第479話 遂に受験です。

 季節は過ぎ、私は11歳となり、そして受験の季節を迎えた。


 学業と教養、そして魔法の勉強は、あの厳しいアダルヘルムからも太鼓判を押して貰える程の実力を身に付ける事が出来、明日受験でも大丈夫ぐらいな状態になっている。

 ただし、クルト先生から受けている乙女心の勉強は、未だにC判定ばかりだ。どうしても乙女心が分からない私に、とにかく人を惑わす様な行動だけはしない様にと、クルトは口酸っぱく言っていた。


 人を惑わすだなんてそんな恐ろしい事……と突っ込みたくなったけれど、クルトの迫力ある顔を見ては何も言い返す事は出来なかった。

 まー、目立たないで大人しくしてろって事だよね、と納得した私は、学校では良い子で皆んなに優しくしようと決めていた。どんな子にも笑顔で対応。それが入学後のモットーだ。


 私が受験生と言う事は、勿論メイナードもヴァージルも受験生と言う事で、メイナードはブルージェ領領民学校を受験する事が決まっていて、ヴァージルは新しく出来たブルージェ領商業学校を受験する事が決まっている。


 ブルージェ領領民学校はタッドが通っていた学校で、今はゼンやリタ、それにブライスが通っている。なのでメイナードは学校に行く事をとても楽しみにしていて、自分も首席を狙うのだと勉強をとても頑張っている様だ。タルコットもブルージェ領領民学校の卒業生だった様だけれど、成績はそこそこだったらしく、息子の頑張りを尊敬している様だった。メイナードにもヴァージルにも無理しない程度に頑張って欲しい物だ。


 そしてブルージェ領商業学校の方は、試験はそれ程難しくないので、ヴァージルは問題なく通ると思う。それにヴァージルは貴族の子だけあって、教養もきちんとできているし、母親思いの良い子の為、面接も問題なく通る事だろう。本人は少し緊張気味だったけれど、ヴァージルも主席を狙うのだと言っていた。

 これは私も二人に負けられないなと気合が入るのだけど、実は最大のライバルが私のすぐそばにはいる。そう、それがノアだ。


 ノアも勿論私と同じユルデンブルク魔法学校を受験する。

 実はノアは最初学校には行かなくっても良いかなーとも言っていた。それもその筈で、ノアは人形で出来ている。だから別に学校に行かなくても良いのだけれど……アダルヘルムからディープウッズ家の子が二人いると思わせたいと言われたため、ノアも学校入学を決めてくれた。


 そう、ウイルバート・チュトラリーたちに牽制を掛けたいのだ。

 彼らは私を狙いさえすればディープウッズ家はどうにでもなると思っている気がする。けれどディープウッズ家にはノアも居て、その上ノアも巨大な魔力を持っていて、それも私と同じように魔法が使えると分かれば警戒する対象が二人になるわけで……アダルヘルムは敵を惑わすためにも丁度いいだろうと「クックック……」と笑いながら言っていた……気がする。アレは私の幻聴だったのだろうか? いや違うと思う……


 そして受験生として頑張っている私だけれど、そこには嬉しい事が待っていた。

 それはブルージェ領商業学校の先生として、ジェルモリッツオの英雄カエサル・フェルッチョこと私の心の友であるカールが来てくれたことだった。


「もう私もいい歳だしね、いい加減一つの所に落ち着こうと思ってね」


 とカエサルはウインクをして私を驚かせてくれた。

 カエサルの永住先として自分の故郷であるジェルモリッツオではなく、私がいるブルージェ領を選んでくれたこともとても嬉しかったし、カエサルに商業学校の話をブルージェ領の商業ギルド長であるナサニエルやタルコット、それにリアムも話してくれていたことが嬉しかった。

 商業学校ではカエサルは基礎教育の勉学と基礎体育を担当してくれるようだ。教壇に立つのが楽しみだと言って笑顔を見せてくれた。カエサル先生カッコイイ!


 そして多分そのカエサルを追いかけて来たのではないかと思われる人物が一人……それがセオとルイが通っていたユルデンブルク騎士学校の先生であるアレクセイ先生だ。まさかユルデンブルク騎士学校を辞めてブルージェ領商業学校に来てくれるとは思わなかった。それだけカエサルに憧れている様だけれど……大丈夫なんだろうか? 何となくカエサルはアレクセイ先生の気持ちを分かっていて利用している様な気持ちになるのは私だけだろうか? 

 だってカエサルって意外といたずら好きだからね。リアムやセオも良く揶揄われているのを私は知っている。まあでもそんな人だからこそ、世界中を旅して英雄にまでなったのだと思う。遊び心がある人だからこそ、皆に好かれるのだ。私もいつかそうなりたいと思う。そうマトヴィルと世界旅行に行くまでにはね。



 そして元星の牙のメンバーで、奴隷落ちになってしまったマーティンは、今は無事にスター商会の護衛として働いている。でも担当場所は安心安全なブルージェ領側にしてあって、出来るだけ危険がない場所にしてある。心の傷はそんなに直ぐには癒える物ではない。マーティンは王都で奴隷にされてしまった。だからメルキオールや他の護衛の皆の心使いもあった。そんな優しい仲間たちと働けることにマーティンは感謝していた。


 そしてセリカだけれど、セリカは今キランと共にフォウリージ国へ行っている。

 実はキランがフォウリージ国に拠点となる部屋を借り、そこに転移部屋を繋ぐことに成功した。なのでこれからはいつでも報告に戻ってこれるのだけれど、男性だけでは入れない場所がどうしてもある為、セリカが居てくれる方がキランも助かる様だ。

