第6話
桜島が噴火するとその灰が風に乗り、やがて空から降って来る。僕はそんな桜島の灰が降る宮崎南部の城下町で少年時代を過ごしていた。
冒険の始まりを告げることになったその日、早朝に噴火した桜島の灰が僕達の住む広渡地区にも降り注いだ。それは勢いよく降り出し屋根一面だけでなく道路も緑の芝も全てが白く覆われて灰神楽が舞うぐらいの量になった。
その様子を見て妹の病院へ行く父親と入れ替わる様に帰って来た母親が慌てて朝飯を食べている僕の箸を取り上げて、庭に干してある洗濯物を取り込むのを手伝わせた。
朝食の大好きな玉子焼きを食べきらないまま洗濯物の取り込みを手伝わされた僕は、当然、機嫌が良くない。
だから洗濯物の取り入れを手伝いながら口をとがらせて母親に文句を言った。
文句は何ということは無い。唯、ぶぅぶぅ、ウダウダ文句を言っていただけで、やはりと言うか案の定、最後には母親にこの上なく強く頬をつねられた。
それで増々機嫌の直らなくなった僕は箸を置いて朝食を食べるのを止め、口をとがらせて再び文句を言った。
「夏生!あんたもう六年生やろ、それに来年には中学生になるんやぞ。それぐらいの事でウダウダ言ってたら皆に笑われる。分かったら男はそれぐらい黙って辛抱しなさい!」
しかし、僕は文句を言う。
だから再び母親が僕の頬をつねって黙らせようと動いた。
「させるか!」
言うや、僕はそんな母親から逃げるように庭へ飛び出した。
「夏生!どこいくの!」
逃げて行く僕の背を庭に出て見送る母親が言葉を投げる。
「いつものとこ!」
僕は振り返らず、言った。いつものところ、それは僕達の秘密基地以外にない。
母親は大声で言った。
「早く帰って来なさい!それと・・昨晩のお父さんとの話はまだ皆に言っちゃ駄目よ・・!!あとは・・勝幸君のお母さんに会ったらちゃんと挨拶するのよ!」
母親の言葉に短く頷いたが、夏の強い陽ざしが僕の頷いた姿を一瞬にして足元の濃い影と一緒にしてしまった。
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