謝罪
@ajpnkgknjgjag
第1話
同窓会が開かれるという知らせを聞いたのは、高校時代からよくつるんでいた宮本からだった。高校時代のことは、今でもよく覚えている。これから受験期というときに、急に俺は県外に引っ越して、それ以来今まで宮本以外とはまともに連絡もとっていない。
特段なにか予定があるわけではなかったが、誘いは断るつもりだった。
しかし、既に何人か誘ったという奴の参加者リストを見てからは、すっかり気が変わった。どうやって…と考えていたものが、そこに書かれた名前一つで解決した。
駅から少し離れた所にあるイタリアン。会場に指定された場所を聞いて、時間を聞いて、今日という日に備えてきた。 1時間ほど遅れて会場に到着したものの、旧友達の出迎えは暖かかった。皆あの頃の調子を一切崩さずに、うざ絡みとも取れるほどのテンションで歓声をあげながら俺に注目した。何人かはわざわざ席を立って俺を取り囲み、ごちゃごちゃなにか話しかけてくる。ぶっちゃけ何人か覚えてない顔もあるが、それでも俺は嬉しかった。
一瞬、間違いなんてなかったと思いそうになった。
宮本もその中にいて、しきりに俺の肩を叩いては既に赤くなった顔をぐちゃぐちゃに崩して笑った。俺もそれに愛想笑いで応えつつ、レストランの中を見渡す。
隅に、ぽつりと座ってメニューを眺めている奴がいた。棚田だ。宮本と同じくらい、忘れられない名前。
俺の周りにいるメンバーで全てでないにしても、奴の周りには誰一人座ってはいなかった。だからこそ、目立たぬよう、俺は宮本が元いた席の隣に座った。宮本は相変わらずバカだった。俺はしばらく飲んだり食ったりを繰り返したが、酒は一応飲まなかった。それから3時間の間、棚田はずっとメニューを見ていた。一度もクラスメイトと話もしなければ、料理を頼むこともせず、食べもしなかった。俺はそれを見ていて、改めて今日棚田がここへ参加した不思議について考えていた。社会人になってからと言うもの、いつか同窓会なんてものがあるんだろうなとは思いつつ、それが棚田と会う機会になるとは考えていなかった。寧ろ、宮本始めクラスメイトとは会いたくなかった。
なにか、棚田から言われても、俺は何も言い返せない。でも考えて見れば、ここは俺の味方ばかりで、棚田にとっては辛いはずの場所なのに、わざわざ顔を出した意味とは?
考えていたら、料理をつまむ箸が止まって宮本に肩を殴られた。
しばらくして、俺がトイレから戻ると幹事である宮本がひとまずのお開きを宣言し、2次会参加者を募っているところだった。
慌てて周りを見渡すと、既に棚田は出口から半分体を出していた。一言告げてから追うかどうかは迷ったが、奴が気付いていないうちに抜け出してしまうことにした。
駅へ向かって歩いている棚田を呼び止めてながら駆けよっていくと、棚田はびくりと最初に肩を動かした以外は、なんの反応も示さなかった。
「久しぶり、棚田」
走って切れた息を整えながら、努めて冷静に口は息を吐いた。
「………………ああ」
俺はもしかしたら無視されるのではないかと言う恐怖にまず一つ打ち勝った。
「さっそくだけど、話がある。今日はそのために声をかけた。いいか?」
暫くの沈黙。奴はこちらを見なかった。それでも俺が返答を待っていたのは、棚田がしっかりと足は止めていたからだ。何かを迷っているのか。そう考えたりもしたけれど、それよりこれから出てくる棚田の声を聞き逃さないことに集中した。
「歩いて話そうか」
棚田はこちらを向くことなく、足を前に出しながら確かにそういった。俺は会話をする気があることにまた一つほっとして、とりあえず自分の考えを伝えることまでうまく行けそうだと思った。ただし、その先は分からない。
「あの、まず一つ言いたいのは、ごめん。
高校のとき、俺とお前…ってか、お前と俺らで色々あったじゃんか?」
「はっきりとは言わなくていい」
「うん。でもさ、無視したりとか、殴ったりとか…靴にガラスいれたりとかさ」
「…………」
「俺さ、気付いたんだ。引っ越した後の話だけど。俺がやってたことってのは、クズだったって。俺もあいつらも皆クズだよ。今考えてみても、お前にした仕打ちはどれもはっきり覚えてるのに、やっぱりなんでお前を標的にしてたのか、それはおぼえてないんだ」
