第516話 占いの館

「ふむ……クロイドを乗せた馬車はリーバルバルへと向かっているようですね……」

「リーバルバルは……王都の端ですね……」

「ええ、ドロミーティア領に近いため、貴族の別宅が多い場所です……やはりテネブラエ家の別宅を使うのでしょうか……」

「それかアグアニエベ家やテネブラエ家と関係がある貴族の屋敷でしょうか……? ですがウイルバート・チュトラリーを迎えるとなったら……テネブラエ家の持つ屋敷の中でも良い物を選択するでしょう……」

「確かに、その通りですね……」


 アダルヘルムとジュンシーの会話を聞きながら、のんびりと進む馬車の中、私は街の夜景を楽しんでいた。


 クロイドを迎えに来た馬車とは、今の所十分に距離も取れたまま、そして見つかることも無いまま、後を付ける事が出来ている。


 スライムの道案内がなくても、大きな道はほぼ一本道といえるので、後を追っていても怪しまれることはない。


 もっと遅い時間だったならば、馬車の通りも少なかっただろうから、後をつければ目立っていただろう。


 クロイドとの面会を夜会へ向かうような時間帯に設定してくれたリードには感謝しかなかった。


 まあ、自分たちも目立たないようにするためにそうしたのかもしれないが……



 それに貴族の別宅が多い場所ならば、私達の馬車が追いかけていても不自然さはない。


 一番近くを走っているリアム達は馬車の中を覗かれたとしても、服装から貴族に見えるので、何の問題も無いだろう。


 それにリアムはイケメンだしね。



 まあ、ベアリン達は夜会というのにはちょっと無理があるかもしれないが、そこは貴族に呼ばれているとでもいえば何とかなる。


 私やセオのように顔バレ全開でないので、皆は大丈夫だろう。


 それにいざとなったら転移してでも助けに行くしね。


 そんな事を色々と考えていると、馬車は高級住宅街のような場所へと入った。



「あの高台の屋敷は……あからさまに結界が張ってありますね……あれでは何か有ると言っているような物だ……」

「ええ、確かに目立ちますね……その上結界が荒い……使っている物はスター商会の結界魔道具では無いようですね」

「ふむ……黒い雲のような結界ですか……あれには呪いのような物が掛けてあるのかもしれません……あのわざとらしい結界も……餌をおびき寄せる蜘蛛の糸のような罠でしょう」


 アダルヘルムは結界の不自然さに気が付くと、リアムやベアリン達の馬車に止まるようにとスライムを使って指示を出した。


 わざとらしい結界も、興味を持った人間をおびき寄せるためのような物らしい。


 そしてきっと招かれざる客が結界内に入って来た場合、ウイルバート・チュトラリーによって処分されるのだろう。


 いや、彼の事だ、弄んで飽きたら処分するのかもしれない。


 きっと無理矢理血の契約でも交わさせ、自分の手駒とするのだろう。


 そんな考えに行きついた途端、ゾワリと鳥肌が立った。


「アダルヘルム! 体に気持ち悪さを感じました!」


 自分を抱きしめながらアダルヘルムにそう訴えると、アダルヘルムは頷き、マトヴィルは警戒するように窓の外を確認した。


「ララ様、きっとクロイドがあの忌々しい結界内に入ったのでしょう……」

「それを私が感じたという事ですか?」

「ええ、クロイドはララ様の為にと頑張っておりますからね……知らず知らずのうちにララ様にはそこまで伝わるようになったのでしょう……」

「えっ?」


 それは気持ち悪い……


 以心伝心ってやつですか?


「大丈夫ですよ。それはクロイドが主であるララ様の願いを聞くために行動しているからこその現象です。常日頃からクロイドと繋がることはございませんから……」

「……それなら良いですけど……」


 クロイドとずっと繋がった状態だなんて絶対に嫌だ。


 彼の喜怒哀楽がいつでも感じられるだなんて……全く嬉しくない。


 でもウイルバート・チュトラリーは血の契約を結んで、相手のそういった感情を知りたがったのだろう。


 そして今現在は……


 きっと私と繋がってしまった事で、私に心の中を覗かれているかのような違和感を感じているのだ。


 意図せず行った事とは言え、これまでの行いが自分に返って来たかのようだ。


 それも強くなる為に私の魔力を奪ったはずなのに……それがままならない。


 イライラして焦るあまり、コナーやガリーナをロイドに近付けたのかもしれない。


 やることなすこと悪策となっているウイルバート・チュトラリー。


 それはイラつくのも当然だ。


 そんな彼は今回クロイドと会う事で、何を要求するのだろうか……


 そしてクロイドから、何を聞きだそうとするのだろうか……


 それがとても気になる私だった。



「我々もこれ以上は近づかない方がいいでしょう……」


 馬車を止めた場所は、そのわざとらしい結界から少し離れた場所だった。


 結界が薄いため、ぼんやりとだがクロイドとメルキオールが入っていった屋敷が見えた。


 薄く黒い霧のようなぼんやりとした結界の中に見える屋敷は、ドラキュラとか、ハロインナイトとかで出てきそうな、お化け屋敷とも見えるような、重厚な佇まいだった。


 占いの館。


 と言われても、何の違和感もない建物だ。


 リアムは入りたがらないだろうな……


 そう思い、お化け屋敷のような屋敷を見て思わず吹き出しそうになった。



「ゴホンッ、クロイドとメルキオールは大丈夫でしょうか……」

「ララ様、大丈夫ですよ……何か有ったらすぐにセオの転移で我々が駆けつけますから……」


 我々という中には私は入っていないのかもしれない。


 でも、アダルヘルムの言葉に頷きながら、その時は私も一緒に転移しようと心の中でひっそりと決めたのだった。

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