第526話 暗殺奴隷人形は怪物君?

 コナーの投げた爆弾は、ゴルフボールぐらいの大きさで、毛糸玉に似ていて、まるで人の髪の毛でもまとめたかのような気味悪さがあり、色は黒色をしていた。


 だけど、コナーはその爆弾のような玉で私達の誰かを狙うのではなく、何故か自分(コナー)の近場に居た、味方である奴隷らしき使用人へ投げつけた。


 その爆弾が奴隷の背中に当たると、爆弾の玉は蜘蛛の手足が生えたかのように変形し、細く長い足のような触手が出て、それが奴隷にへばりついた。


 いや、その触手が奴隷の体に入り込んでいった……という方が正しいかもしれない。


 そして元から人形のように無表情だった奴隷達は、黒い爆弾が背中に当たると、ピタリと動きが止まり、操り人形が力を無くしたかのようにガクンと肩を落とした。


 そしてそこから奴隷たちの変態が始まった。


 奴隷たちの体は筋肉が急に発達したかのようにボコボコと音を立てて膨れ上がり、昔人気だったアニメの主人公のように服は破け、そして口も裂け、髪は抜け、肉の塊が集まった筋肉丸だし人間の様な姿になった。


 そして興奮してなのか、痛みからなのか? 「グギャー――ッ!」と叫んだ口元には魔獣のような牙が見え、血のようにドロッとした涎も垂らしているように見えた。


 コナーが投げた黒い玉はどうやら人間を人間では無い何者かに……そう、魔獣ではなく怪物に変えてしまう薬のようだった。


 いくら彼らが奴隷市で購入し、彼らの所有物になった奴隷だとしても、怪物君に変えられてしまった彼らだって心がある人間だ。


 人を人と思っていない……人間を物のように扱う自分勝手なウイルバート・チュトラリー達の所業に、益々怒りが込み上がる。


 人の意思を奪い、血の契約をするだけではなく、人間では無くしてしまうウイルバート・チュトラリー達。


 やっぱり彼らの行動を止めなければ、クロイドが言っていた ”世界平和” などこの世界には訪れないだろう。


 ウイルバート・チュトラリー軍団!


 絶対許さない!




