転生者は神か悪魔か

@malkovich

第1話

リヒャルトの剣は、容赦なく男の首を切り落とした。今月に入って5人目だ。仕事が増えて仕方ないと彼は呟く。


彼が捕まえる人間は、口々にこう言う。知らない、俺はこの世界の住人じゃない。はやく元に戻してくれと。それが転生者という奴らの口癖だとリヒャルトは知っている。見つけ次第、彼らを始末するのが彼の仕事である。


モーレタリア王国はかつて、転生者たちの手によって繁栄を極めていた。桁違いに生産性の良い農耕技術や、進んだ工学技術により、人々の生活は格段に向上した。人々は転生者を神のように崇め、王は彼らに爵位を与え、厚く遇した。


しかし、蜜月は長くは続かなかった。自らの力を過信した転生者達が、独立国家を樹立すべく決起したのである。王は捕らえられ、広場で八つ裂きにされた。貴族による圧政は終わった、これからは民衆が主人公になるのだと、彼らは市民達を焚きつけた。


王国を二分する戦いが起きた。転生者達が繰り出す新兵器を前に、貴族軍たちは圧倒された。中でも転生者たちが「戦車」と呼ぶ鋼鉄の獅子たちの前にはなすすべがなかった。敗北を重ね、軍勢が山地に追いやられる中で、ついに貴族側に奇跡が起きる。神の怒りにも似た雷が、獅子たちを目掛けてその拳を振り下ろしたのだ。狼狽する転生者の軍に、怒りに燃えた騎士たちが襲いかかる。この一戦で戦況は大きく変わり、新たな国を作ろうとした転生者たちの目論見は潰えた。指導者達は前王と同じように八つ裂きにされた。生き残ったものは、散り散りに大陸の各地へと消えていった。


この「怒りの雷」から、モーレタリア王国は変わってしまった。寛容は非寛容に取って代わられ、転生者はその存在自体が悪とされた。リヒャルトのような審問官は、裁判なしでその者たちの首を切り落とすことが認められ、その首の数が王国への献身と見なされる。


また一人、リヒャルトは男を捕まえた。


「はなせ、おれはただのサラリーマンだ、わかるか、サラリーマンだよ。なにも悪いことはしない」


「だまれ、罪深きものよ。貴様はその存在自体が悪なのだ。せめて自分で死ぬか、私の剣で死ぬか選ばせてやる」


「何言ってんだ、ここの連中は気がおかしいのか。何を言っても通じないのか...」


「さあ、祈れ。この聖なる大地で貴様は死ぬのだ、祈れ」


リヒャルトの剣は無慈悲にも振り下ろされ、亡骸からはとめどなく血が溢れたのだった。

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