第513話 裏ギルド

「お待ちしていました……さあ、中へどうぞ」


 遂にリードとの面会の日を迎えた。


 裏ギルドに着くと、闇ギルド長であるジュンシーが、裏ギルド長のケレイブ・ロッグと一緒に私を出迎えてくれた。


 ケレイブ・ロッグとリードの面会時間は今夜七時。


 迎えの馬車は六時に来るようだ。


 けれど今は丁度お昼すぎといった時間だ。


 相手側に私達が関与している事を気付かれないようにするため、早めに裏ギルドへとやって来た。


 私は無言のままジュンシーに頷いて挨拶をし、そのまま裏口から裏ギルド内へ入っていく。


 私と一緒に来たアダルヘルムやマトヴィル、そして勿論セオとクルトとメルキオールも無言のまま室内へと入る。


 皆念の為フードを被り、顔も分からないようにしている。


 特にアダルヘルムとマトヴィルは目立ってしょうがないので、フードは必須だ。


 ここ数日でジュンシーが既に裏ギルドの従業員達の人心掌握をしてくれていたらしく、皆私達を素直に迎え入れてくれた。


 ジュンシーが裏ギルドの従業員たちに何をしたかは分からないけれど、ギルド長であるケレイブがジュンシーと仲良く? しているように見えるため、反発は殆どなかったようだ。


 まあ、それでも中には納得がいかなかったものもいたのだろう……


 ちょっと怪我をして、ちょっと青い顔で、可愛いテゾーロとビジューの姿を見て、残念ながらだいぶ怯えている人が数名いた。


 どうやらジュンシーは荒っぽい掌握をしたようだ。


 まあ、先に闇ギルド長のジュンシーに攻撃を仕掛けてきたのは裏ギルド側なのだ。


 ちょっとばかし攻撃されても文句は言えないだろう。





 そしてリアム達は、というと……


 夕方に客を装って裏ギルドにやって来る予定だ。


 その際獣人族の血が入った、ディープウッズ家の護衛であるベアリン達も客のふりをして店に来る。


 そして今はリアムの兄であるロイドを守っているルタも、今日だけはリアムの護衛を兼ねて来る事になっている。


 ルタには何が合っても絶対に無謀な事はしない約束をしてもらった。


 そう、客として裏ギルドに来るリアムとランスを守るのに、護衛がジュリアンだけでは厳しいだろうとアダルヘルムが判断したからだ。


 そしてスター商会の方は私達が留守の間、護衛サブリーダーのトミーを中心として、護衛達皆で守りを固めてくれている。


 ディープウッズ家の方は、スライムたちとドワーフ人形達がいるのでそちらも守りは完璧だ。


 それに……


 もしコナーもウイルバート・チュトラリーと一緒にこの面談に来るとしたら……


 チェーニ一族出身のルタは確実に戦力になるとアダルヘルムは判断した。


 多分、ルタに家族の敵を取らせてあげたいのだろう。


 それもコナーを捕まえるという形で、アダルヘルムは決着をつけたいのだ。


 だったらルタにはしっかりと戦って貰い、コナーを尻たたきの刑にでもしてスッキリとして貰いたい。


 家族への想いをコナーにぶつけてしまえばいいと思う。


 今回の事でルタの気持ちが少しでも晴れることを私は祈りたい。




 そして今日始めて来た王都の裏ギルドは、表向き飲み屋のような形になっている。


 表の入口は飲み屋の入口。


 つまり裏ギルドとしての入口は店の裏側にある。


 そう私達が入って来た入口こそ、裏ギルドの本当の入口なのだ。


 その入口は目立たないようにするためか狭い裏道側にあり、飲み屋の入口は表の大通り側にある。


 これならここが裏ギルドだと誰も分からないだろう。


 大通りから見たらただの飲み屋にしか見えない。


 そう言えば……私が壊した……いえ、ただ人質を助けただけのブルージェ領の裏ギルドも ”スカァルク” と名の付いた、飲み屋のような見た目をしていた。


 スカァルクの実際の店内は賭け事をする場所になっていて、怪しい薬も売っていたようだが、王都の裏ギルドの作りも、そのスカァルクという名の店によく似ていた。


 田舎のブルージェ領よりも店は美しく品がある様子だが、少しだけ建物は小さい。


 そしてこの店の名は ”アンロー” というらしく、表側に赤い看板が掲げてあった。


 私達が入った入口側には、勿論看板はない。


 誰だってただの裏口だと思うだろう。


 そしてこちらの正しい入口から裏ギルドへ入れる人間は、ごくわずかのようだ。


 そう、裏ギルドのギルド長であるケレイブに認められた人間のみ、こちらの本当の入口から入れるのだ。


 つまりはお得意様だろう。


 お金をたーっぷり落してくれる人は顔パスで通れるのだ。


 私の場合は……と言うと……


「ああっ! 我が主! ララ様! お会いしとうございましたーーー! 今日も何と美しく輝いていらっしゃるのでしょう! ご主人様の輝きはダイアモンド以上! 私はご主人様にお会いできなかった五日と5時間と19分と数秒……涙を堪えて暮らしておりました! もうこのまま離れたくない! 今日が終わりましたら、是非とも私を下僕の一人に――」

「ゴホンッ、ケレイブ、静かに! ララ様が引いていますよ……」

「はあああ! ご主人様、その哀愁ただようお顔もまたとても魅力的でございますーーー! はあああーー!」


 ケレイブは相変わらず私を主として敬ってくれているようだ。


 ジュンシーが止める言葉も全く聞こえていないらしい。


 薬が切れたらもう少し落ち着くって誰か言っていませんでしたか?


 なんだか前よりももっと酷くなっている気がするんですけど……


 五日ぶりに会ったからだろうか?


 ケレイブの私に向ける視線が以前にも増してとっても気持ちが悪かった。


 全身に広がる鳥肌を抑えるため、私は出されたお茶を一気飲みした。


 だって今はとにかく温まりたかった。


 ケレイブ……


 まずは落ち着いて―!!

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