第464話 おもちゃ屋さんの開店準備。
「リアム、ララ様ー、こんちはー」
ルイスは相変わらずの気軽な感じでスター商会へとやって来た。
来て一番に声を掛けるのはやっぱり初恋の君であるリアムにだ。リアムも嫌そうな表情をしながらもルイスに抱き着かれてテレているのが分かる。やっぱりマブダチだとお互いに思っている様だ。まだ学校に行って居ない私としては羨ましくもある。
「おい、ルイス抱き着くのは良いから早くララに紹介しろよっ」
リアムの頬にキス迄しそうになって居るルイスをリアムがひっぺ剥がすと、ルイスは自分が商業ギルドのギルド長だったことを思いだしたかのように「そうだそうだ」と言いながら、初めて私が会う男性の肩を抱いて紹介を始めた。
「ララ様、こいつはガレオ。王都のおもちゃ屋さんの店長になるやつだー。俺とリアムの同級生でもある。つーまーりー、ブルージェ領の店長より若い! そしてこっちは副店長のケレンゾウ。こいつはまだ18歳だけどしっかりしてるやつだぜー、それーになんてたって若くってピッチピチだ。ブルージェ領の店長たちにはない可愛らしさがあるだろう。へへへーん」
ルイスはまるで若さだけで店長、副店長を選んだかのような事を言って居るが、それだけではない事はランスが面接をしたことで証明されている。(たぶん……)
店長を任せるガレオと紹介された男性の方は、淡い黄色のふわふわとした髪で、大きなぱっちりとした瞳も淡い黄色だ。まるで男の子の花の精みたいな可愛い容姿だ。同級生だというルイスやリアムよりも年下に見える。
そして副店長を任せるケレンゾウの方は、スポーツ少年と言った感じで日に焼けていて色黒で、髪はこの世界で一般的な茶色の髪をしているけれど、この子も可愛いし、童顔でセオと変わらない位に見える。
ルイスの採用基準が ”若く見える事” だったとしたら大当たりと行ったところだろうか。ブルージェ領側の店長たちと張り合っていたようだけど、その相手であるナサニエル達は全く気にも掛けて居ない気がする。
それが返ってルイスの闘志を燃やしてしまうのかもしれないけどね。
「会頭様始めまして。ぼ、いえ、私はガレオと申します。この度店長を任されることになりました。精一杯頑張りますので宜しくお願い致します」
「俺はケレンゾウです。宜しくお願い致します」
ガレオは自分の見た目が分かっているのか可愛らしくニコニコっと笑い、ケレンゾウの方は少し頬を染め恥ずかしそうな様子だ。二人共私に手を差し出してきたので私も笑顔でそれを受ける。見た目からも子供に好かれそうな二人組だ。
「初めまして会頭のララ・ディープウッズです。気軽にララと呼んでくださいね。これから宜しくお願いします」
「ララ様よー、こいつ可愛いー顔して猫被ってるけどさー、俺達と同い年だからなー、甘やかさなくってもいいんだぜー」
ニヤニヤしているルイスに肩を抱かれていたガレオは、笑顔のままルイスのわき腹を肘でどついた。キッチリ良い場所に入ったのだろうルイスはお腹を押さえて「ううう……」と唸りながら倒れ込んでしまった。そんな二人の様子をリアムが面白そうに見ているのでこれが日常茶飯事な事は分かる。それに何となくこの三人の力関係が分かったような気がした。多分一番強いのはガレオなのだろう。見た目は一番幼くって可愛いけどね。
「ララ様、僕は本来は事務職が得意なんですが、ずっとスター商会で働けたらと夢見ておりました。こんなに早くチャンスが回ってくるとは思わず、今とても興奮しています。ブルージェ領のおもちゃ屋さんに負けないように頑張らせて頂きますね」
ガレオは別の商会に勤めていたようだが、スター商会の話を聞いてからずっと働きたいと思ってくれていたらしい。王都に店が出来て買い物に来てから尚更その気持ちが強くなったそうだ。有難い。
