第554話 不安しかない……らしい。

「ふむ……確かに、ララ様の性格上連絡を取れたら自ら相手に会いに行くでしょう……それは危険すぎますね……」

「俺らが見張っているっても限度があるからなー。それに何て言ってもララ様は転移出来ちまうしなー……」

「ララ様の場合就寝中だからといって安心、という事もありませんからね。なんせララ様は少しでも目を離すと必ず何かをやらかしますからね……この作戦は危険しか無いでしょう……」


 アダルヘルム、マトヴィル、クルトの言葉に突っ込む者はこの場にはいない。


 セオもノアもそれにリアムまで「そうだ」というように頷いている。



 セオの親友であるウーノと連絡を取れたら。


 セオの情緒不安定も治るのではないか。


 その上、元の親友同士に戻れたら。


 ウーノも助けられるし、セオも元気になる、これって一石二鳥だよねー。


 なーんていう私の考えは、何故かディープウッズ家会議? を開くほどの大事になってしまった。


 いや、いや、いや、私、皆が言うように、勝手に行動なんてしたりしませんよ。


 これまでの事は 「全て仕方なく!」 です!


 でも……でももし、連絡がついてウーノが会いたいって言ったら……と考える。


 それはやっぱり一人でも会いに行っちゃうとは思うけど……


 でも、会いたいのはウーノだけですからね。


 そう、私はあちら側の全員と連絡を取ろうとなんて思ってもいません。


 特に占い師で、これ迄散々周りを不幸にして来たリードとは会いたくも無いぐらいです。


 会ってみたいのも、連絡を取りたいのもウーノだけ!


 そう、ウーノと会えた時にはウイルバート・チュトラリーとの血の契約を綺麗さっぱり解除して、そのままウーノを自由に出来たら良いよねって、そう思っただけ。


 ついでに我が家へ来てくれたらセオも喜ぶだろうなーとも、ちょっとは思ったけれど。


 自分の命を危険にさらして迄会いに行きたいだなんて思っていません。


 そうなのです、皆が言うほど大袈裟な事じゃ無いんだよねー。


「あ、あのね、アダルヘルム、それに皆も……私は別にウイルバート・チュトラリーの仲間たち全員と連絡が取りたい訳ではないのですよ……」


 私が誤解を解くための言葉を口にすると、半信半疑な表情で全員が私を見つめてきた。


 皆、そんな事を言ったってララ様は何をやるか分かりませんよね? と、疑問一杯な表情だ。


 私はそんな疑いを晴らす意味も兼ねて、きちんとやりたい事を説明することにした。


 本当はセオには内緒にしたかったんだけどね。


 こればかりは仕方がないだろう。



「私は、その……セオの、セオの友人だった、ウーノと連絡を取ってみたいだけなのです……」

「えっ……?」

「ほう……ウーノとは、セオをチェーニ一族の里から逃がした青年ですね?」


 アダルヘルムの言葉にセオを気にしながら頷く。


 セオは自分の様子がおかしい事に気が付いて居なかったからだろう……驚いた顔で私を見ている。


 だけどアダルヘルムは納得顔だ。


 私ならやりそうな事だと、思考を読まれてるようだった。



「ララ……気持ちは有難いけれど……俺たちチェー二一族は、上の命令で敵味方に分かれる事などよくある事だ。だからウーノと俺の事はララが気にする事じゃない……心配する必要はないんだ……」


 セオがなんとも言えない表情を浮かべ、私にそう言う。


 心配されて嬉しいのか、それとも余計なお世話と思っているのか……


 困ったような、でも嬉しいような、どちらとも取れる不思議な表情だ。


 私はセオとウーノの事をどうにかしたいという思いが大前提にあるが、何よりも我慢する事が当然で、そして命令で死ぬことも当たり前だと思っているチェー二一族が、嫌なのだ。


