第508話 やっぱりね……

「それではセオ様、ララ様、参ります」

「はーい、オッケーでーす」


 オクタヴィアンの掛け声で、ボール飛び出し魔道具から一球目のボールが飛び出した。


 そのスピードは、試験の時のボールと同じぐらいの速さだ。


 セオは難なく弾き、ボールは結界の壁まで飛んでいき跳ね返った。


 ボール飛び出し魔道具から飛びだしたボールより、セオが弾いたボールの方がスピードが速い。


 流石セオと言うか、ちょっとだけ凄い勢いで結界へ飛んで行ったボールが可哀想な気がした。




「では、次のスピード、行きまーす」


 今度は先程のボールよりかなり早めのボールが飛び出してきた。


 セオは勿論余裕でボールを弾くが、先日試験を受けていた学生たちには、これぐらいがギリギリ受けられるレベルな気がした。


 ボール飛び出し魔道具の設定にはあと三段階も残っているけれど、生徒達にはこれぐらいが限度かもしれない。


 ただし、騎士達が訓練用に使うとしたら、まあこれ以上のスピードが有っても良いだろう。


 それにこの試運転をあんなに心配していたクルトも、今のところは何も口を挟んでいないので、問題ないと言う事だと思う。


 まあ、まだ二球目だしね。


 と、私が一人うんうんと納得している中、オクタヴィアンはセオが問題なくボールを受けたのを見て、また速さを一段階上げた。


「ではセオ様、三段階目行きます。この辺から楽しくなりますよー」


 オクタヴィアンの掛け声で、ヨナタンがスイッチを押し、ボール飛び出し魔道具から飛び出して来たボールは、先程までの二球とは違い、ヒュンッと良い音を出して魔道具から飛び出した。


 ボールの形も楕円に見えるほどの勢いがある。


 セオの表情には確かに嬉しそうな笑みが浮かんでいた。


 パァンッ!!


 セオが弾こうとしたボールは、セオの腕にぶつかった瞬間破裂してしまった。


 セオは自分の力が強すぎたからだろうか? と心配し、オクタヴィアン、ヨナタン、マルコはボール自体の生地が弱すぎたからかもしれないと話出した。


 ベアリン達との実験では、ここまでの実験でボールが破裂する事はなかったそうだ。


 なので、ボールを新品にして今のスピードで再度試してみた。


「セオ様、同じスピードです。先程と同じ感覚で弾いてみて下さーい」

「了解」


 ヒュンッと飛び出したボールはセオが弾くと、今度は破裂する事なく、結界の壁へと飛んで行った。


 どうやら先程のボールは度重なる実験で、ボール自体が弱っていたようだ。


 でも多分それ程ボールは使っていない気がするけどね……


 私が苦笑いを浮かべる中、今度はボールの強度も調べなくてはならないと研究組が話していると、クルトが手を上げた。


「ゴホンッ、えー、この後二段階はこれよりスピードが早いのですよね? あー、それって需要がありますか?」

「クルトさん! 何を言っているのですか! 騎士になるのならこれぐらいのスピードは必要です!」

「クルト! そうだぞ何を言っているのだ、この速さは絶対に必要だぞ!」

「クルトさん、スピードは大事っすよ、騎士には絶対ですよー!」


 いつにない研究組三人の力の籠った物言いに、流石のクルトも頷くしかない。


 三段階目のスピードならば、確かに魔石バイク隊の皆は受ける事は可能だろう。


 今後ボール飛び出し魔道具を訓練で使うのならば、彼らが受けられるかどうかぐらいのボールも必要になる。


 今ボール飛び出し魔道具から出たボールは柔らかく、危険の無い物だし、万が一顔に当たってもちょっと痛いぐらいだ。


 体に当たっても危険もさほど無いので、研究組の意見ももっともだった。


 ただし、これ以上スピードが上がるとどうなるかは分からないけれどね……




「では、四段階目行きます!」


 オクタヴィアンもヨナタンもマルコも生き生きとしている中、ボールが勢いよく飛び出した。


 ギュンッ! と音を立てて飛び出したボールは、一つのはずなのにスピードが早いからか何個にも見えてしまう。


 そんなボールをセオはニヤリと笑い簡単に弾く。


 セオに弾かれたボールは結界の壁にぶち当たると、その勢いがついたまま、また別の方向へと飛んでいった。


 四段階目のボールはかなり早い、獣人族の血が流れるベアリン達でも受けきるのがギリギリだったんじゃ無いだろうか?


 セオが喜ぶ気持ちがちょっとだけ分かった。


 だって負けず嫌いだものねー。




「では最後の速さ、五段階目行きます!」


 オクタヴィアンの声掛けと共に、ボールがドンッ! と大砲でも打ち出されるような音を立てて飛び出した。


 ボールはギュンッと音を立てているが、一瞬でセオの目の前に着いた。


 きっと私も身体強化を掛けていなかったらボールが見えなかったことだろう。


 セオはその凄く早いボールを、弾く事なくキャッチしていた。


 負けず嫌いのセオの事だ、早いボールに完璧に勝ちたかったのだろう。


 弾いただけだと、たまたま手に当たって飛んでいったと思えなくも無い。


 スピードにも、ボールの威力にも勝った。


 セオはキャッチした事でそう皆に納得させようとしている気がした。




「おー! 流石セオ様です! ベアリンは最後のボールは胸で弾いたのですよー!」


 オクタヴィアン……それはもしやベアリンは最後のボールは見えなくって、胸に当たっただけなのでは? と、私にはそんな疑問が湧いた。


「セオ! セオ様よ! なかなかやるではないか! バーニー達は顔で受けていたぞ! セオはボールを捕まえた! 流石だな! ガハハハッ!」


 マルコ……それはバーニー達が受けきれなかっただけでは無いのかな? うん、私はそんな気がするよ。


「セオ様! 大成功です! セオ様がキャッチ出来るなら問題なしですね! 流石です、へへへ、やったな!」


 うん……ヨナタン……セオだからキャッチ出来たんだと思うよ……私はそんな気がするなー。へへへ……


 研究組がセオを囲み喜ぶ中、クルトは「やっぱりな……」と呟き大きなため息を吐いていた。


 とりあえず、普通のボールの試運転は成功? みたい。


 問題なし? で、良いんだよね?


 という事で……次は特殊ボールの実験に移ります。


 遂に私の出番かな! 頑張るぞー!

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