なので友人のルイスに良い求人が出たら紹介して欲しいと頼んでくれていたようで、直ぐに求人がかかったパティシエは流石に無理だったので、今回のおもちゃ屋さんの店長は願ったり叶ったりだったらしい。こちらとしては有難いけれど、スター商会のどこが気に入ったのだろうか。
「ララ様、僕はですね、実は可愛い物が大好きなんです。スター・ブティック・ペコラでぬいぐるみを購入してからは僕にはこの店しか無いと思って居ました。おもちゃ屋さんなんて可愛い物が沢山あるじゃないですかー、本当最高ですよ。ああ、ドールハウスも勿論購入していますよー」
ルイスがぼそりと「可愛い物より自分に似合う可愛いもんが好きなだけだろ……」と小さな声で呟いていたが丸聞こえだ。あとでガレオにしばかれないと良いけれどと少し不安になった。
だってガレオのルイスを見る目は笑って居なかったからね。ちょっとだけアダルヘルムの事を思いだしたのは内緒にしておこう。私が震えそうだからね。
「えーと、俺もスター商会で働きたかったです。その……尊敬してます!」
「えっ……?」
「俺、会頭を……ララ様を尊敬してます。ブルージェ領の祭り……家族で行ったことあって、あんな仕事に就きたかったんで、今スッゲー幸せです。俺、副店長絶対頑張ります!」
「ケレンゾウ、どのお祭りに来てくれたの?」
「あ、あの……夏の祭りに……成人した年に……ビールもそこで初めて飲みました。と、とても美味かったです!」
「わあ、本当に?! ケレンゾウ有難う、とっても嬉しいです」
嬉しくってケレンゾウにぎゅっと抱き着けば全身が真っ赤になってしまった。
そう言えば私も少しは成長してる、急に女の子に抱き着かれたら年が離れているとはいえ恥ずかしくなるだろう。お年頃のケレンゾウには申し分けない事をしてしまった様だ。これでは痴女になってしまうだろう。反省だ。
そんな訳で王都もブルージェ領もおもちゃ屋さんの店長、副店長は無事に決まり、忙しい準備期間に入ることになった。先に開店するのはブルージェ領なので、私もブルージェ領のおもちゃ屋さんの手伝いに向かった。
店舗は既にビルとカイが子供が喜ぶ秘密基地の様に建ててくれてあるので、おもちゃを陳列する作業を手伝う。研究所のスライムたちもオクタヴィアンとヨナタンの訓練を受けて成長し、今日はお手伝いに来ている。
動きはアダルヘルムのスライムと違って揃ってはいないが、それでも各自必死に仕事をしてくれている。軽く小さな荷物なら一人で運べるし、少し大きな荷物は二人でペアーを組んではえっちらおっちらしながら運んでいてとても可愛い。
ただそれを嬉しそうに見つめるセオの手が止まってしまうので仕事量的にはマイナスかもしれない。でも癒されるので良しとしよう。
「コラ、何をしてる、ビッグお前も手伝うのだ!」
マルコが一生懸命声を掛けて居るのは大きなスライムだ。
マルコはビッグと大きなスライムにそのまんまの名前を付けて可愛がっている。ふてぶてしさがあるのか、面倒なのか? 仕事をする気が無い様で、窓辺に座り日光浴にいそしんでいる。
体もまた大きくなったようだし、その態度からマルコの事を主として敬って居ない事だけは良く分かる。これでここで働けるのだろうか、心配だ。
「なんだ、スライム、お前サボってんのか?」
ビックの所に店長であるユーゴが近づいて行くと、スライムのポヨポヨボディをぎゅっと抱きしめ抱え上げた。あの子はかなり重いと思うのだけど、ユーゴは全く気にしていない様子だ。自称主のマルコと副店長のサスケリオがその様子を口を開けて見ている。まさかビックの事を持ち上げれるとは思わなかった様だ。
「スライム、お前の名前はビックだったか? いいか、この店は俺が任された。サボるやつに飯は無い。お前、スライム液と水が無いと消えちまうんだってなー、俺はそれでもかまわないが……どうするよ?」