「なんて酷いことを……」と思わず呟いた私の言葉に、クルトが強く頷く。


 クルトは短い期間だったが奴隷だったことがある。


 きっと今怪物君にされた奴隷たちを見て、自分を重ねたのだろう。


 ウイルバート・チュトラリーやコナーを見るクルトのその目には、酷い怒りが込み上げている様だった。


 そう、彼らがいる限り、今後も奴隷達はこうして命を奪われるのだ。


 許してはいけない。


 クルトの表情を見て、尚更その思いが強くなった。



 怪物君にされた奴隷達は「グギャーーーッ!」とまた雄たけびのような叫び声を上げると、敵味方構わず襲い、狭い部屋の中で暴れ出した。


 暗殺奴隷人形。


 その名がピッタリなほど、怪物君となった奴隷たちは、人間離れした素早い動きと、圧倒的なパワーを見せつける。


 占い部屋だった美しい部屋は、壁も天井も壊れ、もう部屋とは呼べない有様になっている。


 まあ、元々アダルヘルムやマトヴィル、それにセオの攻撃でかなり部屋は壊れていたけれどね。


 でも理性の無い怪物くんの攻撃はそれ以上に容赦が無く、まさに破壊神だ。


 このままではこの屋敷を全て壊してしまうだろう。


 そう、戦うというよりも、怪物君は暴れているという言葉がピッタリな様子だ。


 もしかしたら背中に付けられた爆弾のせいで、苦しんでいるのかもしれない。


 だって体の形を無理矢理変えられちゃったんだものね。


 そりゃー苦しいし、痛いに決まっている。


 クルトにギュッときつく抱きしめられながら(戦いに参加しないように縛られているともいえる……)怪物君の悶え苦しむ姿を見て胸が酷く痛んだ。




「ゴホッ、ゴホッ、何だ、ここは! スゲー有様だなー!」

「リアム?! ルタもっ!」

「よー、ララ、元気かー? あそこにいるあいつが、あのウイルバート・チュトラリーってやつなのかー、なんか腐ってんなー」


 部屋の壁に大きな穴が開き、いつの間にか庭に侵入していたリアム達が、その穴から私たちの居る部屋? にやって来た。


 どうやら屋敷から大きな音がし、それが気になって勝手に庭へと入って来たらしい。


 奴隷の使用人や護衛は今この部屋に全員集まっているし、きっと簡単に侵入出来たのだろう。


 庭には屋敷の護衛(奴隷ではない?)相手に暴れるベアリン達の姿や、可愛い攻撃を見せるテゾーロとビジュー、それにそれをうっとりと見つめているジュンシーの姿も見えた。


 どうやら皆一緒にここ(占いの館)へやって来たらしい。


 きっと馬車の中に居ても、中の様子が気になって仕方がなかったのだろう。


 今はランスだけが皆の馬車を抱え、屋敷の外で待機しているようだ。


 勿論傍には護衛としてジュリアンがいる。


 でも、皆お忍びどころか、ヤル気満々って感じだよね。


 もしかして戦いたくってウズウズしていたのかしら?


 と、そんな大騒ぎの屋敷の中で、ルタの「……コナー……」と呟く声が聞こえた。


 リアムを護衛しながら、苦しみながらも主であるウイルバート・チュトラリーを守るコナーを見たルタが、その名を小さく呟いた。


 そんな普段見せない焦りがあるコナーを見つめるルタの目には、憎しみは無いようにも見える。


 それよりも、普段余り感情を出さないルタが、同じチェーニ一族の者達の今の現状を見て、悲しそうな表情をしている。


 ルタの過去の出来事は、許しがたい悲しい出来事だったとはいえ、ルタはこれまでチェーニ一族を出た後は、人間らしく生きてくることが出来たといえる。


 だからなのか、ルタの同朋を見る目には憐みのような物が浮かんでいる気がした。


 チェーニ一族に生まれた者の悲しい運命。


 普通の人間として生きる事が許されない辛さ。


 自由など一度もない生活。


 その悲しさが良く分かっているルタには、彼らが不幸な存在にでも見えているかのようだった。


 そんなルタの肩を、リアムが気軽な様子でポンと叩く。


 ルタはそれに頷き返し、まるで「自分は大丈夫だ」とでも言っているかのような様子を見せた。


 これならば私怨でルタは動くことは無いだろう。


 でもルタは家族を殺められた恨みを、決して忘れたわけではない。


 ただ彼らも被害者だとルタはそう思ったのかもしれない。



「よう、ララ、あいつらなんであんな可笑しな様子なんだ?」


 リアムがこの部屋の現状を気にすることなく、今度は呑気な様子でそんな事を聞いてきた。


 相変わらずアダルヘルムやマトヴィルとセオは、倒しても倒しても起き上がってくる奴隷相手に戦っているし、暗殺奴隷人形化してしまった怪物君たちも殺さないようにと、どうにかして助けて上げたいと思っているかのように、上手くかわし乍ら戦っている。


 本当は私もこの戦いに参戦したいところだけど、クルトから癒し以外の許可は下りていない。


 今私は、ルタとクルトに守られながら、リアムと一緒に壁際……とは言えない状態の元壁だった場所に居る。


 なので私とリアムだけは、この場で戦いとは無縁状態だ。


 そんな中、リアムは苦しむウイルバート・チュトラリー達の姿が気になったようで、私に問いかけて来た。


「えーと……私が癒しを掛けたらああなっちゃったの……彼らにとって私の癒しは癒しじゃ無かったみたい……」

「癒しか……まあ、ララの癒しは強烈だからなー……あの暴れてる気持ち悪い人形? 魔獣? にも癒しをぶつけたのか?」


 リアムはルタの影から暗殺奴隷人形と化した奴隷たちを指さした。


 どうやらリアムは彼らがあの怪物君の姿になってしまったのも、私の癒しのせいだと思った様だ。


 そんな失礼なリアムの言葉よりも、私はその言葉を聞いて 「そうか!」 と閃いたことの方が嬉しかった。


「そうか! あの暗殺奴隷人形にも癒しをぶつければ良いのか! リアム有難う!」


 私はこの時リアムに良い笑顔を向けられていたと思う。


 癒し爆弾。


 今度こそ、本領発揮だよね!





☆☆☆






こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

白猫にはサンタさんが来ませんでした……良い子じゃ無かったって事?それとも子供じゃないって事?( ;∀;)

ウイルバート・チュトラリー達との戦いもクライマックス?かなー。529話でこの章も終わりの予定です。頑張りまーす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る