第536話 え? まさかの?!

 かぼちゃの馬車を降りた私は、試験結果が張り出されている場所へとスキップ……をしないように心掛けながらズンズンと進んだ。


 貴族の子が多く通うユルデンブルク魔法学校。


 だからなのか? なんなのか? 結果発表を見に来ている生徒は殆どいない。


 きっと皆自宅で優雅に結果を拝めるのだろう。


 まあ、自分の結果が周りに知られたくない……と言う理由もあるのかも知れない。


 特に貴族の子は体面をとても気にする。


 もし試験に失敗した事が噂で広がってしまったら。

 

 そう考えれば自宅で結果を見る方が無難だろう。


 私だって精一杯の力を出してやり切った手応えがあったからこそ、何の不安もなく結果を見に来れているのだ。


 これがもし合格ラインギリギリの範囲だったとしたら……


 やっぱり怖くて自宅で待機し、学校からの手紙を待っていた可能性が高いと思う。


 だって私って小心者だものね。


 うん、うん、皆の気持ちはよく分かるよ。


 そう、やっぱり試験って不安や緊張が付き物だものねー。



「ララー!」


 離れた所から名前を呼ばれ、そちらへと振り向くと、そこには笑顔で手を振る私の学校一の親友のディックが立っていた。


「ディックー!」


 私もディックに応えるように同じく手を振り笑顔で応える。


 淑女らしくない大きな声を出した私に注意するためか、クルトは一つ咳払いをしたが、周りに殆ど人がいなかったので怒ることはなかった。


 だけどセオはエスコートの為軽く握っていた私の手を、何故かギュッときつく握りなおすと「アレがディックか……」と呟き、アダルヘルム似の笑顔を浮かべた。


 確かにセオはディックに会ってみたいとは言っていたけど……


 その笑顔は楽しみにしてたって感じじゃないよね?!


 えっ? セオ、どうしたの?


 アレはディックであって、私を狙うウイルバート・チュトラリーではないよ?!


 ふええー? セオってばなんか怖いよー!!


 アダルヘルムが憑依したの?


 えっ? 私が大声出したから怒ってるのー?!



「ララ、おはよー! ハハハッ、本当に結果見に来たんだな! 手紙見た時は冗談かと思ったぜ」

「……手紙……?」

「ふふふっ、ディック、私はお友達に嘘なんて書かないわ。勿論アダルヘルム次第って所はあったけどね」

「……友達……?」

「ああ、アダルヘルム様からの許可が出て良かったな。俺もララに会いたかったから……今日会えて嬉しいぜ」

「……会いたかった?」

「有難う、ディック。私も会いたかったわ!」

「会いたかった?!」


 友人として会話を楽しむ私とディックのすぐ横で、セオがアダルヘルム状態のまま、何かをブツブツと言っている。


 もしかしてこの前の戦いでウーノの事があったからセオってば情緒不安定なのかしら? 正直、ちょっとだけ怖い。


 けれど私の世話係のクルトの方は普通通りの様子で、ディックをウイルバート・チュトラリーの仲間だと疑っている様子はまったくない。


 そう、ちょっと様子が可笑しいのはセオだけだ。


 神経過敏状態のセオを心配するとともに、ピリピリしてアダルヘルム化している様子に心の中で苦笑いを浮かべながら、ディックにセオとクルトを紹介した。


「ディック、こちらは私の義兄で護衛でもあるセオと、お世話係のクルトです。宜しくね」

「はい、あ、俺……じゃない、私はララ様と友人になりました、ムーア子爵家次男、ディック・ムーアです。宜しくお願い致します」


 ディックがそう言ってきちんと挨拶をすると、セオがズズズイッと前に出てディックの手をギュッと握った。


 友好的握手だと思うんだけど……


 セオが普段と違う様子だからか、やっぱりなんだかちょっと怖い。


 ディックもセオに手を握られた瞬間、まるで静電気でも感じたかのように「イッ!」と声を出していた。


 セオ? ちょっと力入れすぎじゃないかな?


 どうしちゃったの?


 何度も言うけど、ディックはウイルバート・チュトラリーの仲間じゃないよ!


 落ち着いてー!


「ディック、初めまして! 俺はララの義理(・・)の兄でセオと言います! 是非私と仲良くしましょう!」

「イッ! あ、は、はい! セオ様、よ、宜しくお願いし、痛っ、いたします!」


 挨拶が終わってセオがディックの手を離すと、ディックの手はやっぱり真っ赤になっていた。


 どうやら情緒不安定なセオは挨拶に気合いを入れすぎたようだ。


 今日のセオ本当に可笑しいよ。


 もしやのウーノ症候群なのかしら……少し心配だ……


 帰ったら癒しを掛けた方がいかもしれない……


 そんな気がするよ。


「ディック、クルトだ。ララ様は暴れ……ゴホンッ、あー、ちょっとお転婆な所があるが宜しく頼む。俺の事はクルトと気軽に呼んでくれ」

「はい! クルトさん、宜しくお願いします!」


 クルトの普通の挨拶を受け、ディックはホッとした様子だ。


 まあ、それは仕方ないよね。


 セオは私の手を相変わらず握った状態で、アダルヘルム並の笑顔だもの、友人になろうと言われてもちょっと怖いよね。


 取り敢えずそんな様子のセオの事を気にしながらも、ディックとは「いつ遊ぼうか」とか「学校に通いだしたら放課後に寄り道しよう」などと楽しみな話をしながら、一緒に合格発表の場所へと向かう。


 ディックとはその間も我が家に遊びに来たら何をするかとか、スター商会で何をしたいかなどなど親友らしい話に花が咲く。


 そう、ディックはユルデンブルク魔法学校で初めての友達。


 それにディックとは手紙のやり取りをしているのでもう親友ともいえる。


 きっと私とディックのそんな仲の良い様子が、セオにウーノの事を思い出させてしまったのだろう。


 セオは時折私とディックの間に入っては、「ゴホンッ」と咳払いをしては会話の邪魔をして来た。


 まあ、今日は仕方ないよね。


 この前ウーノに会ったばかりなんだもの、不安定にもなるよ。


 でもディックはセオを見てその強さにすぐに気がついた様で、私達の間に入るセオを嫌がるのではなく、チラチラと見ては嬉しそうにしていた。


 セオってそう言えば有名人だったかも。


 剣術大会でも武術大会でも優勝してるものね。


 ディックってばセオを知ってるのかしら?


 だってセオを見る目が輝いてるよー。


 あーあー、ちょっと羨ましいーなー。



「あ、あったぜ! ほら、ララ、あそこに結果が張り出してある!」


 広い学園内を歩き結果発表の張り出し場所へと着けば、やっぱりここにも受験生は殆どいなかった。


 これは人もいないし、胴上げオッケーな感じだよね。


 そうだ! ディックも一緒にセオとクルトに胴上げして貰おう!


 親友同士合格を喜び合いたいものね。


 ウフフと心で笑い、二人一緒の胴上げに胸ふくらませながら、結果の表から自分の受験番号を探す。


 5056番。


 5056番。


 何度も心の中で番号を読み上げ、自分の受験番号を探していると、私の隣の……いや、私の隣にいるセオの隣のディックが「あった!」と喜びの声を上げた。


 それを聞き、すぐさま「おめでとう!」 と手を叩いて喜び、ディックとハグを……セオと一緒にディックをハグした後は、私も再度自分の番号を探す。


 だけど……


 だけどね。


 5055番の次は、何度見ても5057番だった。


「えっ……私……落ちたの……?」


 そう……


 何度見直して見ても、合格者の中に私の受験番号は見つからなかったのだった。





☆☆☆





おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

セオはあからさまに焼きもちを焼き、ディックを警戒しています。ですが鈍感なララにそれが伝わる訳はなく……残念ながらウーノとの事でセオが様子がおかしいと思われています。

セオ頑張れ、いつかきっと気持ちは伝わるはず! たぶんね……

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