 その為二人は姉弟設定で、ウッズ商会の従業員という事で貴族の屋敷へ行ったり、商家へと商談へと行ったりして、情報収集してくれている様だ。ちょっとだけクルトが心配そうにしていた事は見なかったことにした。

 だってクルトが心配しているのは、フォウリージ国が危険だからとかそう言う事ではなく、キランとセリカが一緒の家で生活しているという事だと思ったからだ。


 あの二人には同胞という事で恋愛感情なんてないように思えるし、本当に姉弟に思える時もある。けれどそこはクルトは恋する男。セリカの事が気になってしょうがない様だった。私の受験が終わったら、クルトも授業が無くなり少しは心が楽になるだろう。そうしたらセリカをデートにでも誘えばいいのになぁと私は思っていた。ちょっとだけ発破をかけてみようかな―とも考えて居る。クルトのテレ顔を見るのが今から楽しみだ。


 そしてウエルス兄弟の長男、ロイドだ。

 ロイドは今少し幼児化している。年齢的には10歳ぐらいの少年の様で、賢獣のブレイやリアナと庭で遊んだり、勉強したりと毎日楽しそうに過ごしている様だ。

 ガリーナの事は今はまったく口に出さなくなっていて、心も落ち着いているみたいだと、リアムとティボールドの話を聞いてホッとした。

 ただ、リアムとティボールドの事をロイドは兄上と呼んでいるみたいだ。まあ心が少年なのでそれもしょうがないのだけど、自分の兄に兄と呼ばれるのは不思議な感覚だと、リアムが照れ臭そうに話してくれた。ロイドの心は徐々に良くなっている所なので、今は絶対にガリーナには会わせるわけには行かないと、アダルヘルムは厳しい顔で言っていた。


 折角良くなり始めている状態のロイドが、今ガリーナに会うと心が壊れてしまう可能性があるらしい。なのでブルージェ領のウエルス邸の守りは厳重な物になっている。


 そう、じつはルタがウエルス邸に住み込んでくれているのだ。ルタはアダルヘルムの助手としてロイドの診察に通うようになっていた。実はコナーと同じチェーニ一族と言う事で、ルタにロイドが反応するか見てみたかったと言う理由もあった。


 けれどルタはチェーニ一族だけれど、髪色は紺と言うより藤色に近い為、ロイドは何の興味も示さなかったようだ。ルタを見てもガリーナの事を思い出さなかった為、安心出来たと言うこともある。


 ただし、チェーニ一族の特徴が色濃く出て居るセオは顔を出していない。残念ながら私もだ。

 たまに癒しを掛けにロイドの元に行くのだけれど、それはロイドがお昼寝をしている時に行っている。ロイドとはいずれ顔を合わせようと思っているけれど、もう少し落ち着いてからが良いかな? とアダルヘルムと相談中だ。折角良くなっている今、ロイドに余計な刺激を与えたくはないと思った。



「よう、ララ、店に来ても良いのか? もうすぐ受験だろう?」


 今日も忙しそうなリアムが、私の顔を見てニヤニヤしながらそんな事を言って来た。そう、スター商会には首席ばかりの子供達が揃っているので、これから受験の私を揶揄っているようだ。まったくこう言うところは相変わらず子供っぽい。まあそこがリアムの可愛い所でもあるんだけどねー。


「オホホホ、勉強は問題無く行っておりますので大丈夫ですわ。それに私はスター商会の会頭でございますので、店に顔を出さないわけには参りませんでしょう」

「ハハハッ、まあ、そうだよなー。ノアだって毎日来てるんだ、ララだって店に顔を出したいよなー」


 そう、ノアだって受験生だけど毎日スター商会に来て裁縫室に入り浸っている。まあ、ノアの場合人形なので一度記憶した事は忘れないって事もあるんだけどね。それにノアはクルトの授業を受けなくても良いぐらい優秀だしね。


「あー、それで、ララ、あの変な夢ってのはあれから見てないのか?」


 リアムの問いにこくんと頷く。

 私は夢の中で沢山の人達に癒しを掛けた。その時体が光っていたらしいのだけど、アレからセオと一緒に寝ているけれど、体が光ったとは言われていない。

 ただたまに夢の中で誰かに呼ばれている感覚がある為、また同じ事がありそうな気がしてならなかった。


 夢の事もその感覚の事も含め、リアムやスター商会の護衛リーダーのメルキオールには相談したのだけど、リアムは何故か話を聞いた後青くなっていた。

 そう、リアムは幽霊とかが苦手な為、夢の出来事がお化け屋敷の時のイザベラさんの時の様だったと伝えたら、怖くなってしまった様だった。夢の中の話だよな? と引き攣った笑顔でリアムは笑っていた。なので尚更気になって仕方がない様だった。話せばもっと怖くなるのにね。それでも聞きたくなるだなんて……リアムって不思議だ。


「でも……あの夢……なんか変だったんだよね……」


 ぼそりとそう呟く。何が変だったのかは上手くは言えないけれど、あの暗闇の中で私は何か大切な物を見つけた気がした。それが何かは分からないのだけど……


 今はそれよりも私には受験が大事だ。

 楽しみにしている学校生活の為に試験は精一杯頑張りたいと思う。首席はともかく先ずは学校に合格しないとだからねー。よーっし、頑張るぞー!

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る