第40話


 車はやがて鳶ケ峰を抜け、昨日と同じように向日葵の庭の前に着いた。すると僕達が降りて車が去るのと同時にヒナコが家の中から現れた。

 彼女は赤い外国の帽子を被って白いワンピースを着ていた。

 その姿を見て僕達四人は思わず声を無くして、その場所に棒立ちになった。

「おはよう。皆さん!!」

 ヒナコが僕達に届く様に大きな声で話しかけるまで、僕達はまるで魔法にかかって動けなくなった石像のように車から降りた場所に固くなって突っ立っていた。

 勝彦が溜息交じりに口を開いた。

「綺麗じゃな・・ヒナちゃん」

 そう言って思わず口を覆った。兄が強面で弟を見ている。

「いや・・まったく」

 次にツトムが言った。

「ツトム!」

 勝幸がツトムの前に出て手を振ってツトムの視界からヒナコが消えるように手を激しく振っている。

「なんじゃ、ガッチ。邪魔じゃ、手をどかさんか」

 その手をツトムが振り払いながら走り出した。それで皆が一斉にヒナコの方に走り出した。

「ちょ、ちょっと!!」

 そう言って遅れて勝幸が走り出す。

 一番に勝彦が着いた。

「かっちゃん、一番!二番はツトム君、三番はナッちゃん、最後はガッチ!」

 そう言って笑ってヒナコが僕達を見る。僕は息を切らせながら、ヒナコに言った。

「今日はヒナちゃん、綺麗だね。さっき僕達本当に見とれちゃった」

 それを聞いてヒナコが顔を赤らめたて僕の鼻先を指で弾いた。

「もう、ナッちゃんたら!嘘ばっかり言って」

 顔を紅潮させてヒナコが言う。被った帽子で顔を隠した。

「いや、本当やっちゃ。ひなちゃん、綺麗やっちゃよ」

 勝彦が言った。

 それにツトムが頷く。

「ガッチも?」

 勝幸が激しく上下に首を振った。

「嬉しい。皆がそう言ってくれるなんて。今夜、港町の油津で花火大会があるの。それにパパが連れてくれるっていうから、この服を着てみたの。これお母さんが作ったのよ。凄いでしょ」

「スゲェ!」

 皆が一斉に声を上げた。

「ねぇ皆も一緒に行く?油津の花火?」

 それを聞いて僕達は目を合わせた。

 僕は人差し指を出す。僕の差し出した人差し指を勝彦が握って同じように人差し指を突き出すとその上を勝幸が握り同じように指を突き出し、最後にツトムが同じように握って突き出す。

「皆、どうする?」

 僕が聞いた。

「行かない?」

 顔を勝幸に近づけて言う。

「俺は良っど」

 ツトムが相槌を打つ。

「僕も綿菓子が食べたい」

 勝彦が笑って顔を近づける。

「ガッチはどうする?まさか、行かないなんて言わないよね?ヒナちゃんの頼みを?」

 僕が悪戯っぽく笑って言う。

「行くに決まっちょるじゃろ!ナッちゃん!」

「じゃ決まり!」

 そう言って僕がしゃがむと皆しゃがんだ。

 小さな手の塔になったそれを僕は下から空に向かって力任せに飛び上がりながら突き出した。

 僕達の指は一斉に空に放たれて消えた。

「勿論!ヒナちゃん、僕達行くよ!」 

 僕はヒナコに向かって言った。

 ヒナコが笑顔で僕達を見ている。

「じゃヒナちゃんもいれてもう一度!」

 そう言って再び僕の指の上に勝彦、勝幸とツトム、その上をヒナコが。

 やがて皆で円を囲むように顔を近づけて一斉に空に向かって手を放った。

 放たれた指の先に青い空が見えて、僕達は一斉に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る