第501話 癒しの効果

 私はガマガエルこと、クロイド・ロッグの、血の契約により出来たアザに手を翳し、癒しを掛けた。


 こんな非人道的な魔法消えてしまえばいい。


 人を人と思わず道具とする魔法。


 相手が裏切らないように力で命を縛る魔法。


 そんなもの、消えてしまえ!  


 そう思いながら癒しを掛けると、アザが段々と薄くなり、そして本当に消えてしまった。


 血の契約は癒しでは消えるはずが無い。


 信じられなくてアダルヘルムへと視線を送る。


 驚く私とは違い、アダルヘルムは納得の表情だ。


 そしてジュンシーに至っては感動からか、神に祈っている様だった。


「流石私の恋人候補様! 素晴らしい!」となにやらブツブツ呟く声も聞こえる。


 アダルヘルムは驚く私を席へと座らせると、癒しでガマガエルさんの血の契約のアザが消えた理由を話してくれた。


「ララ様は以前、あの者に魔力を吸い取られました」


 アダルヘルムが言うあの者とは、勿論ウイルバート・チュトラリーだ。


 皆がアダルヘルムの言葉に頷く。


 だけどそれで何故、癒しが効いたの? と皆が首を傾げている。


 アダルヘルムは得意の氷の微笑を浮かべ、クスクスと笑いながら、嬉しそうに話を続けた。


「ララ様はあの者の夢を見ました。それはあの者と繋がっている……と言う事でしょう。あの者はララ様の力を手に入れれば、自分がより巨大な存在へと変わるとでも思ったのでしょうが、フフフ……このやんちゃなララ様の魔力ですよ、この私やマトヴィルでも手を焼くララ様の魔力です。それをあの者が簡単に抑え込める訳がない。きっと手に負えないじゃじゃ馬な魔力を感じて、段々とララ様の魔力に食われ始めているのでしょう。下手をしたらもう手を付けられない状態になっているのかもしれません、ララ様の夢の件が有って私はそう思ったのです……」

「食われ始める?」


 リアムが質問したが、私的にはアダルヘルムが言ったやんちゃとか、手を焼くとか、じゃじゃ馬とか言う言葉の方が気になったのだけど……そこはしかたがない。


 今は突っ込まず、無言で聞き役に徹する。


 ジュンシーも聞き役だけど、何故か乙女のようなキラキラした目をして話を聞いているが、まあ、そこはいつもの事だ。


 そんな皆の注目が集まる中、アダルヘルムの言葉は続いた。


「つまり、あの者は今ララ様の魔力に侵食され始めているという事です。魔力の殆どをララ様に食われている……と言ってもいいかも知れません……このカエルの契約の痕が消えたのが良い証拠です。あの者の魔法はララ様ならば消し去ることが出来る。そしてあの者の魔法ではララ様を攻撃は出来ないでしょう……なんせもはやあの者がララ様の小さな分身体とも言えますからねー」


 ウイルバート・チュトラリーが私の分身?


 それはそれで嫌だけど……


 アダルヘルム……私が侵食って……


 それってなんだか私の方が悪者の様な言い方じゃないですか?


 私は病原体か何かですか?


 そうは思ったけれど、空気を読める私はここでも突っ込まない。


 そう大人女子なのだ。


 なので私の代わりにリアムが質問をした。


「マスター、じゃあララが襲われることはもうないのでしょうか?」


 リアムが心配気に聞いてくれる。


 セオやクルトも同じ表情の中、ジュンシーだけは何故か残念そうだ。


 もしかしたら私が襲われて欲しいのかも知れない。


 その方が楽しい、ジュンシーはそう思っている表情だ。


 けれどアダルヘルムは残念そうに首を横に振った。


「多分あの者も何かしらの違和感に気がついているでしょう。その為尚更ララ様を執拗に襲おうとするかもしれません……」

「「「えっ?」」」

「ララ様を排除すれば違和感が消える……もしくはララ様の全ての魔力を奪いとってしまおうと、そんな馬鹿なことを考える可能性も有ります」

「そんな……」


 リアムやセオ、クルトが心配気に私を見てくる。


 だけどアダルヘルムはそうでは無かった。


「フフフ……ですが攻撃してくるのは所詮ウイルバート・チュトラリーの手下……皆あの者と血の契約を済ませている者たちでしょう……」


 そう、つまりアダルヘルムが言いたいのは、ウイルバート・チュトラリーたちは私を襲いたくても襲えないと言う事だ。


 ウイルバート・チュトラリーと血の契約をしている者たちの中には、当然私の魔力が流れている。


 その為彼らは私も主人だと認識してしまうと言う事だろう。


 いや、ウイルバート・チュトラリーの体の中で私の魔力が膨らんでいる今、私こそが主人だと勘違いする可能性もある。


 クスクス笑うアダルヘルムの言葉を最後まで聞いて、皆ホッとした様な表情になった。


 もうあの時の様な危険な事にはならない。


 その事を皆が安心しているようで嬉しかった。



「アダルヘルム、じゃあ私は襲われても、命は取られる事は無いと言う事ですね?」


 私の言葉にアダルヘルムは頷く。


 でもその笑みからはそれだけでは無い事が分かった。


 アダルヘルムはガマガエルさんに近づくと、血の契約が合った場所をジッと見つめた。


 そして何かに気がついた様にクスクスと笑いだした。


 怖い! 怖いよアダルヘルム!


 中年のおじさんの胸元見て嬉しそうだと危ない人だよー!


 私が心の中でそんな心配をしていると、アダルヘルムがニヤリと笑い答えた。


「癒しを掛けた今、この者の忠誠はララ様に移行しております……フフフ……痣のあった場所に金色の光の様な物が薄っすらと見えますか?」


 皆が半裸のガマガエルさんをジッと見つめる。


 そこには汗が光っているのかと勘違いするような光の痕が確かに見えた。


 ガマガエルさんが私の手下になるの?


 それはそれでちょっと嫌だなーと、感じてしまう私だった。

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