第470話 遊びじゃないよお礼だよ
商業ギルドへは歩いて挨拶に行けたけれど、少し離れた場所にある闇ギルドへは馬車を使う。
かぼちゃの馬車へ乗り込み商業ギルドを出発することにした。
かぼちゃの馬車は王都でもかなり有名になって居て、スター商会の馬車だと気付かれることが多くなっている。なので馬車乗り場にはかぼちゃの馬車を一目見ようとすぐに人垣ができてしまった。
私は窓からそんな集まってくれた人たちに手を振った。子供が、それも女の子が手を振って来たからか、集まっていた商人らしき人達は、デレっと鼻の下を伸ばしているように見えた。
こんな小さな女の子でも心の癒しにはなる様だ。これからはもっと愛想よくした方が良いのかもしれない、そうすればスター商会の宣伝にもなるだろう。会頭として今私に出来ることはそれだと気が付いた気がした。
なので進む馬車の中、あちこちから集まる視線を感じては手を振ってみた。皆子供の私の姿が見えるとニコニコっとして手を振り返してくれる。時にはボーっとしているような人がいて、道端に落ちている馬糞を踏んでしまった人がいた。
スター商会の馬車を引くお馬さん達は、人形で出来ているので粗相をすることは無いが、普通の馬車のお馬さん達は遠慮なく道端にポトンとブツを落とす。勿論商業ギルドで雇われている掃除人達が、それを片付けてくれるのだけど、直ぐにとは行かない。なので手を振ることに夢中になってしまった人は残念な結果になっていた。
するとクルトが急に馬車のカーテンを閉めた。
折角のスター商会の宣伝になったのに……と思って居たら渋い顔でゴホンと咳ばらいをされた。それを見ているセオは面白そうな表情だ。流石に私もこういう時はクルトから何かを言われる事は学んでいる。今日のお小言は一体なんだろうと少しだけワクワクしたことは秘密だ。
「ララ様……これ以上被害者を作ってはいけません」
「被害者? それってお馬さんのうん――」
「ララ様! とにかくどこでもかしこでも愛想を振りまいてはなりません。これでは被害者が増える一方です……ハアー、ギルドにいたフレディも心配ですね……」
「えっ? フレディもお馬さんのうん――」
「ララ様、ララ様はエレノア様の娘だという事をもう少し自覚してください。ララ様は歩く危険人物なんです。まさに爆弾。いえ、破壊兵器です……街中の者が被害者になりかねません。とにかく知らない人物にニコニコとしないようにお願い致します」
クルトの言って居る言葉を何度もツッコミそうになったが、そこは学習能力が高い私だ。黙って頷いておいた。それにしても何故お母様に似ていると危険人物になるのだろう……お父様ならまだわかるけど……お母様は見ているだけで幸せになれる様な人なのにね。
クルトに意味不明な注意を受けていると、あっと言う間に闇ギルドへと着いた。
ジュンシーには今日の訪問は伝えて居ないし、闇ギルドは夕方から開店なので、もし誰もいなかったらまた夕方にでも顔を出そうと思って居たら、入口には屈強な護衛らしき人物が二人程立っていた。
かぼちゃの馬車の事を知っているからだろう、馬車が見えた途端1人が慌てた様子で闇ギルドのギルド内に走って入っていく姿が見えた。多分ジュンシーを呼びに行ってくれたのだろう。夜遅くまで営業している闇ギルドだ。もしジュンシーがまだ寝ているのなら、お礼の品だけ置いて帰ろうと思って居たのだけれど、どうやらそれは叶わないようだ……残念。
決してジュンシーに会いたくないわけではない……そう、一応恋人候補だしね……
馬車からクルト、セオ、そして私の順番におりていると、ジュンシーがメルケとトレブ、それに仲良く手を繋いでいるテゾーロとビジューを連れてやって来た。
冷酷非情と噂されているらしいジュンシーだけれども、とっても良い笑顔で出迎えてくれた。私達が突然来ても歓迎してくれている事がその笑顔で良く分かった。
「ララ様、いらっしゃいませ、本日はどういたしましたか?」
「ジュンシーさん、突然ごめんなさい。おもちゃ屋さん開店時にお手伝い頂いたお礼をさせていただきに来たのです。お忙しいならプレゼントだけ渡して帰ります」
「いえいえララ様、私達は恋人候補です。恋人が『会いたくって来ちゃった♡』と言うのは当たり前の事でございます。ララ様にならいつでもお越しいただいて私は構いませんよ」
「あ……ありがとう……ございます……テゾーロ、ビジューこんにちは、今日も可愛いですね」
(カミサマ カワイイ ジュ モ カワイイ)
(神様 ようこそお越し下さいました)
「二人共きちんとご挨拶できておりこうさんですね、ジュンシーさんの教育が良いのでしょうね」
(ジュ イイコ)
(ジュ様は素晴らしいです)
相変わらずテゾーロもビジューもジュンシーへの愛は熱い様だ。
ジュンシーも子供たちへの愛が重いからか涙を流さんばかりに喜んでいた。
そんな様子の闇ギルドメンバーに案内されてジュンシーの執務室へと向かった。
お茶を出してもらい、早速お礼の品を渡す事にした。
先ずはジュンシーからお願いされていたテゾーロとビジューの衣装だ。
ジュンシーが良く着ているタキシードをお揃いで作ったものや、夏のアロハ風シャツ。それに魔石バイク隊の制服や、スター商会の各店の制服、勿論普段着などもいくつか作ったので全てテーブルに出して見せた。