 前世の自分は、やりたい事をやりたいと言えず、いつしか何でもない小さな希望を持つ事も諦め、意志のない人形のような存在となっていた。


 前世の旦那がどこかへ行こうとも怒りも湧かず、趣味に没頭する事で考える事を放棄していた。


 立場は違うけれど、チェー二一族は私に似ている気がする。


 それにセオと同胞の人達が今も苦しんでいるのが嫌でもある。


 それとキランやセリカ、ルタのように里から離れた事で幸せを掴んだ人を目の当たりにしている。


 だからこそ、ウーノだけでなく、チェーニ一族のその運命を少しでも変えられたら。


 いつかチェーニ一族の里へ行き、ぶっ潰す予定でいるが、今はその布石としてウーノを救い、里の人達に小さな希望でも与える事が出来たら。


 ウーノがまた……セオと友達になれる、とそんな希望を持てたら……


 私はそれだけで良かったのだ。



「セオ……私にもセオの事を……セオの生まれ育った里の事を気にさせてよ……私達は家族でしょう? それに共に戦う仲間じゃない」

「ララ……」

「セオがいつも私を心配してくれるように、私もセオが心配だし、とても大事なの……」

「……うん……」

「目の前にセオの友人がいて、危険な事に巻き込まれているのなら、それを助けたいし、私の力で救えたら……とそう思ってしまうの……」

「ララ……でも……」

「大丈夫、私は危ない事は絶対にしないし、ウーノへの連絡も皆がいるところだけで取ると約束する。だから……アダルヘルム、それに皆……セオの友人であるウーノに連絡を入れてみても良いかしら? 勿論セオが絶対に嫌ならば止めるけれど……でも、助けたいの……お願いします」


 セオはまた不思議な表情を浮かべた。


 でもこれは、嬉しい気持ちを堪えている表情なのではないか? とそう分かる。


 ウーノを助けたい。


 あの時セオは、絶対にそう思っていたはずだ。


 だけど命の恩人であり、主である私を危険に晒すぐらいならば、自分の望みは諦める。


 セオもまたチェー二一族だから、それが当たり前なのだ。


 泣きそうに見えるセオの手を取り笑顔を向けた私に、アダルヘルムの空気を読めない言葉が聞こえてきた。


「……ですがララ様は……元々我々には話さず、一人でそのウーノという青年との連絡を試みようとしていたのですよね……?」

「へっ?」


 感動していたはずのセオは 「そうだった!」 みたいな表情に変わり、さっきまで泣きそうだった涙はどっかへ引っ込んでしまい、今度は半目になって私を見つめてきた。


 マトヴィルはソファの背もたれに寄り掛かり、口元を隠しニマニマと笑っている。


 クルトは「良い話に変換させ、誤魔化そうとしても騙されませんよ!」と言うかのようなキリッとした表情だ。


 ノアは……リアムと呑気にお菓子を食べている。


 そして私という犯人を追い詰めたアダルヘルムは、今日も今日とて、キラキラとした底冷えするかのような綺麗な笑顔を浮かべていた。


「ララ様は私達に隠れてウーノと連絡を取ろうとしていた……のですよね?」

「えっ? えっ? ち、違います! 違いますよ! もしかして念話を使って、連絡取れちゃったりしちゃったりなんかするかなー? って考えただけで……勝手に連絡を取ろうだなんて、私はこれっぽっちも思ってもいなかったですよ! はい! うん、うん……」

「ふむ……でも試してみようとは思っていた? それはどうやって、でしょうか?」

「えっ? えーと……、それは……その、夜にでもちょーっとウーノに声を掛けてみようかなーって思って……」

「夜に……? ですか?」

「だって、出来るかどうかも分からないじゃないですか、だから夜寝る時にでもー……って思って……その……」


 なんだろう。


 なんでだろう。


 皆の視線がとっても痛い。


 別に悪いことをしてないのに、怒られてる気分だ。


 アダルヘルムは皆の視線に怯えている私の言葉を聞くと、キラキラ笑顔を浮かべたまま腕を組み、何かを考え出した。


 そして……思わぬ事を口にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る