第4話
僕は妹の病室から戻るとノートパソコンを開き子供の頃の日記を手元に置いて直ぐに小説の草稿に取り掛かった。
しかし、中々冒頭部分が書けず、机に寄りかかりながら時間を過ごすうちに夜になった。
(書き出しになる部分が浮かばない…)
何かきっかけになりそうな言葉を日記や思い出の中から懸命に探していたが、やがてパソコンのキーボードを叩くのを止め、ぼんやりと肘をついて窓から見える夜の世界を眺め始めた。
点々と続くマンションの灯りと空に輝く星が見える。
眼下には街の明かりを飲み込んだ川が流れ、まるでゴッホが描く星空の絵画の世界のようだった。
(ゴッホか…)
肘がかすかに動いた。
(そういえば…)
心の中で反芻する。
(ゴッホの代表作に『向日葵』があったな)
ゴッホがフランスのアルル地方で描いた向日葵は代表作として知られている。
ふと、椅子をたって書棚からゴッホの画集を取り出して開いた。数枚ページを捲るとやがてゴッホの向日葵が見えた。
僕は作品を見る度にいつも思う。
(この向日葵の絵は何が僕達を引き付けるのだろう。色彩だろうか・・それともゴッホが抱えた内面ともいうべき秘密・・)
そこで僕は思わず絵から目を離した。
(そうだ『秘密』・・)
僕はそのままパソコンに戻りキーボードの横にゴッホの画集を開きながら、文字を打ち込んだ。
“子供の頃”
“秘密”
“場所”
画面に打ち出された文字を見る。
僕は大きく息を吸うと、再び文字を打ち込み始めた。
“子供の頃の秘密の場所”
心の中で指を鳴らす音が聞こえた。
小説の冒頭部分が決まった。
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