ジュンシーは勿論いつものように天に祈るかのように喜んでくれて、テゾーロとビジューも二人で可愛くぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでくれた。気に入って貰えて良かったと思う。作った甲斐があると言うものだ。
「ララ様! なんと素晴らしいっ! これが全てララ様の手作りで在らせられるのならば、全て国宝級でございます。このまま額に入れて飾っておきたいぐらいでございます、ああ……なんと、なんと……」
「あー……ジュンシーさん、テゾーロとビジューの洋服はいつでも作りますのでちゃんと着せてあげて下さいね……」
「ええ、勿論でございます。テゾーロとビジュー自体が宝ですから、宝に宝を着せても宝の価値が上がるだけでございますから何の問題もございません。テゾーロとビジューの事はこれまで以上に私の宝として大切に育てさせていただきます!」
(ジュ モ タカラ)
(ジュ様も私の宝です)
宝、宝と連呼されて意味が良く分からなかったが、取りあえず大満足なのだけは分かった。
けれどプレゼントはこれだけは無い。丁度お昼時だしきっと喜ばれることは確実だろう。ジュンシーに洋服をサッサと片付けて貰うと、テーブルに今度は違うものを出した。
「ジュンシーさん、これも私が作ったものです。どうぞ開けて見て下さい」
「はい、有難うございます……こちらはなんでしょうか? 箱を布で包んである様ですが……」
「フッフッフ、まあいいではないですか。ジュンシーさん、何も考えずドーンと開けて見て下さい」
ジュンシーは頷くと、布を外し箱を開けた。
すると私の予想した通り目を大きく開けて輝かせ、箱のふたを持ったまま震えてもいる。ドッキリは成功したようだ。
「ラ……ララ様……これは……」
「えへへー、テゾーロとビジューのキャラ弁です。どうですか? 可愛いでしょう?」
「可愛いだなんて言葉ではすみませんっ! これは芸術です! アートです! こんな物をお作りになられるなんてララ様はなんと素晴らしい方なのでしょう……ああ……ララ様と同じ時代に生まれ出たことを感謝しなければなりません、生きているうちにこれ程のものと出会えるなんてっ!」
「えーと……ジュンシーさん、これは食べ物ですので……今日のうちに皆で食べて下さいね」
「こ、これを崩して食べるのですか……? そ、そんな……魔法袋に……」
「ジュンシーさん、また作りますから。ねっ、食べましょうね」
泣きだしそうなジュンシーを何とか説得し、皆でお弁当を食べた。
ジュンシーはテゾーロとビジューを模ったおにぎりを大事そうに食べていた。他のおかずも可愛く作ってあるので、メルケとトレブはジュンシーの顔色を伺いながら、どれに手を付けて良いかを気にして食べていてちょっと可哀そうだった。きっと食べた気にはならなかっただろう。後でパンでも渡しておこう。
お昼を食べ終わったらジュンシーたちに別れを告げスター商会へと一度戻った。
これからブルージェ領側の商業ギルドへ向かう。今度はナサニエル達にお礼を言いに行くからだ。
ブルージェ領側のスター商会へと移動し、イライジャとジョンに顔を見せた。いつも通り今日も二人は忙しそうだ。
ルベルはおもちゃ屋さんが開店してから連日忙しくって、暫くはそちらに掛かりきりのようだ。
なのでこれ迄ルベルが担当していた仕事も今はイライジャとジョンが受け持っている。もう暫くしておもちゃ屋さんが落ち着けば、ユーゴとサスケリオだけでおもちゃ屋さんは回っていくだろう。それまでの辛抱だ。
ルベルはおもちゃ屋さんの商品の担当なので、店にはそれ程立ちはしなくなる。商業ギルドへ行ったり、研究所行ったり、それから王都のおもちゃ屋さん担当のチコと相談して店の方向性を決めて行く事がメインだ。
けれどそれだけでなく一緒におもちゃ屋さんの商品などを幼馴染のユーゴと相談しながら作っていくので、その事も楽しい様だった。
サスケリオも何だかんだとユーゴとルベルと仲が良いので、気兼ねなく相談し合える事でブルージェ領のおもちゃ屋さんは益々発展するだろう。
そう考えるとおもちゃ屋さんが落ち着くのはまだまだ先になりそうだ。取り敢えずパートもアルバイトも、それにスライム達もいるので運営は大丈夫だろう。
そんな事をイライジャ達と話した後、今度こそブルージェ領側の商業ギルドへ向かう事にした。
「ララ様、ナサに宜しくお伝え下さい。商業学校の方の教員の面接の際は、私も行くともお願いします。まあナサの事ですから分かっている筈ですがね」
「はい、了解です。しっかり伝えて来ますね」
イライジャの執務室を出て玄関へ向かう。
途中護衛のブランディに会ったので、抱っこしてもらった。また成長したと言って貰えたので私の女子力が上がった証拠だろう。
嬉しいことがありニヤニヤしながらスター商会の門を出ると、クルトに顔が緩んでいると注意されてしまった。
何だかクルト先生の授業を受けてからクルトは口煩くなってる気がする。
そんな事を考えているとあっという間に商業ギルドに着いた。久しぶりのブルージェ領側の商業ギルド。とても楽しみだ。
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