方がはるかに高い……」
「そこで、
あっちの世界から来たロクでもない連中は
とんでもないことを考えたんだ
恩赦・特赦の対象となる
人間の方を殺しちまって、
対象者の数を減らせばいいんじゃないかってな
こっちの強敵モンスターや
常に死線をさまよっている
魔王軍なんかと戦うよりは、
戦い慣れてない、不慣れな
あっちの世界から来た人間を殺る方が
はるかに楽だからな」
「なるほどな、
それが罪人狩って訳か」
「そういうことだな……
お陰でこっちの世界に来ても
罪人同士が殺し合うっていう
馬鹿げたことをやっているって訳だ
名目上は罪を償うってことで、
こっちに流刑地送りされてるのにな」
流刑地送り、
名目上の建前は人命の尊重とされいるが、
こちらの異世界は無法地帯にも等しく、
力が支配する世界であり、
力無き者の生存確率ははるかに低い。
死刑制度の完全撤廃と言いながらも、
罪人達からすれば、
ここに送られて来た時点でほぼ
処刑されているのに等しい。
そんな無法地帯で、無法者が
無法を働いたとしても何ら不思議ではない。
もしかしたら
この異世界を力で支配しようとする罪人が
いずれ現れるかもしれない。
顎髭を触りながら、
頷いて話を聞いていたコーエン。
「それであんたが
あんな質問をしたってことか……」
「まぁ事情は分かったが……
あんたは罪人狩はやらないのかい?」
元々感情の起伏を
あまり表に出さないタイプらしいジョーは、
それでも一瞬、顔を曇らせた。
「まぁ、俺もあんたと同じ感じだな……」
「こっちの世界に来てまで
人間を殺す気はないさ……
……もうあっちの世界で大勢
殺し過ぎちまったからな」
「じゃあ、俺も
助けた人間があんたみたいな奴で
ラッキーだったってことだな
そうじゃなきゃ、
助けた相手に殺されてた
なんてことになってたかもしれないんだろ?」
「まぁ、そういうことになるかもな」
「で、俺は
ミッションに設定されている
村を襲う甲殻虫を退治しようとしていたんだが、
あやうく死ぬとこだったのを
あんたに助けてもらったって訳さ」
「あんたのコンパネを見てみなよ、
ミッションクリアのポイントが
溜まっているはずだぜ
あの甲殻虫を倒したのはあんたなんだからな」
ジョーに言われた通り、
コーエンが左腕のリングに触れ、
コントロールパネルを開いて確認すると、
確かにそれまでゼロであったポイントが増えている。
「本当だな、しかし逆に
あんたのポイント横取りしちまったみたいで
なんだかすまないな」
「いや、気にしないでくれ……
別に俺はポイント欲しさにやってる訳じゃない」
「まぁ、贖罪みたいなもんさ……
俺はあっちの世界に戻る気はないんだ……
戻れる筈がないんだ……
あっちの世界であまりにも大勢の人間を
殺し過ぎちまったからな……」
――俺の人生はとっくに壊れちまってる
あのときからな……
心も、感情も、
はるか昔に壊れちまってる
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