『STAR』

この恋に気づいて

気づいた恋 前編


―――


 俺、辻村巧海は最近仲本亘の事がやたら気になる。


 仲本というのは俺が所属するバンド『STAR』のメンバーで俺の幼馴染。奴はボーカルで一応リーダーをやっていて、俺はギター担当。小学校からの付き合いでその年数は二十年以上の腐れ縁だ。


 そんな仲本の事を今更意識してしまっている自分の事を自分で驚きながら、今日も奴の事を目で追っているのだ。



「仲本君。あのさ、次のライブの事で聞きたい事あるんだ。今いい?」

「ん?あぁ、いいよ。何?」

「曲順変えてもいいかな?これとこれなんだけど……」

「あぁ、俺もそこ気になってたんだ。いいよ。演出はお前がメインなんだから好きにしても。フォローはするからさ。」

「ホント?ありがとう!じゃあ直しとくね。」



 その一 仲本と誰かが話していると聞き耳をたててしまう。(そして気づかれないように横目で見るのも忘れない)。


 特に俺達より二つ下で最年少の取出晋太はライブの構成・演出を任されているから、わからない事があるとすぐに仲本に聞きに来る。ちなみに彼はドラム担当だ。

 俺はそういった時、何故か晋太に対してイライラしてしまうのだ。


 一体どうしたというのだろうか。晋太は大切なメンバーなのに。こんな事を思っていると知られたら仲本に軽蔑されてしまう。

 あいつは人一倍メンバー思いで、その中でも何かと晋太を気にかけているのだから……



「はぁ~……」

「何溜め息なんかついてんだ?」

「おわっ!」

 自己嫌悪に陥って思わず溜め息を吐いた時だった。後ろから誰かの声が聞こえ、あまりの驚きに座っていたソファーからずり落ちた。


 ……振り向かなくても本当はわかっている。その特徴的なハスキーな声。歌うともっと味が出て、俺の大好きな声。

 顔が赤くなるのを誤魔化しながら振り向いた。


「仲本……」

 思った通り、そこにいたのは俺を悩ませている帳本人の仲本だった。仲本は少し首を傾げながらこう言った。


「どした?元気ねぇな。何かあったのか?」

「べ、別に何でもねぇよ。」

「そうか?」

 しどろもどろになる俺を他所に、仲本は俺の隣に腰を下ろした。自然と肩や腕が触れ合う。

 俺はかぁーっと頬が熱くなるのを感じた。そんな自分に動揺する。


 仲本はそんな俺には気づかずに話しかけてきた。


「辻村さぁ、最近変だぜ?何か悩んでる風だし、俺で良かったら相談くらい乗れるよ。」



 そのニ 仲本に優しくされるとキュンとなる。


 俺は仲本から顔を逸らして俯いた。

「別に……何でもないよ。本当に。」

「そっか、ならいいんだけどさ。」

 仲本はそう言うとあっさりとソファーから立ち上がった。



 その三 仲本と離れる時は何だか淋しくなる。



「あ……」

「ん?」

 思わず声が出ていた。反応して俺の顔を真っ直ぐ見てくる仲本。俺も奴を見返す。自然と見つめ合う形になった。


 一分だったのか、それともたった数秒だったのか。まるで俺達がいる場所だけ時間が止まったようだった。

 それを破ったのはスタッフの俺らを呼ぶ声だった。


「『STAR』の皆さん!そろそろ本番で~す!」

「はい、今行きます。」

 俺は夢から覚めた気持ちでボーッと仲本の声を聞いた。


「辻村?行くぞ。」

「えっ?あ、あぁ……」

 やっと正気に戻った俺は先に歩いて行った仲本の背中を見つめた。


 ……これってもしかしなくても、もしかして……?




―――


 何処かで気づいていたのかも知れない。だけどこれは本当は気づいちゃいけない感情。


 俺はそっと目を閉じた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る