第525話 失礼しちゃう!
「うわぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」
私の癒しを受けたウイルバート・チュトラリーは、とっても失礼なことに苦しみだした。
胸を押さえ、頭を押さえ、体を掻きむしるように暴れている。
瞳からは血のような涙が零れ、髪の色はお母様ともメルキオールとも違う、くすんだシルバー色へと変色した。
青年らしいピチピチとした瑞々しい玉のお肌は、皺が寄り、まるでやせ細った老人のように血管が浮かぶものへと変わっていく。
コナー達が「ウイルバート様!」「プリンス様!」と口々に名を呼び叫ぶが、彼らも私の癒しを受けたため、先程以上に苦しそうに脂汗を浮かべ、歩くのがやっとといった様子だ。
アダルヘルムはニヤリとし、自分の思惑が当たったと喜んでいる様だった。
そしてマトヴィルは苦笑いになり、セオは何故か作ったような無表情のまま相手方を見つめていた。
クルトとメルキオールは完璧に同情している顔だ。
そしてクロイドだけがまた私に拍手を送ってくれている。
それにしても……
貴方たち!
ちょっと失礼すぎやーしませんか?
だって良いですか、癒しですよ!
い・や・し!
私の癒しを受けて苦しむって……
まるで私が悪い事しているみたいじゃないですかっ!!
敵の苦しむ姿を見て、心の中で地味にショックを受けている私をクルトが急に抱え、そしてメルキオールは、私の攻撃を見つめウットリ中のお腹が出て重そうなクロイドを「よっこらせ」と抱え、部屋の端へと非難させた。
そう、アダルヘルム、セオ、マトヴィルが遂に攻撃態勢に入ったからだ。
彼らが戦うとなれば私はともかく、実力が違い過ぎる皆は邪魔になる。
そしてアダルヘルムは私達の避難を確認すると声を発した。
「さあ、覚悟しなさい! これまでの悪行を反省する時間ですよっ!」
剣を構え、そう言ったアダルヘルムは、カッコイイ……というよりも美しかった。
そして同じく美しい見た目の野獣なマトヴィルは、久しぶりの本気の戦いに、興奮しているのか笑顔満開、元気百倍、ヤル気全開といった様子だ。
私が以前プレゼントしたナックルダスターを両手に嵌め、獲物に狙いを定めているかのように見える。
可哀想に……コナー達……
私の癒しを受けて瀕死状態なのに、この二人の相手をするのは辛い事だろう……
そう、コナー達の顔色は、アダルヘルムの言葉を聞きますます青ざめているように感じた。
そんな中でセオは剣を構え、あの違和感のある無表情のまま、敵側の一人の青年を見つめていた。
ウイルバート・チュトラリーの仲間の……ううん、手下の中でも一番若い男の子をセオはジッと見つめている。
同じチェーニ一族の者だ。
もしかして知り合いなのかな?
と、クルトに抱え上げられた状態でそんな事を考えていると、ボロボロになり始めたこの狭い部屋に、多くの人間が入って来た。
それは屋敷の使用人や護衛達で、彼等はウイルバート・チュトラリーやコナー達を守るかのように間に入り立ちふさがった。
多分元奴隷か何かなのだろう、彼らも私の癒しの影響のせいか、顔色から少しばかり体調が悪いように見える。
それに、自分の意思を持ち始めている者もいるのか、狼狽えている者たちも数名いた。
そんな彼らはアダルヘルム、マトヴィル、セオの三人にどいうにか挑んでいくが、勿論相手になるはずもなく、次々と倒されていく。
そのせいで部屋の中は益々ぐちゃぐちゃになり、カーテンも破け、リードの大切な水晶も床に転がっている。
壁や床だってあっちこっち穴あき状態だ。
屋敷に魔獣でも飛び込んできたのか? と言うぐらい酷い有様だ。
もう部屋とは呼べないだろう。
そんな中、ウイルバート・チュトラリーの叫び声が響く。
「お前たち! こいつらの相手をしろ! コナー! コナー! お前は僕の下へ来い!」
相変わらず苦しんでいるウイルバート・チュトラリーは、私の癒しを直に受けた事で、同じ様に苦しむリードや他の手下(チェーニ一族の者)に、アダルヘルム達と戦えと指示を出した。
美しい装いだった占い師のリードは既にボロボロの姿だが、自分の主の指示とあっては戦わない訳にはいかない。