そうだった。棚田は別に、特段運動が出来ないとか、勉強が苦手だとか。もっと言えば、身長が低すぎたり高すぎたり、不細工だったり汚かったり臭かったりとか、そんないわゆる、「標的」になり得る要素なんて、一つも持っていなかったはずだ。強いて言うなら少し根暗な位で、それも棚田と同じクラスの最初のうちは、俺らと棚田は別の世界に生きていて、そこできちんと棲み分けが出来ていたはずだ。
しばらく待っても返答がなかったので、俺は続けた。
「俺はお前に今日謝罪するために来た。もちろん、それでお前の気がすまないのは分かってる。だから、俺に何でも言ってくれ。金なら可能な限りやるし、今ここで土下座でもいい。何でもいいんだ。なにか償わせてくれないか」
やっぱり棚田はこっちを見なかった。それでも、恐らく聞いてはいるだろう。歩きながら、俺は伝えることは伝えたので、またひたすら返しの言葉を待った。
どこかでリコーダーの音がする。今までシャッター街を歩いていたかと思えば、気づけば左には線路が流れていた。しばらく一直線に、ぽつりぽつりと申し訳程度の街灯の明かりが続いている。そういえば、今までてっきり駅へ向かっていると思っていたが、駅は通り過ぎていた。棚田の歩きが早くなった気がする。やっぱり何も喋らない。
とうとう一本道の端まで来て、踏切の前で棚田は立ち止まった。コーンコーンと踏切は今日何度目かの仕事を始めた。俺はなぜだかドキドキして落ち着かなかった。
「あのさ」
「え?……えっ?」
「お前は、何があったか知らないけど、過去を思い出して、俺に謝りたいと言って来てる。」
棚田はこっちを見ない。
「でも、根本全て間違ってる。お前が虐めてたのは、俺だけじゃないだろ?」
「…………え?」
そういえば、何か忘れているような…。
高校2の夏と言えば、青春そのものだ。しかしそれだけ、これからのこと、今のこと、ストレスもそれなりで、俺は手ごろな標的が欲しかった。クラスメイトはたくさんいたけど、棚田が選ばれた。 最初は俺だけだった。でもそれを、止める奴がいたような…
「俺はさ、お前だけが嫌がらせしてくるなら耐えられたけど。お前は巻き込んだよな。周りの奴を全部」
「あいつもさ」
「ちょっと、そういうのまじで止めてくんない?宏明いやがってんじゃん」
いつものように棚田を殴る俺を見て、ある日呟いた女がいた。そいつのことは知っていた。たまに話す女友達が、あいつだけ浮いていると話していたからだ。俺はいきなり言われて面食らったのもそうだが、こいつと棚田がそこそこ親しい間柄なのがやけに面白く、その日から標的を増やした。
宮本はバカだった。昔から、何でも俺のやることなすこと全て真似する奴だった。
不幸なことに、そのバカは敵と認めた人間を潰せるだけの力があった。
間違いなく、クラスで一番目立っていたのは宮本だ。一番影響力があったのも。だからこそ、始めたのは俺だが、俺だけならそこまで問題ではなかった。宮本がクラス一丸となった「虐め」を始めた。
そういえば、俺が引っ越した後、どうなった?
「……………」
「お前が俺にしたことよりあいつにしたことの方がひどかった。覚えてるよな?」
「いや…そのごめん、そこまでは…」
「女子使ってさ、トイレであいつ脱がせたよな?それも顔出して写真拡散しただろ?お前らだけの間で」
「………………」
今度は、俺が棚田を見られなかった。
…覚えていませんていったら、どんな顔するんだろう。ああ、ここはどこだ。いつの間に俺は踏切を超えて、こんな薄暗い所へ来たのだろう。
「あの…それで、そいつ、どうなったっけ…?」
棚田がこっちを見ていたかは分からない。
「電車に轢かれた」
声がさっきより嫌に綺麗にはっきりと聞こえるものだから、冗談なんかじゃないんだろう。棚田は立ち止まった。
「俺が今日参加したのは、確かめるため。でもあいつは、今日はクラスメイト全員参加!って浮かれてたんだ」
「何でもするって言ったよな?まずお前から、あっちにいけよ。それで土下座してこい。俺にはいらないから」
「………………」
確かに俺は愚かだった。罪のない人の時間を取り返しのつかないことをして、めちゃくちゃにした。でも、俺は少し嫌がらせをしただけ。たまに殴ったり、持ち物を盗んだだけだ。俺は宮本に一緒にやろうなんて誘ってないし、あいつに、女子をけしかけてもない。全てが俺の意思で起こった訳じゃないんだ。謝罪こそすれ、どうして間接的にでもただすこし嫌な思いをした程度で死ねと言われなければならない?
「ふざけんな、お前が死ね」
謝罪 @ajpnkgknjgjag
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます