第537話 受験失敗?!

「えっ? ないよ、無いよ……私の受験番号ないんだけど……」


 番号の記憶間違えかと思い付き、モルトン先生のせいでボロボロになった受験票を魔法鞄から取出し、もう一度番号を確認する。


 ジックリと見て見れば、やはり受験票には5056番と間違いなく書かれている。


 そしてもう一度、張り出された合格者の表をジッと見つめる。


 5056……


 5056……


 5056……


 ダメだ……やっぱり5056番はどこにも載っていない……


 そう、なんど合格者の表を見返して見ても、私の受験番号は書かれていない。


 私が「落ちちゃった……」と呟き、ぎゅっと受験票を握りしめると、セオとクルトがそれを取り上げ二人の目でも私の受験番号を探してくれだした。


 合格したディックは、茫然自失の私を見て居た堪れないような表情だ。


 子供にそんな気を使わせて申し訳ない気持ちになったが、今の私は少しパニックを起こしていた。


 そう、テストは凄く良く出来たと自分でも分かっていた。


 ノアと答え合わせもしたし、特に難しい問題も見当たらなかった。


 満点の自信さえあった程だった。


 だけど……


 ノアの答案用紙と違う箇所が一つだけ。


 そう、私は余った試験時間で答案用紙の裏に色々と書き込んでしまったのだ。


(もしかして……アレが悪かった? テストの答案用紙にいたずら書きした、問題児だと思われたのかしら?)


 それとも……


 学校に何か迷惑を掛けたかしら?


 と考えれば、色々と思い付く。


 そう、試験中、学校の壁は壊したし、高価な魔道具だって壊してしまった。


 それに予想外の出来事だったとはいえ、試験中に他の受験生たちを眠らせてもしまったし、魔法の試験では爆発まで起こしてしまった。


 うん……


 どう考えても学校側としてはお断りしたいほどの問題児だ。


 それに……


 アダルヘルムやマトヴィルが来ることで学園内を騒がせてもしまった。


 絶対に入学させたくはない。


 学園の先生たちにそう思われても仕方がないことばかりをしでかしている事に、今になってやっと気が付いた私だった。


「……1049のノア様の受験番号は載っていますね……」


 クルトがぼそりとそう呟いた。


 その声を聴き私も視線を合格者の表へともう一度向けてみれば、1049番のノアの番号をすぐに見つける事が出来た。


 それにノアの名前の前には ”星” のマークが付いている。


 その事に気が付いたディックが「1049番は首席だ……」とクルトの言葉に反応し、そう答えた。


 つまり双子のような状態の兄(弟?)であるノアは首席合格で、妹(姉?)である私は不合格……という結果だ。


 スター商会の会頭として、そしてディープウッズ家の子供として、不合格とは恥ずかしい結果かもしれない。


 でもこればかりは仕方がない。


 それに私は知っている。


 そう、受験だけが人生の全てではないし、この国には他にも学校は有る。


 それにどうしてもユルデンブルク魔法学校に行きたかったら、来年もう一度受験しても良い。


 学園入学は15歳まで大丈夫なはずだからね。


 だけどね、何よりも恥ずかしいのは……


 自分が受かって当然だと思っていた事……


 それも自信満々で皆に「合格見にいってくるねー」と行って家を出てきた私。


 なのにこの有様とは……


 ううう……皆になんて報告しよう……


 恥ずかしぬよー。



「ララ、元気出せって! まだ落ちたとは限らないだろう?」

「へっ?」


 ディックのそんなセリフを聴き、私は沼底から救い上げられた気分になった。


 まだ落ちたとは限らない?


 今確かにそう聞こえたからだ。


 ディックは私を励まそうと多分肩を叩こうとしたのだろう。


 でもセオが間に居るので、片手を空中に浮かべながら少し引きつった笑顔を浮かべていた。


 その手をグーパーとして誤魔化した後、落ちていないと思える理由を教えてくれた。


「ほら、あの、補欠合格って可能性もあるだろう」

「補欠合格?」

「そう、家に帰っても結果は分かるけど、学校の事務所に行けば、補欠かどうかはすぐに分かるはずだぜ。だから一緒に事務所まで確認に行こうぜ」

「……ディック……」


 ディックは王都に住む貴族の子だからか、この学園の事情にも詳しいのだろう。


 もしかしたらディックのお兄さんも、この学園に通っていたのかもしれない。


 補欠だってなんだって合格は合格だ。


 その可能性に掛けてみても良い!


 ディックが笑顔で私に手を差し出してきたので、私も笑顔でそれを掴もうとしたのだけど……間に居るセオがディックの手を握り。セオはもう一方の手で相変わらず私の手を握っていた。


「ララ様、すぐに事務所に確認に参りましょう。ララ様が不合格などあり得ません!!」

「……クルト……」


 私の受験票を握りしめたクルトが、そんな優しいことを言ってくれる。


 モルトン先生にボロボロにされた受験票は、益々ズタボロだ。


 クルトは怒っているのか? 物凄い力を入れてるようだ。


 私の世話係として主の能力を信頼してくれているのだなー……と嬉しくなっていると、クルトの言葉はまだ続いていた。


「大体そんな事をしたら、この学園の校長や教頭はアダルヘルム様の仕返しが恐ろしくて神経がまいってしまうでしょう……」

「えっ?」

「さあ、行きましょう! 何なら俺が文句言ってやりますよ!」


 いやいや、クルトせっかく感動したのに……


 そのセリフ、アダルヘルムが怖いから何が合っても不合格にはしないって事だよね。


 それって裏口入学?


 不正じゃない?


 それもどうかと思うんだけど……


「ララ、大丈夫、これはきっと何かの間違いだよ。ララは優秀だ。絶対に合格してるよ」

「セオ……」


 優しい表情を浮かべ、励ましてくれるセオにぎゅっと抱き着く。


 セオの顔が何故かディックの方へと向いている気がしたが、それはたまたまだろう。


 私には今、落ち込んでも励ましてくれる優しい家族や仲間がこんなにも沢山いる。


 前世だったら「落ちた……」と一人で呟いて終わりだっただろう。


 いや、落ちた時点で父親に見放されていたかもしれない。


 でも今は誰も私を軽蔑するような人はいない。


 まあ、リアム辺りは「全くお前は―」とか言って私の頭を摩り、髪の毛をぐしゃぐしゃにするかもしれないが。


 それがリアム流の励ましだって、今の私には分かる。


 皆のお陰で笑顔を取り戻した私は、セオ、クルト、そしてディックに身も心も支えられながら、本当に不合格なのかを確認するため、ユルデンブルク魔法学校の事務所へと向かったのだった。






☆☆☆




こんにちは、白猫なおです。(=^・^=)

今日は遅くなってしまいましたー(;'∀')すみません。今日もよろしくお願いいたします。

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