第9話

 昨晩、大阪へ仕事に出ていた父親が帰って来た。妹が盲腸で入院した為、急遽帰って来て僕の面倒を見ることになった。

 その夜、二人で食事をしていると唐突に父親が僕に言った。

「ナツ、あんなぁ、悪いけど・・・、大阪へ家族皆で引っ越しすることになった」

 僕は驚くと箸をおいて、父親に言った。

「いつ?」

「おそらく、十二月に大阪に引っ越しする」

「転校するの?」

「そうなる」

 父親は陽に焼けた腕で瞼を拭った。

「お前にはこっちに沢山友達がおるじゃろ。離れ離れにさせるのは心苦しいのやけど、田舎には仕事がないんじゃ・・それにお前達も大きくなればやがて都会へ出て行く。それやったら早い内に都会へ出た方がいいと思ってな」

 僕は黙って下を向いた。

「さっき病院へ行って、お母さんにも話をして決めた」

 そう、と小さく声をこぼすと箸を動かして飯を口に入れた。

 自然と口の中で溶けてゆく米の味が涙の味に変わった。

「すまんな。ナツ」

 そう言った父親の陽に焼けた頬も濡れていた。

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