第500話 アダルヘルムの考え

 ジュンシーの話を聞いたリアムが、通信魔道具を使いアダルヘルムとマトヴィルを呼び出してくれた。


 リアムが最初にある程度簡単な話を伝えてくれていたので、凄い速さでスター商会へとやって来たアダルヘルムとマトヴィルのその顔は、真剣そのものだった。


 ウイルバート・チュトラリーを捕まえることが出来るかもしれない。


 今、その手掛かりを掴めた。


 これまでの彼からの攻撃(嫌がらせ)を思えば、二人に気合いが入るのも当然だった。


「リアム様、ジュンシー殿、この者がウイルバート・チュトラリーの手掛かりになる者ですか?」

「ええ、アダルヘルム様、以前頂いた薬が役に立ちました。お陰で何を聞いても素直に答えてくれますよ。フフフ……こんな簡単な尋問は初めてのことでございました」

「そうですか、それは良かったです……ふむ、この者にはまだ薬が効いている様ですね?」

「ええ、どうなっても構わないカエルですから、遠慮なく薬を使わせて頂きました」

「それはそれは……フフフ……後で色々と調べて見たいものですね……」


 怖っ! アダルヘルム、ジュンシー、怖っ!


 アダルヘルムは今まで使っていた真実薬を、リアムの兄であるロイドが住んでいたウエルス邸にあったあの赤い花を使い、改良した様だ。


 どうやらかなり強力な薬になった様で、ガマガエルこと王都の裏ギルド長クロイド・ロッグは、薬を使われてすっかり素直になっていた。


 まあそこはこの世界仕方ないのかなと思ってしまう。


 第一先に攻撃してきたのはガマガエルさんだものね、そこは何をされても文句は言えないだろう。


 それも手を出した相手が悪い。


 だって泣く子も黙る闇ギルド長のジュンシーだものね。


 そこは殺されなかっただけでもラッキーだったと言うべきだろう。


 まあ、ガマガエルさん的にはジュンシーをどうにか出来ると思っての攻撃だったのだろう。


 テゾーロとビジューが可愛すぎだのも、ガマガエルさんを油断させた一因の様だ。


 うん、可愛いぬいぐるみが強いだなんて普通は思わないものね。


 ちょっとだけガマガエルさんには同情するよ。


 でも自業自得だけどね。




「ジュンシー殿、私も質問して宜しいですか?」


 アダルヘルムがガマガエルさんの様子を調べたあと、そんなことをジュンシーに問いかけた。


 ジュンシーは勿論「どうぞ」と頷く。


 アダルヘルムはガマガエルさんの目や脈を調べたあと、上半身の服を脱がせ、背中と胸を確認していた。


 案の定ガマガエルさんの胸には血の契約の痕があった。


 胸というよりも、デップリと出たお腹のすぐ上辺りと言ってもいいのかも知れない。


 そのアザは魔法陣のように見えた。


 ガマガエルさんの命はウイルバート・チュトラリーが消そうと思えば、今すぐにでも簡単に消すことが出来るという事だろう。


 裏ギルドのギルド長で、散々悪いことをして来た人だと分かっていても、やっぱり目の前で人が亡くなるのは見たくは無い。


 ブルージェ領ではウイルバート・チュトラリーと血の契約をしていた人達が、塵となり沢山消えていった。


 人の命を命と思っていない彼の行動は、やっぱり許す事は出来ない。


 彼らの仲間であるガマガエルさんも、本来はきちんと罪を償うべきなのだ。


 なのに彼らの都合で消そうとするのは許せない。


 そう、綺麗ごとだと分かっていても、道具の様に扱われるのはやっぱり我慢ならなかった。


 こんな魔法は存在しなくていい。


 私はガマガエルさんのアザを見てそう思った。


「グレイブ……私の声が聞こえますか?」

「えへ、えへ、聞こえまーす。えへへ」


 ガマガエルさんはアダルヘルムの問いかけに笑顔で答える。


 その顔を見てちょっとだけ気持ち悪いと感じた事は秘密だ。


 だってアダルヘルムを見つめるガマガエルさんの目がハートに見える。


 それにちょっとだけ涎も垂らしている。


 アダルヘルムに恋するおじさまカエル。


 うん。そう見えて仕方なかった。



「貴方と契約している者の名は言えますか?」

「えへ、えへへ、いえましぇーん。だってお名前しらないもーん」

「相手は黒髪の少年でしたか?」

「えへ、えへへ、ううんー、見えなかったー」

「契約はどこで行ったのですか?」

「えへ、えへへ、えーとねー、占いのやか……グッ……ハッ……ゲホッ、あっ、ああ……」

「答え無くていい、落ち着いて……」


 ガマガエルさんは、情報を話そうとすると急に喉元を抑え苦しみ出した。


 確か血の契約をしていると主人に関する情報は話せないはず。


 アダルヘルムはどこまでの情報を話せるか試したのかも知れない。


 ちょっと怖いけどそれは仕方がないだろう。


 相手の情報はどうしても手に入れたいものなのだから……


「ふむ、ララ様、お願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

「えっ? は、はい、勿論です。なんでもやりますよ!」

「では、彼のこの契約の痕に、癒しを掛けて頂けますか?」

「癒し……ですか?」

「フフフ、ええ、癒しです。もしかしたらもしかするかも知れませんからねー」


 そう言ってニヤリと笑うアダルヘルムに頷く。


 血の契約は癒しでは消える事はない。


 主人との契約を切るか、どちらかが死なない限り切れない契約だ。


 だけどアダルヘルムには何か考えがある様だった。


 私はガマガエルさんに近づくと、胸元のアザに手を翳し癒しを掛けた。


 消えてしまえ! と祈りながら。

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