第507話  危険な試運転

「よーし! じゃあ、早速試運転してみましょうか!」

「ええ!」

「うむ!」

「おう!」

「ちょーーーっとまったーーー!」


 ボール飛び出し魔道具の試運転を私が提案し、オクタヴィアン、マルコ、ヨナタンが笑顔で頷いてくれる中、何故かクルトが慌てた様子で手を上げてそれを止めた。


 隣に立つセオも苦笑いを浮かべ、早速魔道具を起動させようとした私と研究組三人を見ている。


 ただ出来上がったボール飛び出し魔道具の性能を見ようと思っただけなのだけど、クルト的には何かが引っ掛かったようだ。


 私達が「どうしたの?」と首を傾げていると、クルトが真面目な顔で「ゴホンッ」と咳ばらいをし、話を始めた。


「ララ様……試運転をどこで行う気ですか?」

「えっ? 勿論ここでですけど?」

「ララ様……これは危険な魔道具ですよ……室内での実験は向いていないと思います……」

「えっ? クルト? 危険って……ただボールが飛び出してくるだけですよ?」


 そうこのボール飛び出し魔道具は、学校に入学前の子供が受けれる程度のボールがただ飛び出してくるだけの、そんな簡単で可愛い魔道具だ。


 別に命の危険がある様な、そんな恐ろしい魔道具ではない。


 それにボール飛び出し魔道具を改良するにあたり、ベアリン達に頼んで随時実験をしながら作業を行っていたはずだ。


 だからなぜクルトがここまで心配するのか、私には分からなかった。


 けれど苦笑いを浮かべたままのセオには、クルトの心配がよーく分っている様だった。


 クルトはまた「ゴホンッ」と一つ咳ばらいをすると、自分が心配する理由を話しだした。


「ララ様、良いですか、ビルが言っておりましたが、ボール飛び出し魔道具の実験をする時は、研究所の外で結界魔道具を使い、結界を張ってその中で行っていたそうです……つまり、その魔道具はビルから見てもとても危険という事です!」

「……クルト、確かに実験中は何があるか分かりませんから危険だとは思いますけど……でも、もうこのボール飛び出し魔道具は実験が終わって、後は試運転をするだけです。ベアリン達にも特に怪我もなくって問題無かったはずですよ? 何をそんなに心配するのですか?」


 クルトは私の言葉を聞き、大きな大きなため息を吐いた。


 そしてオクタヴィアンやヨナタ、それにマルコなど、実験を行った三人が、クルトの言っている意味が分からんという風に未だに首を傾げているのを、ジロリと一睨みする。


 そんな様子を見ると、なんだかクルト先生の授業を受けて居る時のような気分になる。


 多分マルコも私と同じ気持ちになったのだろう、ブルルッとして自分の体を抱きしめていた。


 マルコも私と同じでクルト先生の授業が苦手なようだ。


 クルトはそんな私とマルコの気持ちに気が付いているのかいないのか……またまた咳ばらいすると話しだした。


「ララ様、良いですか、ベアリン達には獣人族の血が流れているのです!」

「ええ、知ってますけど? それが何か?」

「はー……、良いですか、獣人族というのは人族よりもとっても丈夫なのです」

「はい……そうですね?」

「それにですね、ベアリンもバーニーもファルケもハーンもカシュも、みーーんなアダルヘルム様に鍛えられた獣人族なのです!」

「はい……そうですけど? 何か問題が?」

「問題大ありです! つまり、皆普通の人間の感覚では無いのです! ベアリン達が平気なものが入学前の学生に平気とは限らない! そんなものをララ様は今この部屋で使おうとしてのですよ! それがどう言う事か分かりますか?!」


 クルトのあまりの力の入れように、思わず頷いてしまう。


 確かにベアリン達は獣人族だし、アダルヘルムに鍛え上げられている。


 彼らが「全然大丈夫ー」「問題なしなしー」という言葉は危険……という事だろう。


 室内でのお試しは止めます……と素直に頷く私に、オクタヴィアンが助け舟を出してくれた。


「クルトさん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私も使ってみましたが、何の問題もありませんでした。このボール飛び出し魔道具は、全く危険なものではありませんよ」


 ニコニコ顔でそう答えたオクタヴィアンに、クルトの冷ややかな視線が向かう。


 何だかクルトがどんどんアダルヘルム化している気がするのは私だけだろうか?


 クルトはオクタヴィアン、ヨナタン、マルコに良い笑顔を向けると、また話を始めた。


 それも怖い笑顔を浮かべて……


「オクタヴィアン……君は研究員ですが、普通の研究員とは違います! 良いですか、騎士学校を良い成績で卒業し、この研究所で毎朝ドワーフ人形のセブとハッチと平気で手合わせしているそんな研究員です……そんな君が問題ないという魔道具が、本当に問題無いわけがない! 良いですか、とにかくこのボール飛び出し魔道具は外で試運転を行いなさい! それも必ず結界魔道具を使うこと! 良いですね!」

「は、はい!」


 クルトの言いたい事は、とにかく研究所にも、アダルヘルムの弟子にも、普通の人間はいない……という事だろう……


 そのな人間離れした人達が言う「危険が無い」という言葉を鵜呑みにするな……


 クルトが言いたい事が良く分かった気がした。


 結局私達はボール飛び出し魔道具を抱え、スライムたちが遊んでいる研究所の庭に出て、試運転をする事になった。


 そして勿論結界魔道具も使い、ボール飛び出し魔道具から飛び出すボールを受けるのも一番反射神経が良いセオになった。


 そう、そこまでしてやっとクルトの許可が下りたのだ。


 ボール飛び出し魔道具はそこまで危険な魔道具ではないと思うのだけど……


 クルトに逆らえる人はこの場には誰もいないのだった。

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