ビックにご飯無しは拷問に近い事だったのだろう。ユーゴに脅しともとれる声を掛けられたビッグは、これ迄目にしたことの無い速さで動き出した。重い物もビックは平気で運んでいるし、大きな体に似合わない俊敏さも持っていた。どうやらユーゴには逆らってはいけないと本能で悟ったようだ。
「ハハハッ、マルコ、あいつ可愛いな。ウチの一番下の弟の小さい頃みてーだ」
「ララ様、ユーゴは五人兄弟なんすよっ、みーんな男でみーんなそっくりっす。一番下の弟はぽっちゃりでビッグみたいなんっすよー」
「仕方ねーだろ、近所のおばちゃん達が可愛いってんで色々食べさすんだからよー」
「フフフ、ユーゴの本当の姿はそんな感じなんですねー、最初の挨拶の時とは別人みたいです。頼もしいお兄さんって感じですね」
「いや、すみません。あの時は緊張してて……ララ様にも良いところを見せたかったんで……」
「ララ様、ユーゴは乱暴もんっすからねー、気を付けて下さいっすよー」
「うっせー、お前には言われたくはねーよ」
ユーゴに頭をチョップされても嬉しそうなルベルの様子に、二人が幼馴染で仲が良いことが良く分かった。
そんな二人の事は気にも留めず、マルコは自分のスライムであるビックの隠された才能に喜んでいて、サスケリオは他のスライムたちと黙々と仕事をしていた。
きっとブルージェ領のおもちゃ屋さんはこんな風に和気あいあいとした雰囲気で開店するだろう。子供たちも喜んでくれる事は間違いないと思う。
そして午後からはオクタヴィアンやヨナタン、それにスライムたちを半分連れて王都のおもちゃ屋さんの準備に向かった。こちらの店の方が少しだけ小さい作りになって居るが、商品の数は変わらないため陳列が難しくなる。けれどそこは可愛い物が大好きだと言って居たガレオが張り切っていた。
女の子が好きそうなぬいぐるみなどの物は綺麗な色合いに並べ、男の子が好きそうな玩具はすぐに使ってみたくなるような、動きが想像できる様な形でショーウインドーに飾っている。
勉強用の商品も子供が興味を持つようにカードゲームか何かに思える様なポップ迄付けていた。流石は商業ギルドのギルド長のルイスのお勧めの人物だ。仕事が出来ると言うべきだろう。
今日の準備の仕事を終えた後は、先日スター商会に来たばかりのヴァージルとメリッサ親子の元へと向かった。メリッサはすっかり元気になり、ロージーの仕事を手伝いながらブルージェ領に出来る商業学校の教師になる為の準備をしている。
これから慣れていない教壇に立つので緊張もある様だ。家庭教師はしたことがある様だけど、個人を相手にしていたので大勢の生徒の前に立つのはやっぱり違うようだ。暫くはスター商会の子供たち相手に練習するそうだ。頑張って欲しい。
「ララ様」
「ヴァージル、どうですか? 勉強は進んでいますか?」
「はい、とっても楽しいです。僕もタッドやゼンの様にスター商会の仕事をしながら勉強します」
ヴァージルはタッドやゼンが学校から帰ってくると色々と教わっていて、二人にすっかりなついてしまった。元々タッドは面倒見がいい皆のお兄さんなのでそれも当然の事だろう。ゼンもメイナードとヴァージルを同じ様に自分の弟の様に可愛がってくれている。そんな二人にヴァージルが憧れを持つのは当然だった。
「ヴァージル、無理せず出来ることを一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
スター商会に来た時よりも元気なヴァージルの笑顔を見て私も疲れが吹っ飛んだ気分だった。
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