リードは青白い、今にも死んでしまいそうな様子のままどうにか剣を……いや、ナイフを構えた。
そしてガリーナや他のチェーニ一族の者たちも、アダルヘルム達と戦おうと剣を構えるが、私の癒しのせいで凄く具合が悪そうだった。
そう、立っているのも辛いと言ったところだろう……
本当に失礼しちゃうよねー。
と、ちょっと頭に来た私はいたずら心が湧いてしまった。
だって癒しですよ。
普通は喜ばれるものなのにねー。
「ねえ、クルト、もう一度彼らに癒しをぶつけたら、ウイルバート・チュトラリーはどうなるかしら?」
「ハハハハッ、ララ様は案外意地悪ですねー、そんな事をしたらあいつらこの世から消滅するんじゃないですか?」
と、何だか敵よりも、クルトが一番失礼な事を言う。
私はただ苦しそうだから癒しを掛けてあげようかなー? と思っただけなのに。
決して虐めたい訳じゃないのに。
そう、優しさ、優しさなんですよー。
「えーと……まあ、取りあえず暇……ゴホンッ、えーと……何か協力したいので、癒しをもう一度ぶつけてみましょうか?」
「クククッ、ええ、やってみましょう」
大勢の敵を次々に倒していくアダルヘルム達を見て、私もなにかしなければと思い立ち、クルトに癒しの相談をした。(暇つぶしじゃないもん!)
そしてクルトの許可を得た私は、手の中に小さな癒しを作り、苦しんでいるウイルバート・チュトラリーの手下たちの胸を目掛けて、ピストルの弾のように「バキューン」と言いながら撃ってみた。
声を出したからか? 癒しに気が付いて避けようとする手下たち。
だけど癒しの球は私の意思で弧を描き、敵を追い詰める。
胸にズドーンッと癒しが刺さった手下たちは……残念ながら元気にはならず、その場に倒れ込んだ。
私はまた次、また次と、ガリーナも含めコナー以外の敵の胸へと、自慢の癒しを打ち込んだ。
「ギャアアアアアッ!!」
すると叫びだしたのは、手下たちではなく、何故かウイルバート・チュトラリーだった。
もう青年の姿でいるのが辛いのだろう。
体は小さくなり、出会った頃の小さな男の子ぐらいの姿のサイズになっている。
だけど見た目はミイラに近い。
そう、まるで呪いを受けたかのような酷い姿だ。
(癒しなのにねー)
ウイルバート・チュトラリーは、もう何も言えないほど苦しいのか、コナーの胸の中で「ゼーゼー」と苦しそうな呼吸だけしている。
そんなウイルバート・チュトラリーを助けようと、コナーは何とか転移しようと試みている様だが、アダルヘルムやマトヴィル、そしてセオからのナイフや魔法攻撃が飛んできて上手く転移出来ない。
逃げられない焦りと、私の癒しを受けた痛みからなのか、普段冷静で無表情なコナーのその顔は、とても歪んでいて苦しそうだ。
それでも主であるウイルバート・チュトラリーの事を絶対に守ろうとしているコナー。
やはりコナーだけは、血の契約による繋がり以上の何かがあるのだと、私はその様子を見て感じた。
「早く……早……く……コ……ナ……アダルの所……へ僕を……連れて……」
戦いによる大きな物音の中、ウイルバート・チュトラリーの苦しむ声と共に言葉も聞こえてきた。
アダル?
って、アダルヘルムの事ではないよね?
もしかしてアグアニエベ国の王様とか?
いやいや、そんな名前では無かったはずだよね?
じゃあ、一体誰の事なのか……
私が ”アダル” という名の人物を気にしていると、遂にコナーは最終手段に出たのだろう。
自分の懐から、爆弾のような小さな黒い不思議な玉を数個取り出した。
そして……
それを奴隷たちに向かって投げたのだった。
☆☆☆
おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)
年賀状……まだ作っていません。そろそろメ○ルやライ○だけの挨拶でオッケーってなりませんかねー。忙しいと面倒くさく感じてしまう。ダメダメ人間です。(笑)
今話はアダルヘルムのセリフに悩みました……
のちのちもしかしたら変えるかもです。うーん……難しい。(;'∀')
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