第514話 裏ギルド②
「そろそろリアム達が来る時間ですね……」
夕方になり、客としてリアム達やベアリン達が裏ギルドへやって来る時間となった。
チラリと時計を見て呟いた私の言葉を聞き、ケレイブが張り切って店舗を見に行こうとしたところで、ジュンシーが止めた。
そう、今のケレイブは私に酔っていて、ちょっと行動が大げさすぎる。
そんな状態で店に行ったら何をやらかすか分からない。
なのでジュンシーの護衛でもあり、補佐でもあるメルケとトレブが飲み屋側の店の様子を見に行ってくれることになった。
二人にお願いした私は、可愛いテゾーロとビジューを抱きしめたまま、ケレイブからの熱烈な視線をなるべく避ける。
裏ギルドに来てからケレイブはずっと私を見つめたままだ。
可愛い子に見つめられるなら嬉しいけれど、相手はガマガエルさんそっくりなケレイブ……
ちょっとだけ……いやだいぶかな……血の契約を消したことを後悔した私だった。
「リアム様達は既に店舗内にいらっしゃいます……獣人族の方たちも……」
店内の様子を見て来てくれたメルケとトレブは戻って来て報告をしてくれたが、何故か苦笑いで歯切れも悪い。
私が首を傾げ、アダルヘルムが「どうした?」と二人に質問すると、メルケとトレブは困ったような様子で答えてくれた。
「あー……多分ですが……獣人族の方は店に馴染もうとわざとしていると思うのですが……カードゲームに興じていて……その、少し騒いでいまして……」
「それにリアム様たちとは別グループの客を装っていますので……リアム様たちも注意も出来ないようでして……」
あー……ベアリン達……想像がつくよ……
きっとこれから戦いがあると思って興奮気味なんだよね。
血が騒ぐってやつ?
店内でカードゲームをやって時間を潰すのは分かるんだけど……
多分本気で楽しんじゃってるんじゃないのかなー?
そんなメルケとトレブからの報告を聞いてアダルヘルムは良い笑顔を浮かべた……いや、お得意の氷の微笑だ……
そしてマトヴィルはと言うと……アダルヘルムとは対照的に「クックック……」と声を抑えて笑い、とっても楽しそうにしている。
たぶんベアリン達がこの後どうなるか、マトヴィルは想像し楽しんでいるのだろう。
ベアリン達……
ディープウッズ家に帰ったら、アダルヘルムからのお仕置き確実だよね。
明日の朝、皆起きてこれないかもしれないな……
想像するだけで顔が引きつってしまった。
ベアリン達……ウイルバート・チュトラリーよりアダルヘルムに気を付けて!
私も良い子にしていよう……
くわばらくわばら。
そんな魔王様降臨中のアダルヘルムは、メルケとトレブに頷くと、ポケットからスライム親衛隊のリーダーを取り出した。
「スライム、ベアリン達のスライムに連絡を……仕事を忘れないようにと注意して下さい」
「キュッキュー!」
リーダースライムはアダルヘルムの手のひらの中でブルルッと一度震えると、ベアリン達の傍にいる(ポケットの中に居る)スライムに連絡を送っているようだった。
ベアリン達……スライム語分かるのかしら?
と、少しだけ不安になったが、あのアダルヘルムが何も対策をしていないはずが無いなと思い至った。
きっと今頃ベアリン達はアダルヘルムからの連絡で震えあがっている事だろう。
とにかくリードとの面会前に興奮しすぎて疲れたら本末転倒だ。
それに大げさに騒ぎすぎて不信感を持たれても困る。
これで落ち着いてくれると良いけれど……
でも、さっきまで大騒ぎしてた人が急に大人しくなりすぎても、それはそれで可笑しいよね……
「ご、ご主人様……私は出かける準備の為着替えて参ります……少しだけ、ほんの少しだけお傍を離れることをお許しください!」
「えーと……ガマ……ケレイブさん、どうぞゆーっくりと着替えてらしてください、私の事は気にしなくても大丈夫ですからね……」
「はああああーーー! なんとお優しい言葉! 流石は我が主! ええ、ええ! この不詳ケレイブ、ご主人様の為にすぐに着替えて参ります! お任せください! 風よりも早く、脱兎のごとく――」
大袈裟な言葉で叫ぶケレイブはメルケとトレブに引き摺られるように部屋を出て行った。
そう、リードとの面会に合わせ、正装に着替えるためだ。
そして護衛役のメルキオールも、裏ギルドの護衛服に着替えるため、ケレイブと一緒に部屋を出て行ったが、その顔には苦笑いが浮かんでいた。
きっと、今夜これ(ケレイブ)を護衛するのか……と思うと頭が痛いのだろう……
でも私の前じゃ無ければ、ケレイブも普通の人のはず……
メルキオール、面会中は問題ないと思うので、護衛よろしくお願いしますね。
本当、一番大変な役回りでごめんねー。
ケレイブの着替えは宣言通りとても早かった。
髪はポマードで、ベッタリと張り付けていて、尚更ガマガエルさんらしさを醸し出していた。
どや顔で向けられた笑顔に凄く寒気がしたが、「素敵ですね……」と思いっ切りお世辞を伝えておいた。
勿論その後嬉しさのあまり床を転がりそうになっていたので、メルケとトレブにまた止められていた。
そしてメルキオールはと言うと……
裏ギルドの護衛服……
それは前世の任侠映画に出てくるやくざ役さんのような服装だった。
白っぽい……いや、シルバーっぽいスーツに黒のシャツ。
ゴールド地にアメーバーみたいな模様の入ったネクタイ。
その上サングラス……
今日会った裏ギルドの人は誰もこんな服装していなかったけれど……
これが本当に護衛さんの制服なの?
私の疑問が分かったのだろう。
ジュンシーがすっかりやくざ風になったメルキオールを見ながら、私の疑問に答えてくれた。
「ララ様、裏ギルドに制服はないのですよ」
「そうなのですか? えっ? でも……」
「ええ、今日会った裏ギルドの者達には私が用意した制服を着させました。ララ様がいらっしゃるのです、普段着のような服装のままではお迎え出来ませんからねー」
「そ、そうなのですね……ジュンシーさん、お気遣いありがとうございます」
では、このメルキオールの服装は何故こんななの?
と思ったら、それもジュンシーが答えてくれた。
「メルキオール殿の服装は、普段ケレイブの護衛をしている者に似せた服装です。あちら側に怪しまれないように、いつもの護衛が付いていると思わせようとした結果です」
「そうなのですね……派手な気もしますけど、これで護衛なのですよね?」
「ええ、これでも抑えた方です。ケレイブの本物の護衛は赤やピンクのスーツなども着ておりましたので、この色は最小限に華美さを抑えた物ですよ」
「そ、そうなのですね……えーと……メルキオール……凄く似合っています……その……とっても怖そう……いえ、素敵ですよ……」
メルキオールは苦笑いのまま「ありがとうございます」と答えてくれた。
そう、メルキオールは似合い過ぎているから可哀想になるのだ。
とっても素敵なんだけど、何だかちょとギラギラしてどぎつい。
それにしても……
こんな服どこで売っているんだろう……
王都の店で見たことないなぁ……
メルキオールの派手な洋服に釘付けになっていると、遂に時間となった。
「さあ、そろそろお迎えの時間ですよ……」
時計を見たアダルヘルムの声掛けに皆が頷いた。
遂に決戦の時が来たようだ。
リード!
絶対に捕まえるからね。
首を洗って待ってないさいよー!
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